47.ベリアットのローストビーフ
「どうじゃ! わらわが倒したんじゃぞ!」
サリサが受付カウンターにベリアットの特殊個体を出した。その瞬間、冒険者ギルド内が一気に沸いた。
「本当に倒してきた! 強すぎるだろ!」
「怪我はしなかったか!? みんな、無事か!?」
「無茶しやがって!」
周りにいた冒険者たちがあっという間に私たちを取り囲み、サリサの頭を撫でてもみくちゃにした。
「はっはっはっ! もっと、褒めろ! もっと、褒めるのじゃ!」
「もう、サリサったら……調子に乗って……」
「ふふっ。久しぶりの活躍だから、嬉しくなったんだよ」
サリサは腰に手を当てて、体を反って笑っている。その姿を見てティナは呆れているけれど、私は褒められたサリサが誇らしかった。
「サリサ、本当にありがとうございます。これで、他の冒険者が安全に活動することが出来ます」
「よい、よい。そんな事よりも、報酬はたんまりと貰えるんじゃろうな?」
「もちろんです。三十万コルトをお支払いします」
「おほー! 三十万コルト! これは、嬉しいのじゃ!」
その金額を聞くと、サリサが飛び上がって喜んだ。その喜びように、他の冒険者たちはさらに誉め言葉を投げかけた。
◇
「よし、解体完了!」
教会に戻ってきた私たちはベリアットの特殊個体を売らずに持ち帰った。そして、すぐに解体をすると様々な肉の部位に切り分けられた。
「今回はどんな料理にするんじゃ!?」
「牛の魔物だから、牛料理をすればいいんだけど。色々あって悩むなー。どんな物が食べたい?」
「さっぱりとして食べ応えのあるものが食べたいです」
「それだったら、ローストビーフがいいかな」
「それは美味しそうですね。私も手伝いますね」
作る料理が決まると、テレセスが手伝いに名乗りだしてくれた。使う部位だけ切り分けて、残りはサリサのアイテムボックスに収納してもらう。
それから肉の塊を持って、キャンピングカーのキッチンへと移動する。
「じゃあ、テレセスには付け合わせの野菜の処理をお願いしようかな。まずは、マッシュポテト」
「茹でて潰した芋ですね。それなら、大丈夫です」
ネットショッピングから芋を買って、それをテレセスに手渡す。私は肉の塊と向かい合って、処理を始める。
肉にフォークでたくさんの穴を開ける。それが終わると、すりおろしたにんにく、塩、胡椒、オリーブオイルを塗り込んで、しばらく放置する。
味が染み込んだら、フライパンにベリアットの油を溶かし、肉の塊に焼き目をつけていく。全体に焼き目が付いたらフライパンから下し、オーブンの鉄板に乗せる。
余熱をしておいたオーブンに入れて、低温でじっくりと焼いていく。
「はい、お肉はおしまい」
「随分と早いですね。いつもは色々と時間がかかりますのに」
「ここからがちょっと時間がかかるね。その間に出来ることをやっていくんだよ」
肉の処理が終わったら、次はソースづくり。玉ねぎをすりおろし、鍋に入れる。その中に赤ワイン、醤油、砂糖、すりおろしにんにくを入れて煮立たせる。
そうすると、ローストビーフに入れるソースが出来上がった。その時、オーブンの音が鳴った。後は余熱で火を通すだけだ。
「マッシュポテトが出来ました。次はどうします?」
「マッシュポテトだけじゃ栄養面が不安だから、生野菜のサラダでも付け加えようか」
「じゃあ、次は野菜を切りますね」
ネットショッピングで新鮮な野菜を買うと、テレセスが慣れた手つきで野菜を切り分けていく。その手伝いをしていると、そろそろ肉に熱が通る時間になった。
オーブンから肉を取り出し、まな板に乗せて、包丁で切り分けていく。すると、綺麗にピンク色の断面が見えてきた。うん、丁度いい具合に火が通っている。
私が肉を切り分け、テレセスが皿に具材を盛り付けて、肉にソースをかける。ネットショッピングからパンも購入し、籠の中に詰め込んでおく。
「みんなー、出来たよー!」
キャンピングカーの外に出て声をかけると、子供たちが駆け寄ってきた。みんなに皿と籠を運んでもらうと、孤児院の食堂に集まった。
席に着き、祈りを捧げると、みんなで食べ始める。
ナイフで一切れ、ローストビーフを切り分ける。すっと刃が入る感触が心地いい。断面は艶やかなピンク色で、肉汁がじんわりと滲んでいた。
フォークで持ち上げ、ソースを絡めて口に運ぶ。
その瞬間――。
「美味しい!」
思わず、そんな言葉が飛んだ。しっとりとした肉は驚くほど柔らかく、噛むたびに濃い旨味が広がっていく。ベリアット特有の力強い肉の味が、じんわりと舌に残る。
そこに、ソース。玉ねぎの甘みと赤ワインのコク、醤油の旨味が合わさって、肉の味を一段と引き立てていた。にんにくの香りもほんのり効いていて、後を引く美味しさだ。
「これ……すごく美味しいです」
「すっごく、美味しい! なんだこれ!」
「噛めば噛むほど、肉汁が出てくるよ!」
「美味い! 美味い!」
テレセスが目を丸くしながら呟き、その横で子供たちがローストビーフにガッついていく。。
「じゃろう! わらわが倒した肉じゃからな!」
サリサは得意げに胸を張りながら、どんどん肉を頬張っている。次に、マッシュポテトを口に運ぶ。ふわっとした口当たり。優しい甘みとほのかな塩気が、ローストビーフの濃厚さをちょうどよく和らげてくれる。
これ、すごく相性いいな。肉を食べて、ポテトで落ち着かせて、また肉に戻る。そんな流れが自然と出来上がっていた。
さらにサラダ。シャキッとした食感とみずみずしさが口の中をさっぱりさせてくれる。さっきまでの肉の余韻を一度リセットして、また新しい一口を美味しく感じさせてくれる。
そして、パン。ちぎって口に入れると、ふわふわでほんのり甘い。ローストビーフのソースを軽くつけて食べると、それだけで立派な一品になる。
ああ……これ、ずっと食べていられるやつだ。
肉の旨味、ソースのコク、ポテトの優しさ、サラダの爽やかさ、パンの柔らかさ。全部がちゃんと役割を持っていて、どれか一つでも欠けたら物足りなくなる気がする。
でも、今は全部揃っている。だからこそ――。
「おいしいね」
「はい、とても美味しいです」
「そうじゃろう、そうじゃろう!」
思わず、声に出していた。
周りを見れば、みんなも夢中で食べている。笑顔が溢れていて、賑やかな声が食堂に広がっていた。戦いの緊張も、疲れも、全部吹き飛ぶような時間。
こういう時間があるから、頑張れるんだよね。そう思いながら、私はもう一切れローストビーフを口に運んだ。




