秋の初めての収穫
秋の初めての収穫
利根川の左岸に金色に光る苗が棚引いていた。
ゆかりは、集落の女に呼ばれて、右岸側の高い場所から川の向こう側を見ると稲穂が揺れていた。
ゆかりは、しばらくその黄金の揺れを見つめていた。
そして、よしおの顔が浮かんだ。
「よしおにも伝えて」
ゆかりは、よしおに伝えなきゃと思った。
よしおが駆けてゆかりの横に立ち
「何じゃ、この黄金色の穂は、、、」
よしおは丸木舟を使って対岸に行く。
光る穂、少しお辞儀をしてるような稲穂。
「これが籾が成長した米か」
言葉がなかった。
女たちが石刀を木で挟んでいたものを持ち込み、稲を根元から刈っていく。
束にして丸木舟に乗せていく。
ゆかりが叫んでる。
「この丘の上に持ってきて、乾燥させるんだって」
ゆかりは取引した男の言葉を続けた。
よしおは、春先に狩りに出たとき感じた、あの不穏な空気を思い出した。
関東に入る手前、三浦半島に大きな船が来ていた。
その舟は近畿圏の勢力と関わりのある族長たちが新天地を求めて来たのであった。
三浦半島を抜けると大きく静かな海が広がっていた。東京湾であった。
族長は、湾の先に川の入り口をいくつか見つけ、そのひとつに向かっていった。
「おお、この川の先の平地は、これまでにない大きな土地が待ってそうだ。」
川の先に広がる湿地帯だが、広がる大地の大きさに感動していた。
「これは期待できる、、、」
族長は、胸の奥が熱くなるのを感じていた。
族長の命令で川筋を確かめながらゆっくりと進んだ。
すると舟の上から小さな舟を下ろして、先行させることにした。
いまの流れとはかなり違った。
いまでいうと市川の辺りから入り、松戸から春日部、幸手辺りを通り、加須辺りで微高地を見つけ、集落などが見えてきた。
北川辺の辺りで少し広くなった場所があった。
川辺に縄文の男たちが待っていて、その真ん中に背の低い小太りの女が立っていた。
族長は、舟を止めて、綱を下ろして降りた。
真ん中にいた女は北川辺の大巫女であった。
族長が大巫女に話しかけた。
「我々は、新たな土地を目指してここまで来ました。お話を聞かせてください。」
後ろに並ぶ、男達の勢いに押されて、丁寧な言葉が出たようだ。
すると大巫女が答えた。
「ここらの微高地は、小屋で一杯で、湿地帯しかありません。大丈夫ですか」
丁寧な返し、しかし簡単には入れないぞという気合の入った言葉に、族長は、タジタジ来てしまった。
周りを見ると微高地に小屋がたくさん並んでいて、その前の男たちが、通さないという気構えを感じた。
男たちは一歩も動かず、ただ川風の中に立っていた。
大巫女は、族長の目をまっすぐに見ていた。
「このまま川上には、同じような感じなのでしょうか。」
大巫女が答える。
「はい、そうなります。微高地には小屋があり、別の集落があります。」
族長は、こりゃ無理だなと感じた。
戻るぞッと声を出した。
舟から人が降りてきて川に入り、舟を回転させる。
大巫女が後ろの男たちに伝え、彼らもその動きを手伝う。
舟は大きく回転し、反転した。
この春の動きは、縄文の暮らしを大きく揺るがした。
この後、よしおは北川辺の大巫女に会い、関東の巫女たちに知らせたのである。
そしてその秋、大きな船の先導をしていた舟から、籾をもらい毛皮と交換して、秋に実ったのであった。
よしおの前に揺れる黄金の穂は、春に利根川を遡った大きな舟の者たちが夢見た、あの広い大地の未来そのものだった。




