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ゴミスキルだと捨てられた少女たち、実は最強の生活能力スキルだったので気楽なスローライフ冒険旅を満喫する  作者: 鳥助


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44.優しさに包まれて

「メルたちが十一万コルトで、デルマたちが四万コルトよ。よく頑張ったわね」


 顔なじみになった受付のお姉さんがそう言ってお金を渡してきた。


「やった! 最高値がついた!」


「わらわたちも最高値に近いのう!」


 渡されたお金にデルマたちも私たちも喜んだ。やっぱり、強い敵を倒せるようになると、収入が安定する。


 そんな喜んでいる私たちを見て、お姉さんも嬉しそうに笑った。


「あなたたちが一緒に魔物討伐をしに行くって行った時は心配だったけど、こうして活躍してくれて嬉しいわ」


「メルたちが協力してくれるからなんだ!」


「本当にメルたちのお陰ね。この子たちに協力してくれて、本当にありがとう」


 お姉さんに笑顔で褒められると、なんだか照れてしまう。


「この子たちの事、本当に心配だったの……。町を出たこともない子たちが魔物と戦うなんてって。毎日傷だらけになって帰ってきた時は胸が痛んでどうにかなりそうだったわ」


 何も力のない子供が魔物を倒さなければいけない。それはやっぱり、大人として胸が痛む状況みたいだ。切なそうに目を細めるお姉さんの気持ちが伝わってきて、他人事ではいられない。


「でも、無理はしちゃだめよ。メルたちも、強いからってお金のためだけに頑張るのは良くないわ。自分の体を第一にするのよ」


 手をギュッと握られて、真剣な眼差しで言われた。そんなに強く心配されるのは滅多にないことで、なんだか嬉しく感じてしまう。


 町を出てから……ううん、親が死んでからそんな優しさに触れていなかったから、その気持ちだけで感動で胸が熱くなる。


「たまには自分の体を労わって休むことも必要よ。お金や食べ物が必要なのは分かるけど、体が悪くなったら稼ぐことも出来ないからね」


「うん、ありがとう」


 その思いに心が癒やされた。私は笑顔で感謝を伝えると、その場を離れた。すると、今度は傍にいた冒険者たちが声をかけてくる。


「今日は大丈夫だったか? 怪我とかなかったか?」


「困ったことがあればいつでも言うんだぞ。おじさんたちが解決してやるからな」


「おじさんに言えないことは、お姉さんに任せなさい。いつでも、話しかけてね」


 心配しつつも気さくに話しかけてくれる。次々と掛けられる声に、私は少しだけ戸惑ってしまった。


 どうして、こんなに優しいの? 胸の奥が、じんわりと熱くなる。まるで、冷えきっていた場所に火が灯ったみたいに。


「大丈夫だよ」


 そう答えると、みんなは安心したように頷いた。


「それなら良かった! 無理すんなよ!」


「ちゃんと飯食ってるか? 今度、いい店教えてやるよ」


「ほら、こういう子は遠慮するんだから。気にしなくていいのよ、頼りなさい?」


 軽口交じりの言葉ばかりなのに、不思議と一つ一つが胸に染み込んでくる。……こんなの、知らない。


 前の町では、こんな風に声をかけられることなんてなかった。むしろ、邪魔者を見るような目ばかり向けられていたし、子供が稼ごうとすれば足元を見られることだってあった。


 優しくされることなんて、ほとんどなかった。だから嬉しいはずなのに、少しだけ怖い。


 この優しさが、いつか消えてしまうんじゃないかって。何かのきっかけで、またあの頃みたいに冷たい視線に変わってしまうんじゃないかって。そんな考えが、頭の隅をかすめる。


