第147章:シャルロット・ローゼンベルク入学編
「――まったく、お父様の圧力ったら凄まじかったわ。絶対に学園へ入学して成果を持ち帰れだなんて、言葉の端々にどれほどの脅迫が含まれていたか……」
ゼノリス王国魔法学園の壮麗な正門をくぐりながら、私――シャルロット・ローゼンベルクは、扇で口元を隠して小さくため息を吐き出した。
我がローゼンベルク家は、鉱山・魔石資源および兵装基盤を独占する最高峰の貴族階級。その長女である私が入学するとなれば、倍率の跳ね上がりようも尋常ではない。何でも今年度の新入生枠は、各国からの関心も相まって過去例を見ない大激戦だったという。
門を越えたところで後ろを振り返れば、私をここまで送ってきた豪華な馬車と従者たちが、名残り惜しそうに控えていた。
「ここからはお供の立ち入りは厳禁、か……。まあ、学園の規律なら仕方ありませんわね」
取り巻く環境が変わろうと、社交界で培った私の立ち回りが鈍ることはない。それに、この学園生活を退屈させないための頼もしい顔ぶれも揃っている。
「シャルロット様! お聞きになりましたか? 今年度の新入生、例年以上に凄まじい倍率だったそうですわ」
華やかな笑みを浮かべて寄り添ってきたのは、伝統ある伯爵家の令嬢、ソフィア・フォン・ハルトマン。育ちの良さと品格を備えた彼女は、社交の場でも私と話が合う数少ない友人だ。
「ええ、知っているわ。我が家でもその件でひと揉めあったくらいですもの。……あら、リゼット。貴女、そんなところで何を真剣に見つめていらっしゃるの?」
私が声をかけると、視線の先で立ち止まっていた子爵令嬢のリゼット・フォン・ブライトが、ハッとして振り返った。彼女の実家は薬草学や魔導草の栽培を家業としており、学園の敷地に植えられた植物に目を奪われていたらしい。
「あ、シャルロット様! すみません、庭園の魔導草の育ちが素晴らしくて……。あ、あの、ニーナさんもちゃんとついてきていますか?」
リゼットが心配そうに振り返ると、少し離れた後ろから、大きな鞄を抱えたニーナ・フォン・バウムが縮こまりながらついてきていた。地方の零細男爵家の娘でありながら、優秀な成績で特待生枠を勝ち取った苦学生の彼女は、私たち豪華な面々の中にいるのがまだ気恥ずかしいらしい。
「は、はいっ! 大丈夫です、リゼット様……! シャルロット様のお召し物が眩しすぎて、直視すると目が潰れそうで少し距離を置いていただけです……!」
「ふふ、相変わらず大袈裟な子ね、ニーナは。いいこと? 私たちの前でそんなに小さくなる必要はありませんわ。貴女のその優秀な頭脳は、学園で大いに私たちの役に立ってもらうのですから」
「は、はいぃっ!」
ソフィアの華やぐ淑女の微笑み、リゼットのマニアックな知識、そしてニーナの真面目な学習能力。
この3人を従え、最高位の公爵令嬢として学園の頂点に君臨する――それが私の描いていた、完璧なキャンパスライフの第一歩だった。
……この時までは。
◇
「――では、新入生代表挨拶および生徒会の紹介に移る」
講堂で行われた入学式。
壇上に上がったのは、仕立てのいい制服を着た一人の少年だった。
年齢は私たちと同刻。どこか浮世離れした静けさを纏い、最前列に並ぶ名門貴族たちの視線を浴びても、微動だにしない圧倒的な冷徹さと合理性を漂わせている。
「あの方……どこの大貴族のお方かしら? ヴァルグレイヴ家? それともベルンハルト家?」
ソフィアが小さく囁く。
「……いえ、聞き覚えがありませんわ。ですが、あの立ち振る舞い、只者ではありません」
私も扇を強く握りしめ、壇上の少年――アレンを凝視した。
彼こそが、多忙を極める生徒会を統括し、学園運営の重責を一身に背負う「完璧なる優等生」として噂される人物。
しかし、私がこの時まだ知る由もなかった。
彼が学園の真の創設者であり、生徒会室という最高級の個室を占拠しては自作の小説を読んで一人でにやけているだけの男だということも。
そして、私が実家の鉱山・魔石技術という「誇り」を引っ提げて彼に接近した結果、彼の規格外すぎる魔理と化学的アプローチによって、私の常識が木っ端微塵に打ち砕かれる未来が待っていることも――。
「シャルロット・ローゼンベルク。この学園でも、私が一番でなくては気が済みませんわ」
私は口元に優雅で強気な笑みを浮かべ、壇上の「隠れた絶対者」を見つめていた。




