16.休暇は釣りを楽しむ(1)
「よし、朝食の準備は完璧!」
テーブルの上に並べた今日の朝食。卵とハムのサンドイッチ、コーンスープ、サラダ、果物。我ながら彩りよく用意出来たと思う。
後は、二人を起こすだけだ。階段を上って二階に行く。すると、まだ二人は寝ているようだった。
「サリサ、ティナ。おはよう!」
声をかけると、先に動いたのはティナだった。ゆっくりと体を起き上がらせて、大きく背伸びをする。
「ふぅ……おはようございます、メル」
「おはよう。サリサも起きて」
もう一度声をかけるが、サリサはピクリともしない。仕方なく近くにいって、揺すってみる。すると、唸り声が聞こえた。
「うー……」
「そんな声を出してどうしたの? ……もしかして、体調悪い?」
とても低く唸るから心配になる。もう一度、揺すってみると――。
「いやじゃ、いやじゃ! まだ、のんびり寝ていたいのじゃ!」
突然、手足をバタつかせて暴れだした。
「ようやく、魔王競争から抜け出たのに、ゆっくり出来ないのじゃ! 今日はゆっくりしたいのじゃ!」
サリサは過酷な競争の中に身を置いていたのは分かる。今、その反動が来てしまったらしい。
すると、サリサが体を起き上がらせて、私にしがみついた。
「メル、頼むのじゃ。今日ぐらいはゆっくりとしないか? 毎日毎日、薬草採取と魔物討伐で疲れ果ててしまったのじゃ」
「毎日って……まだ五日ぐらいしかやってないけど」
「それでもじゃ! 頑張るためには休暇が必要じゃ!」
んー。まぁ、五日も働いていれば、休暇も欲しくなるか。前世でも五日の平日の後は土日で休みだったし。まぁ、社畜だった時代は土日は関係なかったけれど……。頑張るためには休暇も必要。
「うん、分かった。今日は休みにしようか」
「本当か!? じゃあ、何もしないでもいいんじゃな!」
「好きな事ややりたい事をやればいいよ」
「おー! メルは良く分かっておるのじゃ! よーし、よしよし!」
「どさくさに紛れて、耳をもふもふしないで!」
隙を見せたら、すぐに触ってくるんだから。お陰で、しっぽが機嫌よく揺れてしまう。うぅ、感情が表に出るから恥ずかしいんだけど……。
◇
「今日は何もしなくてもいい日になりましたけど、どうするんですか?」
ティナがコーンスープを飲みながら、そんなことを言った。
「そりゃあ、もちろん! ……何をするんじゃ?」
「えっ……。何かしたいことがあったんじゃないの?」
「そんな事、わらわに言われても困る! だって、今まで鍛錬漬けの毎日じゃったからな! 遊ぶということが分らん!」
「私も勉強や礼儀作法で一日が終わってましたから、それ以外何をしていいのか分かりません」
なんてこった、ここに遊びを知らない子供たちが。それを目の前にすると、胸が痛んでくる。
「二人は本当に毎日が大変だったんだね。まぁ、私も人のことは言えないけど……」
「わらわは楽しそうにしている子供たちが羨ましかったな……。わらわもあんな風に楽しいを満喫したいと思った。じゃが、どんなことをすれば楽しいのかは分からないのじゃ……」
「私も……。窓の外にいた子供たちが楽しそうにしていた光景を見て、羨ましく思ってました。私もあんな風に笑いたいって思ってました」
しゅん、と二人が落ち込む素振りを見せる。その様子を見て、さらに胸が痛む。どうにかして、楽しい休暇を過ごさせたい。
ということは、ここは私の出番だ。
「じゃあ、私が前世の記憶から、楽しそうな遊びを提案するよ」
「おぉ……。メルの前世、気になっておったのじゃ。きっとメルなら、わらわたちを楽しませる何かを思いついてくれるはずじゃ」
「こういう時に経験豊富なメルがいてくれて良かったって思います。それで、何をするんですか?」
「出来るだけ、のんびりとしたことが良いのじゃ! だけど、楽しいものを!」
出来るだけのんびり、だけど楽しいもの。これは難しい希望だけど、それなら打ってつけのものがある。
「じゃあ、釣りをしようか」
◇
キャンピングカーを移動させて、近くの川までやってきた。川幅は五メートルある、中規模の川だ。
「おー、川か! これは、なんだか楽しくなりそうな予感がするのう!」
「川は初めて見ました。綺麗ですね……」
「そうでしょ? ここならのんびり過ごせて、楽しいこともあるよ」
三人で川を目の前にして、気持ちが昂る。さて、必要な物を出さないとね。
ネットショッピングの画面を開くと、道具を検索する。折りたたみ椅子と釣り道具。結構な値段になっちゃったけど、砂糖を売ったお金があるからなんとかなっている。
決定ボタンを押すと、目の前に買った物が現れた。
「おぉ、早速来たな!」
「じゃあ、これが椅子ね」
「こんなに小さなものが椅子ですか?」
「こうやって、広げるんだよ」
私が折りたたみ椅子の使い方を教えると、二人も同じように広げて座った。
「小さくてもちゃんと椅子ですね。結構、座り心地がいいです」
「うむ、丁度いいのだ! これで、のんびり川を楽しむことが出来るのじゃ!」
どうやら、二人とも折りたたみ椅子を気に入ってくれたみたいだ。じゃあ、次は釣り道具だ。
「はい、これが釣り竿ね。まずは針をつけるよ」
「こんな小さな物をつけるのか? 難しそうじゃな……」
「出来るでしょうか?」
「やり方さえ分かれば、問題ないよ。ほら、この本の通りに」
私は二人に本を見せると、その絵を見て糸と針を結び始めた。
「くっ、このっ、中々上手くっ……」
「えーっと、こうやって……」
「……出来た! 意外と簡単だったね」
「なんじゃとっ!? 負けていられるかっ!」
「……私も出来ました!」
「なぬっ!? ぐぬぬっ、わらわが最後とはっ……」
険しい顔をして糸と針を付けるサリサ。だけど、その手元の糸を見てみると、ぐちゃぐちゃになっていた。
すると、サリサが泣きそうな顔をして、私にそれを差し出してくる。
「メル~、やってくれんか? わらわには無理じゃ~!」
「いいよ」
素直に泣きついてきたので、私はそれを受け取って結んであげた。
「はい、これでいいよ」
「ありがとなのじゃ! これで、わらわも釣りが出来るぞ! ここからどうすればいいんじゃ?」
「まず、餌を針につける。餌はこのイクラを使って」
イクラの入った箱を差し出すと、二人は一粒手にとった。
「これなら簡単じゃな。ほら、わらわにもつけれた!」
「難しいのは糸のほうでしたね」
本当は違う餌もあったんだけど、これが一番扱いやすいよね。さすがに生餌とか虫とかはキツイ。
「じゃあ、次はこれを投げる。こんな風に……よっと」
竿を持ち、反動で振る。すると、針先が飛んでいって川に落ちた。
「なるほど、簡単そうじゃな。それ!」
「私も……えいっ!」
二人が同じように振ると、サリサの釣り針は奥の方に、ティナの釣り針は手前の方に落ちた。
「じゃあ、魚が釣れるまで待とう。色々、テクニックもあるようだけど、それも使っていこう」
「ふっふっふっ、わらわが一番釣るのじゃ!」
「私は一匹でも釣れればいいです」
さて、釣り休暇の始まりだ。