 でも――。


「……ありがとう」


 気づけば、自然とそう口にしていた。すると、周りの冒険者たちは一瞬驚いたようにして、それからふっと優しく笑った。


「おう、その調子だ」


「ちゃんと礼が言えるなんて、いい子だな」


「ほんとにね。無理しないで、困ったら頼るのよ?」


 また、胸が熱くなる。じわじわと、何かが溶けていくような感覚。


 私は、ずっと誰かに頼りたかったんだ。


 強がって、一人でやらなきゃって思い込んで、ずっと踏ん張ってきたけど。本当は、こんな風に声をかけてもらって、心配してもらって、助けてもらいたかった。


 まるで、小さな子供みたいに。いや、実際に私は子供なんだけど。それでも、弱音を吐いていい場所なんて、これまでなかった。


 だけど、この町は違う。この人たちは違う。そう思えた瞬間、胸の奥にあった硬い塊が、少しだけ崩れた気がした。


「メル、行くぞー!」


 デルマが手を振っている。私はその声に振り向いて、少しだけ笑った。


「うん、今行く」


 足取りが、いつもより軽い。まだ完全に信じきれたわけじゃない。どこかで警戒心は残っている。それでも……もう少しだけ、頼ってみてもいいのかも。


 だけど、その中でも飛び切り優しかったのがテレセスだった。教会に帰ると、一番に出迎えてくれた。


「みんな、おかえりなさい!」


 一人ずつ抱擁をかわして出迎え、温かい言葉をかけてくれる。


「怪我はしませんでした? 大変なことはありませんでした? 辛い目に合いませんでした?」


 たくさん気にかけてくれるのが、こそばゆくて嬉しい。向けられるたくさんの愛情が私の心を癒してくれる。


「もう、そこまで心配しなくてもいいよ。ほら、見て。怪我もないし、平気だよ」


「そんなこと言って、気まずいからって隠していませんか? かすり傷とか隠してませんか?」


「大丈夫! じゃあ、私は食事を作ってくるね」


「出来る限り手伝いますよ。さぁ、行きましょう」


 早速食事を作りに行こうとすると、テレセスがついてくる。キャンピングカーに入り、キッチンへ向かう。


「今日は何を作るんですか?」


「オーク肉をひき肉にして、三色丼を作るよ」


「まぁ、聞かない料理ですね。では、大変なひき肉の作業は私がやりますね」


「じゃあ、オークを解体してくるから、ちょっと待ってて」


 私は一度外に行くと、外でオークを解体していく。それが終わると、キッチンに戻り、肉の塊をテレセスに渡した。


 テレセスは慣れた手つきで肉の塊を細切れにして、ひき肉にするために細かく切り叩いていく。


「メルが食事を作ってくれるお陰で、毎日美味しいものを食べさせることが出来ます。本当にありがとうございます」


 その時、ぽつりとテレセスが言葉を零した。


「だけど、気が引けてしまうのですよね。お金稼ぎも、食料集めもして、食事まで作ってくれるなんて……。私はメルに何かしてあげられてますか?」


 その言葉に、胸がきゅっと締めつけられた。


 ……まただ。今日だけで、何度目だろう。胸の奥が温かくなるこの感覚。


「そんなことないよ。テレセスは、ちゃんと私にしてくれてるよ」


「……そう、でしょうか?」


 少し不安そうに揺れる瞳。いつもは落ち着いていて、みんなを包み込むような優しさを持っているのに、今はどこか頼りなげで――。


 だから、ちゃんと伝えたくなった。


「うん。だって……私、今まであんまり優しくされたことなかったから」


 自分で言っていて、少しだけ驚く。こんなこと、誰かに話したのは初めてだった。


「だからね。こうして、いっぱい心配してくれて、一緒にいてくれて……それだけで、すごく嬉しいの」


 言葉にするたびに、胸の奥がじんわりと熱を持っていく。


「それだけで、十分だよ」


 そう言って、少しだけ笑ってみせた。すると、テレセスは一瞬だけ目を見開いた。


「……そう、だったんですね」


 小さく、優しく呟く声。次の瞬間――。


「……っ」


 テレセスは手を洗うと、そっと私を抱きしめてきた。ふわりと包み込まれるような温もり。優しくて、柔らかくて、逃げ場なんていらないくらい安心できる場所。


「こんなことで、少しでもメルの心が救われるなら……いくらでもしますよ」


 耳元で、静かに響く声。


「本当に、メルは良い子ですね」


 そのまま、優しく頭を撫でられる。


「少しくらい、わがままを言ってもいいんですよ?」


 ああ、だめだ。胸が、いっぱいになる。


 ぎゅっと締めつけられて、息が詰まりそうなくらいなのに、苦しくはなくて……ただただ、温かい。


 こんな風に抱きしめられることも、頭を撫でられることも、優しく声をかけられることも――本当に久しぶりで。失っていた感情が、溢れてくる。


「……うん」


 小さく頷くのが精一杯だった。それでも、テレセスは何も言わずに、ただ優しく撫で続けてくれる。


 その手の温もりが、私の中に残っていた冷たい部分を、少しずつ溶かしていく。気づけば、体の力が抜けていた。守られているみたいで、安心してしまっている。


 優しさに包まれるって、こんなにも心が、救われるものなんだ。


 私はそのまま、しばらくの間、テレセスの腕の中で温もりに身を委ねていた。

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