22.ニギルベアー肉のホロホロシチュー
「「「ただいまー!」」」
キャンピングカーの車体に戻ってくると、みんなでソファーに倒れ込む。
「今日は色々あって、疲れたのじゃ!」
「サリサはたくさん動いて大変でしたね」
「本当にお疲れ様だよ」
「ふふん、もっとわらわを褒めたたえよ!」
ここに戻ってくると、一気に気が緩んで癒やされる。みんなで話し合いながら、ゆっくりと過ごす時間は何物にも代えがたい大切な時間だ。
「そうじゃ! 忘れてはおらぬよな? ニギルベアーの肉を持ってきたことを!」
「忘れてないよ。今日はそれで料理をするつもり」
「一体、どんな料理をするんですか?」
ティナの質問に腕組をして考える。たくさんの肉を食べられるものって言えば……。
「うん、シチューにしよう。ホロホロって簡単に崩せるようなシチュー」
「ほほう、シチューか! わらわは好きじゃぞ!」
「私も好きです。でも、メルが作るから、食べたことのない味になりそうです」
「それはわらわも気になっているところじゃ。絶品なシチューが出てくるに違いない!」
二人の期待した目がこちらを向く。そんなに期待をしてくれるんだったら、手を抜くわけにはいかないな。
「じゃあ、作り始めようかな」
「なんじゃ? まだ、夕方ではないぞ?」
「時間をかけた方が美味しいものが出来るんだよ」
「そうなんですね……。美味しいシチューが食べてみたいです」
「任せて!」
私は立ち上がると、キッチンへと向かった。ネットショッピングで必要な物を買う。今日は手間暇をかけて、美味しいものを作ろう。
「メル! 肉はどれくらい出せばいい?」
「じゃあ、これくらいで」
「任せるのじゃ!」
すると、サリサがニギルベアーの肉の塊を出す。結構な量が出てきたけれど、きっと二人なら食べられるだろう。
「じゃあ、調理を始めるね」
まな板と包丁を持って、いざ、調理開始。玉ねぎ、人参、セロリ、トマトを一口サイズに切る。その後に肉の塊をこぶし大ほどの大きさに切り分ける。その肉には塩コショウでしっかりと下味をつける。
フライパンに油を引くと、火にかける。その中に肉を入れて、表面だけ焼き色をつける。
「くっ……この匂いだけでも、美味しそうじゃ!」
「うぅ、すぐに食べられないのが残念です……」
二人は匂いに負けたように顔を顰めた。そんな二人の反応を楽しそうに見ながら、調理を進めていく。
鍋で玉ねぎを炒め、透き通ってきたら人参とセロリも入れる。しっかりと炒めた後はトマトを入れて、酸味が飛ぶまで火を通す。
火が通ったら赤ワインと水を入れて、中火でコトコトと煮る。
「今、お酒が入りませんでした? わ、私たちが食べても大丈夫なのでしょうか?」
「アルコールは飛ばすから、大丈夫だよ」
「な、なんだか大人になった気分になるのじゃ!」
そんな話をしていると、良い感じに煮立ってきた。そこで、ブイヨンの素とデミグラスソースを入れ、またひと煮立ちさせる。
それが終わると肉を肉汁ごと入れ、香草を入れる。ここから、時間をかけて煮立たせる。その間、私たちはリビングで一休み。
その間、リビングに漂う匂い。サリサは唸りながら絨毯の上で転がり、ティナはソファーの上でクッションをギュッと抱きしめて耐えていた。ふふっ、微笑ましい。
「さてと、そろそろいいかな」
「本当か!?」
「出来ました!?」
そう言って、立ち上がると二人がパッと明るい顔を上げた。私は何も言わずにキッチンにいき、シチューの様子を見る。
長時間煮込まれてトロトロになっており、艶も出てきている。これは、上出来だ。
そこから肉と香草を取り出し、もう一つの鍋とこし器を用意する。こし器の中に出来立てのシチューを入れ、野菜を潰しながらこしていく。
