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公爵家の問題児たちと天然皇女  作者: angelcaido
7章 Bomber Plan
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第90話 志願の日、沈丁花と梔子の残り香

志願の一声が、公爵家の日常を戦場へと変えていく。

同盟国への派兵。


皇帝の決定は、数日後には帝国中へ広がっていた。


各家門の当主は、派兵する騎士や兵の選定を余儀なくされていた。


そして――ヴァレンティ公爵家も例外ではなかった。


騎士団の訓練場には、朝から団員達が集まっていた。


いつもの訓練とは違う空気に、誰もが気付いている。


朝の訓練は既に終わっている。


それでも誰一人、その場を離れようとはしなかった。


何かある――そう感じ取っていた。


ざわめく空気の中、扉が開いた。


ルードが静かに入ってくる。


訓練場が静まり返る。


団員達の背筋が揃う。


キドもルードの隣に立っていた。

いつもより表情が硬い。


ただ一人、ロエルは端の木柱にもたれ、腕を組んでいた。


「既に、知っている者もいるかも知れないが」


ルードは訓練場を見渡した。


「開戦中の同盟国が、帝国に援軍を要請している」


団員達の間にざわめきが広がる。


「皇帝陛下の軍議にて、同盟国への派兵が決定した」


訓練場に緊張が走る。


「公爵家騎士団からも出兵する」


ルードは一度言葉を切る。


「志願制だ」


団員達が顔を見合わせる。


ルードはもう一言付け加えた。


「帝国軍の総指揮は――第二皇子だ」


その名前が出た瞬間、空気がまた少し変わった。


団員の一人が思わず小さく呟く。


「……あの第二皇子か」


「暴れそうだな……」


ざわめきが少し広がる。


ルードは構わず言った。


「志願者はいるか?」


その瞬間だった。


「はーい」


場に似合わない、明るい声が響く。


全員の視線が一斉に動く。


「じゃあ俺行くわ」


柱にもたれていたロエルが、ゆっくり手を上げていた。


キドが目を見開く。


「は?」


ロエルは笑っている。


「面白そうじゃん」


空気が一瞬止まった。


「………」


キドが額を押さえる。


「遊びじゃないんですよ!」


「知ってるよ」


ロエルは肩をすくめた。


「戦争だろ?」


軽い口調だった。

笑顔で答える。


ルードはロエルを見ていた。


少しだけ沈黙してから口を開く。


「……理由は」


ロエルは小さく首を傾げた。


「理由?」


一瞬だけ考え、笑った。


「暇だから?」


キドの拳が震えた。


「ふざけるな!!」


訓練場に怒声が響く。


ロエルはけらけら笑う。


「冗談だよ」


少し間を置いて言う。


「騎士なんだし」


笑みはそのままに、声音だけが静かになった。


「行くだろ、普通」


ルードはしばらくロエルを見ていた。


やがて静かに言う。


「……わかった」


キドが振り向く。


「ルード様!」


「志願は受ける」


ルードの声は静かだった。


ロエルは笑ったまま手を下ろす。


「決まりだな」


キドは頭を抱えた。


「なんで嬉しそうなんですか……」


ロエルは小さく息を吐いた。


「いやー」


少し伸びをする。


「久しぶりに退屈しなそうだなって」


キドは深くため息を吐いた。


その時だった。


ルードが静かに口を開く。


「……ロエル」


ロエルが視線を向ける。


ルードは少しだけ目を細めた。


「お前、まさか」


短い沈黙。


「この為か」


キドは二人を見比べた。


ロエルは一瞬だけ目を細めた。


だがすぐに、いつもの笑顔に戻る。


「さあな」


肩をすくめる。


訓練場は静まり返っていた。


――戦争が、現実になる。 


お読みいただきありがとうございます。

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