縄文の理
縄文の理
ケヤキの巫女は、改めて話し始めた。
「巫女の卵のサワなら、知ってると思うけど、我らの創世記。」
サワは、伊勢で学んだ国づくりの話だなと思った。
巫女が続けた。
「はじめ、世界は、岩がゴロゴロしているだけだった。
まるで、山の頂が広がったような世界であった。
やがて、雨が降り続き、川が生まれた。そしてやがて海ができた。
すると、岩や川や海が、風を誘い土地に向かって大きな声で命令した。
木や草よ生えろ。
大木が生まれ、草原が風に靡き始めた。
暫くすると獣が生まれ、人も生まれた。
人は弱く、すぐ死んでしまう。
そこで、火を使い、仲間が集まり、道具を持つようになった。
そして知恵を持つようになった。」
巫女はサワを見つめて、つけ足した。
「これが縄文の理としての創世記となった。知ってるよね。」
サワは、違うと思った。
「巫女様、違います。自然の前に太陽があって、人がいます。そして人の力で自然が生まれると習いました。」
巫女は、ケタケタと笑って訂正した。
「人が自然の上にいるなんてないでしょう。人は弱いから火を使い仲間を集め、知恵を使うようになったんだよ。サワはケヤキの思いを見たろう」
サワは、そうだと感じた。
人が自然より上なのは、伊勢の理屈だ。
本来は、逆なんだ。
サワは近畿圏の支配が恐ろしくなった。
こうやって歴史を書き換えてるんだ。
近畿圏の王が支配できる仕組みを作っていたのだ。
このことに気がついたのだ。
巫女は優しく微笑んでいる。
このゆとりは本物だ。
北川辺の大巫女も権現堂の巫女も、皆同じ事に従っていた。
その事であった。
サワは巫女に伊勢で習った話をしようと声を上げたが、止められた。
「サワ、私たちは、自然の摂理の中で生きているのだ。伊勢の理屈は、後付けじゃろう、話さんでも良い。」
サワは、裏切ることの危険性に気がついた。
巫女は優しく、ケヤキの根の上に手を乗せて、確認するようにサワに言った。
「北川辺の大巫女も、権現堂の巫女も、そなたの素性は知っておる。そなたがどう感じるか、何をするのかも自由じゃ。しかし心してかかれよ。そなたの運命が大きく動く、ここで自由にしてれば良いんじゃ」
巫女は優しく、サワを諭す。
サワは、巫女の心は読めなかったが、言ってることは理解していた。
黙らなくてはならない。
また焚き火の薪がパキっと音を立てた。




