13.ホーンラビット肉のロースト
「「「ただいまー!」」」
車体の中に入ると、みんなでソファーに倒れ込む。フカフカとした感触が体を包み込んで、全身の力が抜ける。
「今日は疲れましたね。初めての冒険、初めての戦闘。色んな事がありました」
「二人とも、良く戦えていたと思うぞ。この調子で頑張れば、きっとわらわのように強くなると思う」
「サリサのように強くか……。なんか、あんまり想像出来ない」
ぐったりと倒れ込みながら、今日あったことを話す。今日一日でたくさんの事を体験して、とても大変だった。でも、それ以上にワクワクして気持ちが弾んでいた。
「サリサはさ、どうやって強くなったの?」
「そりゃあ、親や兄弟にぼこぼこにされながらじゃ。倒れては、無理やり起き上がらせて、また叩いて。休む暇もないくらいに鍛えられた」
「……なんか、壮絶ですね」
「めちゃくちゃ壮絶だったぞ! 何をしても鍛錬だって言って、体を鍛える日々……。遊ぶ暇もないくらいに、ずーっと鍛えていたのじゃ」
サリサの環境はかなり厳しいものだったらしい。そんな厳しい環境に身を置いたとしても、サリサはそれを私たちに強要しない。そんな優しさを見て、少しだけ心が温かくなった。
「私も家族が厳しかったから、あまり遊べませんでした。毎日が憂鬱で、楽しくなくて……。でも! 今はそんな日々が嘘のように楽しいです!」
「わらわも楽しいぞ! これもそれも、お前たち二人が良い奴らだからなのじゃ! これからも楽しく過ごすぞ!」
「そうだね、私も楽しく過ごしたいよ」
皆の心が一つになったようで、なんだか嬉しい。顔を見合わせると、同じ気持ちを悟ったのか、みんな笑顔になる。と、同時にお腹が鳴った。
「じゃあ、楽しい食事の時間にしますか!」
「やったー! メルの料理じゃー!」
「何を作るんですか?」
「今日はホーンラビット肉のローストだよ」
立ち上がり、キッチンへと行く。すると、当然のように二人が着いてきた。
ネットショッピングの画面を立ち上げ、食材を買う。すると、カウンターに食材が届いた。
「サリサ、ホーンラビットの肉を頂戴」
「おう!」
サリサがアイテムボックスからホーンラビットの肉を取り出すと、ザルの中に入れる。そして、流水で綺麗に洗う。
キッチンペーパーで水分をふき取ると、ハーブ、塩、胡椒を全体に擦りつけ、味を染み込ませる。
その間に、玉ねぎ、人参、パプリカ、じゃがいもをサイコロみたいに切る。切った野菜をオリーブオイルをひいたフライパンに入れ、味をつけて炒めた。
それから、ホーンラビットの開いた腹の中に野菜を詰め込み、つまようじで閉じる。最後のオリーブオイルを塗れば――。
「うん、これでオッケー」
「凄い……まるまる一体分! これは、食べ応えがありそうじゃのう!」
「まるまる一体分だなんて、凄く贅沢です!」
「ふふっ、そうでしょう? じゃあ、これをじっくり焼いていくよ」
温めておいたオーブンにホーンラビットが並んだ鉄板を入れる。時間は一時間。かなり時間がかかるが、美味しいものが出来ると思えば耐えられる時間だ。
その間にバターライスを用意する。みじん切りにした玉ねぎを色づくまでフライパンで炒める。炊飯器の釜に米を入れて、研ぐ。それから、釜に水、コンソメ、塩、バターを入れて、炊く。
スープは……今日はなしにしよう。だって、ホーンラビット肉のローストが大きいから、食べきれなかったら大変だから。
「じゃあ、しばらく待とう」
そう言って、私たちはリビングのソファーに行って、一休みする。少しずつ時間が過ぎていくと、リビングに漂ってくる香ばしい匂い。
空腹を刺激する匂いが立ち込めてきて――。
「なんじゃ、この良い匂いは! まだか! まだ出来んのか!」
「あぁ……こんなに良い匂いがするのに、まだ食べられないなんて……」
二人は良い匂いに包まれて身悶えしていた。サリサは絨毯の上で激しく暴れ、ティナはクッションを抱いて丸まっている。その気持ち、分かる。
「あと、もうちょっと。我慢しよう」
「メルの鬼畜! 悪魔! 人でなし! この匂いを耐えろというのは拷問じゃぞ!」
「これを耐えろというのは、あまりにも酷いです!」
ふっふっふっ、身悶えする二人を見るのは楽しい。恨めしそうにこちらを見つめる二人を見て、愉快な気持ちになった。
それから数十分、身悶えする二人と見て愉快な気持ちになっていると――機械音が鳴った。どうやら、出来たみたいだ。
キッチンに行き、オーブンを開ける。すると、そこには――小麦色の焦げ目がついたローストされたホーンラビットの肉があった。
「う、美味そうじゃの……」
「凄く良い色……」
「はいはい。席に座って待ってて。用意するから」
ジーッと見つめて動かない二人の背を押して、キッチンから追い出す。それから、肉をさらに盛る。バターライスをさらに盛って、上から乾燥パセリを振りかける。
「はい、完成したよー」
「来たか! ようやく!」
「早く食べましょう!」
テーブルに食事を持っていくと、二人は待ちきれないとばかりにナイフとフォークを持った。私が席に着くと――。
「「「いただきます!」」」
速攻で挨拶をして、食事に手を付ける。フォークを肉に刺し、ナイフで切り分ける。すると、ふわっと上る湯気。解れていく肉と中から溢れる野菜。その肉と野菜をフォークの上に乗せて、口へと運ぶ。
「「「~~~~っ!!」」」
三人同時に目を見開き、声にならない声を上げる。
「肉が凄くジューシーなのじゃ! あふれ出る、肉汁! あぁー、肉汁に溺れたい!」
「お肉の味が濃くてっ。それにハーブの味が染み込んでいてっ。この味、堪らないです!」
「お肉のうま味と野菜の甘味が合わさって、凄く深い味になってる! 完璧な組み合わせだよ!」
お肉のジューシーさにハーブの香りが合わさり、とんでもないうま味に向上している。これは、身悶えするほどの美味しさ。
「食べても、食べても、全然飽きないのじゃ! それに、時々かきこむバターライスの美味しいこと!」
「お肉と野菜とバターライスを一緒に食べると、凄く美味しいです。あぁ、どうしましょう。手が止まらない!」
「交互に食べても美味しいよ! でも、美味しすぎて……やっぱり手が止まらない!」
がつがつと料理をかきこむサリサ。上品にでも素早く食べ進めるティナ。私は休む暇もなく手と口を動かす。
「「「美味しすぎるー!」」」
そんな事を言いながら、追い立てられるように食べ進めた。
◇
「ぷはー! 食った、食った!」
「美味しかったですね!」
「うん。とんでもなく」
空になった皿を見て、私たちは一息つく。今日の食事は夢中になるほどに美味しかった。恐るべし、ホーンラビットの肉。
「今回も体に力がみなぎるようじゃな。食べるだけで経験値が入るなんて、とんでもない料理じゃ。どれどれ、どれだけ上がっているかな?」
すると、サリサがステータス画面を開いた。だけど、その顔がすぐに驚愕に変わる。
「な、なんじゃと!?」
「ど、どうしたんですか!?」
「ス、スキルが生まれている!」
「えっ? スキルが?」
今度は食べただけで、スキルが生まれたっていうの!?




