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ゴミスキルだと捨てられた少女たち、実は最強の生活能力スキルだったので気楽なスローライフ冒険旅を満喫する  作者: 鳥助


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48.頃合い

「今日もお疲れさまでした。とても活躍されていましたね」


 受付カウンター越しに、お姉さんが柔らかな笑みを向けてくる。忙しそうに書類を捌いていた手を止めて、わざわざ声をかけてくれたらしい。


 その一言だけで、胸の奥がじんわりと温かくなった。


「ありがとう」


 自然と顔がほころぶ。隣ではサリサが腕を組んで、いかにも誇らしげに頷いていた。


「うむ、当然の結果じゃな!」


「もう、サリサはすぐそうやって……」


 ティナが呆れたようにため息をつくけれど、その口元は少し緩んでいる。みんな、悪い気はしていないのだ。


 そんな私たちを見て、お姉さんはくすりと笑った。


「最近は特に噂になっていますよ。ベリアットの特殊個体を討伐した件もあって、皆さんの名前はだいぶ知れ渡ってきています」


「え、そんなに?」


 思わず聞き返してしまう。ギルド内を見渡すと、確かに視線を感じた。ひそひそと囁く声や、興味深そうにこちらを見る冒険者たちが増えている。


 さっきまで気づかなかったけれど、言われてみれば明らかだった。


「このままいけば、指名依頼が入るかもしれませんね」


「指名依頼?」


 首を傾げると、お姉さんは丁寧に説明してくれる。


「商会や貴族から直接指名される特別な依頼です。成功すれば報酬も高いですし、ランクアップに必要なポイントも多く得られますよ」


「へぇ……」


 確かに、それは魅力的だ。効率よく稼げて、評価も上がる。普通の冒険者なら、きっと喜ぶ話だと思う。


 でも……それってつまり、注目されるということだ。名前が広まる。実力が知られる。どんな戦い方をするのか、どんなスキルを持っているのか。そういう情報が、少しずつ外に漏れていく。


 それは、あまり良くないかも。私たちの強さは、普通の冒険者とは少し違う。私が作る料理で経験値を貰いレベルアップして、魔物を食べると能力が貰える。


 それが広く知られてしまえば、利用しようとする人間が必ず出てくる。貴族や商会の中には、力を都合よく使おうとする者もいるだろうし、もっと悪い人たちに目をつけられる可能性だってある。


 そうなれば、依頼どころじゃない。面倒事に巻き込まれて、自由に動けなくなるかもしれない。


 ……それは、絶対に嫌だ。せっかく手に入れた今の生活を、壊されたくない。みんなで自由に冒険して、美味しいものを食べて、笑っていられる時間。


 それを守るためには、一か所に留まっているのは危険だ。デルマたちを見てみると、かなり立派になっている。装備も整え、レベルもスキルも充実して、中級冒険者の実力がついてきた。


 もう、私たちなしでもやっていける。私たちが守る必要がないってくらいには力が付いた。当初の目的は達成されていたのだ。


 ということは、これ以上何かをするとみんなを厄介事に巻き込んでしまう可能性がある。もしかしたら、酷いことになる可能性だってある。


 ……だったら、ここが引き際だ。もう、生活が苦しいわけじゃないし、後はみんなで協力して生きていけば問題ない。


 うん……私たちがここを離れる時が来た。


「メル、どうしたんですか?」


「なんか、真剣に考えているようじゃったが……」


「何かあったのか?」


 みんなが心配そうに声をかけてきた。


「あのね、聞いて欲しい話があるの」


 ◇


「えっ!? ここを離れるって本当ですか!?」


 テレセスの声が、食堂に大きく響いた。手にしていた布巾を落としそうになりながら、こちらへ一歩踏み出してくる。


「どうして、急に……」


「急、ではないよ。ずっと考えてたの」


 私はゆっくりと言葉を選ぶ。けれど、テレセスは首を横に振った。


「でも、ここでの生活は安定していますし、冒険者ギルドの方々もよくしてくださっています。それに……私だって、皆さんを支えます」


 まっすぐな目で訴えてくる。迷いのない、強い意志を感じる。


「子供だけで旅をするのは、大変です。危険も多いですし、苦労も……。無理をして外に出る必要はないと思います」


 その言葉には、心からの心配が滲んでいた。だからこそ、胸が少し痛む。


「……ありがとう、テレセス。でもね」


 私は小さく息を吸って、続けた。


「これ以上ここにいると、迷惑がかかるかもしれないの」


「迷惑……?」


「うん。今、私たち、かなり注目されてるでしょ? 特殊個体の討伐もあったし、指名依頼の話も出てる」


 テレセスは黙って聞いている。


「そうなると、色んな人が近づいてくると思うの。良い人ばかりじゃない。中には、私たちの力を利用しようとする人もいるかもしれない」


 言いながら、自分の中でその可能性がどんどん現実味を帯びていく。


「もし、そういう人たちに目をつけられたら……きっと、ここにも影響が出る。孤児院のみんなに迷惑がかかるかもしれない」


「それは……」


 テレセスが言葉に詰まる。


「そんなことには、絶対にしたくないの」


 はっきりと言い切る。この場所は、大切だから。守りたいから。だからこそ、離れる。


 その考えを聞いた瞬間、テレセスは顔を上げた。


「……迷惑だなんて、思いません」


 きっぱりとした声だった。


「ここにいる誰も、そんなこと思いません。むしろ、皆さんがいてくれたから、今の私たちがあります」


 強い気持ちが伝わってくる。何も疑っていない、純粋な好意に心が温かくなった。


「もし何かあったとしても――その時は、私が守ります」


「テレセス……」


「私も、メルの料理を食べて強くなりました。レベルも、スキルも、前とは比べ物にならないくらいです。この力は、皆さんに貰ったものです」


 胸に手を当てて、まっすぐに言い切る。


「だから今度は、私が守る番です」


 その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。本気で言ってくれているのが、伝わってくるから。


 ああ……やっぱり。この場所が、好きだ。優しくて、温かくて、みんなが支え合っている。離れたくないと思ってしまうくらいには――大切な場所だ。


 でも。


「……うん。ありがとう」


 だからこそ、私は首を横に振った。


「でもね、やっぱりダメなの」


 テレセスの目が揺れる。その気持ちに寄り添いたいと思うのだけれど、今は寄り添えない。だって、寄り添いすぎるのは良くないから。


「好きだからこそ、迷惑はかけたくないの。優しいみんなだから、きっと無理をしてでも守ろうとしてくれるでしょ?」


「それは……当然です」


「うん。だからこそ、ダメなんだよ」


 静かに言う。


「私たちは、元に戻るだけだから」


「元に……?」


「うん。もともと、旅をしてたでしょ? それに戻るだけ。ここで得たものを持って、また進むだけだよ」


 笑ってみせる。できるだけ、軽く。テレセスもみんなも悲しませないように。


「大丈夫。ちゃんとやっていけるよ」


 そう言いながらも、胸の奥が少しだけ締め付けられた。それでもこの選択は、間違っていないと思う。大切なものを守るための、前向きな一歩だから。

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