17.休暇は釣りを楽しむ(2)
ボーッと川を眺める。ゆったりと流れる川を見ていると、自然と癒やされていく。こんなにゆっくり出来た時間は本当に久しぶりだ。
「今まで忙しなかった時間が嘘のようですね。なんか、心が軽くなります」
「何もしない時間はとても貴重じゃな。なんか、とても贅沢な事をしているような気がするぞ」
二人も忙しなかった日々から解放されて、とても居心地が良さそうだ。ただ待っている時間が、こんなに心を癒してくれるだなんて思ってもみなかった。
「でも、そろそろ刺激が欲しいのう。まだ、釣れんのか」
「やっぱり、気になりますよねぇ。この待っている時間がもどかしいです」
「まぁ、それを含めての釣りだからね」
「どうしたら、魚が釣れるんじゃ? どうせなら、たくさん釣りたいのじゃ!」
「うーん、そうだなぁ……」
魚を釣るテクニックが欠けているから、そう簡単には釣れない。分かっているけれど、どうせなら大量に釣ってみたい。
何か方法は……。
「あっ、危険察知」
「ん? どうしたんじゃ?」
「私のスキルを使えば、どうにかなるかも」
「そうなんですか? やってみてください」
意識を川に向ける。釣り竿を持って川を眺めていると、気配を感じた。川の中に何かがいる気配だ。よし、危険察知が使える。
そう思って、その気配がする場所に針を移動させた。しばらく、その場所に釣り針を置いておくと、その気配が近づいてきた。
「あっ、餌を突いてる」
「な、なんじゃとっ!?」
「来ましたか!?」
「まだ、もうちょっと……」
まさか、魚の気配まで分かるとは……。なんとも、便利なスキルだ。
そのまま、辛抱強く待っていると――釣り竿が強く引っ張られた。魚が餌に食いついた。
「来たっ!」
「お、お、お、落ち着いて糸を戻すのじゃ!」
「頑張ってください!」
ぐっと竿が引っ張られるけれど、負けじと引っ張る。リールを巻いて少しずつ手繰り寄せていくと、水面に魚影が見えてきた。
「よっと」
竿を引き上げてみれば、水面から魚が飛び出してくる。銀色に少しの緑が入った魚だ。
「やったぁ!」
「おぉ、釣れたぞ!」
「やりましたね!」
とうとう、一匹目が釣れた。体長三十センチは超える、大き目な魚だ。魚が釣れるっていうだけで、飛び跳ねたいくらいに嬉しい。
「凄いのじゃ! スキルのお陰で釣れたようなものじゃの!」
「あんなに釣れなかったのに……。メルのスキルは便利ですね」
二人は羨ましそうな目を向けてくる。私だけ釣れるのは、つまらないね。ここは、やっぱり――。
「じゃあ、二人とも。私がいうところに投げて。そこには魚がいると思うよ」
「本当ですか? やってみます!」
「ほほう、メル以外にでも釣れるのか試してみる価値はありそうじゃな」
そういうと、二人は釣り針を戻す。私はスキルを発動させて、水の中の気配を探る。すると、魚の気配を感じた。
「サリサはあっち、ティナはそっちに投げて」
指示を出すと、二人は私が示した場所に釣り針を投げた。しばらく様子を見てみると、気配が近づいてくるのが分かった。そして――。
「むっ、引いておる!」
「わ、私も来ました!」
二人の竿がしなった。二人は竿が持っていかれないように支えると、ゆっくりとリールを巻いていく。
「くっ、中々手ごわいな……」
「強いですっ」
「二人とも、頑張って!」
魚をバラさないように気を付けながら竿を引き、リールを巻く。すると、水面に魚影が見えた。あと、もう少し!
そう思っていると、二人が竿を引き上げた。水面から魚が飛び出てきて、見事釣りあげた。
「おぉ、やったぞ! 釣れた!」
「私も釣れました!」
「やったね、二人とも!」
二人が魚をキャッチすると、手の中でピチピチと跳ねる。こちらも体長三十センチを超える、大き目の魚だ。
「くぅ……釣り上げた時の嬉しさと言ったら! 凄く、楽しいのじゃ!」
「まだ、ドキドキしてます……。でも、最高の瞬間でした!」
「それは良かった。じゃあ、このスキルを使って、じゃんじゃん釣り上げるよ」
「この楽しさがまだ続く、じゃと!? くーっ、たまらんのぅ!」
「とことん、やりましょう!」
このスキルがあれば、魚をじゃんじゃん釣り上げられる。私たちは頷き合うと、魚をバケツに入れて、川と向き合った。魚釣りはまだまだこれからだ。
◇
パチパチと音を立てて、焚火が燃える。その周りに刺した魚からは焼けた良い匂いが漂ってくる。
「そろそろ、食べ時だね」
「本当か!?」
「ようやくですね!」
焼けた魚を二人に手渡す。魚はしっかりと焚火で熱せられて、良い感じに焦げている。これは、絶対に美味しいヤツ。
「「「いただきます!」」」
声を揃えると、魚の背にかぶりつく。
「あつ、あつっ」
「あうっ」
「はふっ、はふっ」
あまりの熱さに魚の身が口の中で踊る。息を吐いて少し冷ますと、ようやく噛めた。ふっくらとした身に香ばしい皮と塩気。それらが合わさると、体が震えるほどのうま味が広がった。
「んーっ、美味しいね!」
「これは絶品じゃのう!」
「ただ焼いただけなのに、どうしてこんなに美味しいんですか!」
噛めば噛むほどうま味が広がって、体がじっとしていられない。じたばたと足を動かして、うま味に耐える。
「なんでしょうか、いつもより美味しく感じられます」
「それは自分で釣ったからだよ。自分で釣ると余計に美味しく感じるんだって」
「ほう、そうなのか! あんなに楽しかったのに、それだけじゃなくて美味しさも変わるなんてな! 釣りというものは不思議じゃのう!」
確かに、不思議だよね。苦労をした分だけ、美味しく感じるのは何故だろう? でも、美味しく感じるならなんでもいい。
そして、チラッとバケツを見る。そこにはまだたくさんの魚がいる。
「それにしても、釣りに釣ったねぇ……。二十匹くらいは釣ったんじゃない?」
「いやー、楽しすぎて止まらんかったわ!」
「釣ったら、また次を釣りたくなりますよね。ずーっと、釣っていたかったです」
「まー、あんなに楽しかったからそうだよね」
みんなと一緒にする釣りはとても楽しかった。待つ時間、掛かった瞬間、釣り上げた後。どれも、違う楽しさがあってとても充実していた。
これからもみんなで一緒にいるんだから、こうやって楽しい時間を共有出来たら嬉しい。
「これからも楽しいことをしようね」
「もちろんじゃ! まだまだ、楽しむぞ!」
「次はどんなことをするんですか? 楽しみです!」
言葉を交わすと、話が止まらない。美味しい焼き魚を食べながら、釣りの出来事を話す。それだけで楽しいなんて、釣りは罪深い。