「お、おい! そんなに美味しそうなものを潰すのか!?」
「た、食べられるんじゃないですか!?」
「こういう料理なんだよ。大丈夫、野菜のエキスがしみだしてきているから、美味しくなるよ」
慌てる二人を微笑ましく見つつ、シチューを濾した。そのシチューの中に肉を戻すと――。
「じゃあ、ここから一時間放置ね」
「な、なんじゃとっ!? まだ、食べられないのか!?」
「そ、そんな……食べられると思ったのにっ!」
「ふふっ、こうした方が美味しいよ」
私の言葉に二人は頭を抱えて身悶えした。そして、諦めたように項垂れて、リビングに戻っていった。そして、またもぞもぞと落ち着ない様子だ。
そんな悶えている二人を見つつ、シチューに添える野菜を用意する。用意するのは人参とブロッコリー。
二つを一口大に切ると、お湯を沸かして茹でる。ブロッコリーはそのままだ、人参はフライパンでバター、塩、砂糖で味付けをしてサッと炒める。これでビーフシチューに添える野菜が完成。
あとはバゲットを用意して、適切な厚さに切る。それを籠の中に入れて、テーブルに並べる。それだけで、二人は期待のこもった眼差しを向けてくる。
「さて、そろそろいいかな」
「本当じゃな!? 今度こそ、本当なんじゃな!?」
「ようやく、食べられるんですね!」
二人がガバッと起き上がると、我先にと席についた。とても、ワクワクした様子でこちらを見てくるから、なんだかこそばゆい気持ちだ。
キッチンへと戻り、シチューを温め直す。終わったら、皿にシチューとゴロッとした肉をたくさん入れて、野菜を添える。
その皿を二人の前に持っていくと、目が輝きだした。
「おぉ、肉の塊が!」
「美味しそう……!」
「お待たせ。さっ、食べようか」
「「「いただきます!」」」
三人で声を合わせ、スプーンを手に取る。立ちのぼる芳醇な香りが鼻をくすぐり、自然と期待が高まった。
皿の上の大きな牛肉にそっとスプーンを入れると、抵抗もなくほろりと崩れる。じっくり煮込まれた柔らかさが、見ただけで伝わってきた。
その一片に、とろりとした濃厚なシチューをたっぷり絡めて口へ運ぶ。
次の瞬間、旨味が弾けた。
コク深いデミグラスの味わいと、ほろほろに煮込まれたお肉の甘みが一体となって、口いっぱいに広がっていく。噛むたびに染み出す旨味が舌を包み込み、思わず頬が緩んだ。
「美味しい! 二人はどう?」
頬を手で包みながら尋ねると、二人は目を輝かせながらもぐもぐと口を動かしていた。そして、ゴクリと飲み込むと――。
「な、なんじゃこのうま味の塊は! 肉が、肉が簡単に崩れて! ほっぺが落ちそうなうま味がっ!」
「こんなに美味しいシチューを食べたのは初めてです! うま味がギュッて詰まっていて、肉がホロホロって崩れて、口の中が幸せです!」
キラキラの目を向けながら、頬を手で包んでいる。ふふっ、そんなに美味しかったんだ。美味しく食べてくれて嬉しいな。
「バゲットにつけて食べても美味しいよ。……うん、完璧な組み合わせ」
「……はむっ。んーっ! この食べ方もいいのじゃ!」
「パンの甘味にシチューのうま味が合ってます!」
食べ方を勧めると、二人は美味しそうな顔をして食べ始める。スプーンで具材をすくって食べ。パンとシチューを合わせて食べ。もう、食べる手が止まらない。
「おかわりもあるから、いっぱい食べてね」
「絶対におかわりするのじゃ! お腹がはちきれるまで、食べるぞ!」
「こんなに美味しいものがまだあるなんて……。今日一、幸せです」
食卓には私たちの明るい声がいつまでも続いていた。




