第144章:神の監視カメラと、崩壊する黒の管理者
大空を染め上げる「魔法花火」の余韻に包まれ、各国の要人たちが感涙の誓いを交わし合っている、まさにその時。
アレンの背後に、ぬっと影が忍び寄った。
「ねえねえ、アレン」
耳元で囁かれたのは、専属派遣社員(女神)であるエルエルの、どこか意地悪でニヤニヤとした声だった。
「へー、良いところあるじゃん。ちゃんと真面目に締めること考えるんだ? てっきり、今が一番目立つ状況だからさ~」
エルエルはすっと身を引くと、大講堂の物陰でノリノリで「ポーズ」を決め始めた。
右手で顔の右半分を覆うように指を「ブイの字」に開き、腰を落として漆黒羽織の裾をオーバーにヒラヒラと翻す。
「『クックック……静まれ、俺の右腕……! 今夜は右目が疼きやがるぜ……!』――みたいな感じで、ポーズ決めまくるのかと思ったよー!」
「………………っ!?」
その瞬間。
アレンの脳内で、これまで構築してきたあらゆる論理回路と術法展開の組み立てが、すさまじい処理落ち(クラッシュ)を起こした。
視覚情報が完全に狂い、血の気が引いて全身の毛穴という毛穴が凍りつく。
そう――それは、彼が誰一人いないはずの自室や、無人の迷宮の奥で「ロールプレイの自己演出テンプレ」として密かに動作検証(ポーズ練習)していた、絶対非公開の超最高機密ログそのものだったからである。
「あ……がっ……」
膝から力が抜け、あの「黒曜龍」すら科学的に粉砕した最強の術者が、その場にガクッと膝をつき、床に両手をついて崩れ去った。
(……見られていた……!? 神界の監視モニターで……あの黒歴史の練習風景を……最初から……全部……!?)
今までどんな勘違いや暴走が起きても「俺の計算通りだ」と冷徹にスルーし続けてきたアレンの精神が、根本から折れ曲がる乾いた音が響いた。
「ア、アレン様……!? どうされたのですか!?」
「店長! アレン様が突然、床に崩れ落ちられました!」
遠くで駆け寄ってくる第一王子(店長)と女聖騎士(副店長)の心配そうな声すら、今の彼には聞こえない。
アレンは真っ白な顔のまま、床を見つめて掠れた声で呟いた。
「……エルエル」
「なーに? 漆黒の管理者様?」
「……時間、戻しちゃダメかな? 【時空制御】で、この十数秒の存在記述ごと、なかったことに……」
「神様、怒ると思うよ?」
エルエルは心底楽しそうにケラケラと笑いながら、人差し指をチチチと横に振った。
「時間軸の巻き戻しなんてやったら、神界サーバーの履歴ログに『黒歴史の隠蔽目的』って永久保存されちゃうよ? ルカちゃんだって激怒して手動パッチ当てるの拒否するよ~?」
「………………」
絶望的な詰み(チェックメイト)。
大空では、アレンの放った美しい花火が最後の輝きを放ち、各国の王たちが「おお、神が我らに涙しておられる……!」とまたしても感動の嵐を巻き起こしている。
その真下で、理を書き換えし続ける男は、前世からの黒歴史のダメージに身を悶えさせながら、二度と立ち上がれないかのように深く項垂れ続けるのだった。




