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小説の先にある世界  作者: 藤咲玲


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第142章:軌道修正の演説と、トーナメントの提示

「あ、あの……アレン理事長、大変なことになっております……っ! 外の警備隊や教員たちが圧迫感で相次いで胃潰瘍を起こし、各国の要人たちもあまりの熱狂に過呼吸を起こしかけていまして……! このままでは式典が崩壊いたします……!」


 万雷の拍手が鳴り響く壇上の袖で、青ざめた担当教員が涙目になりながらアレンの羽織の裾を引っ張った。


 アレンはチラリと会場へ目をやった。

そこでは、帝国や法皇国、クレイズ王国の重臣たちが「世界統一機構の提示だ!」「我らも全財産を注ぎ込んで『バルツァー・ラボ』の流通構造に組み込まれねば!」と歓喜のあまり白目を剥きかけている。


(……さすがにこの状態はマズいな。勝手に神格化されて国家レベルの経済暴走を起こされると、あとで調査や事務手続きの不整合の処理対応が増えて面倒くさすぎる)


 収拾がつかなくなりかけた現場の熱量を冷却し、現実的な「課題」へと人々の意識をリダイレクト迂回させるため、アレンはマイクへ向けてトントンと指先で叩いた。


「――静粛に」


 アレンが放った低い一言で、静寂が一瞬にして大講堂を支配した。彼は手元のメモを握り潰すと、視線を各国の首脳たちへとまっすぐに向け、演説のトーンを切り替えた。


「勘違いするな。俺が提示したいのは、単なる流通の統一や都合の良い救済ではない。……先の黒曜龍のような世界規模の未曾有の災厄が、今後二度と現れないという保証はどこにもないんだ」


 アレンの言葉に、帝王も法皇もハッと息を呑み、表情を固くした。


「一人の力や特定の国家の武力だけに依存する体制は脆弱だ。今こそ各国家、各地域が垣間を越えて手を取り合い、予期せぬ困難へ立ち向かうための持続可能な育成環境を構築するべきだと俺は思う」


 アレンは言葉を区切り、大講堂全体を見渡した。


「そして、これからの時代において最も重要なのは、各国、そして地方の町に至るすべての若者たちの底上げと育成を担う『学園』という教育インフラだ。……だからこそ、この場を借りて提案する」


 アレンは朗々と、しかし冷徹なまでの説得力をもって宣言を叩きつけた。


「各国、各都市の代表者を広く募り、この学園を舞台とした『異種選抜トーナメント』を開催し、若者たちに明確な目標と鍛錬の機会を与えてやるべきではないか?」


 会場の全員が、息をすることすら忘れてアレンの言葉に聞き入っていた。


「種目は『魔法部門』、そして『武術・剣術部門』と明確に区分する。各国の技術や教義を競い合わせ、互いの無駄を削ぎ落とし、次代の戦力を効率的に鍛え上げる場とする」


 アレンにとっては「過剰な崇拝熱を『若手育成の競技会』という具体的なイベントへ放出し、学園の宣伝と授業料収入、さらには市場の活性化へと繋げるための現実的な着地点」に過ぎなかった。


 ――だが、世界の首脳陣の受け取り方は、またしても遥か斜め上へと跳ね上がった。


(……おお……おおお……っ!!)


 アルカディア帝国のオクタヴィウス宰相は、震える手で胸を押さえ、涙を流した。


(あのお方は……目先の支配など望んでおられない! 我ら人類全体の教育水準を底上げし、未来の災厄に備えさせる『次世代武闘演習(世界規模の実戦模擬戦)』の機会を与えてくださったのだ……!!)


(我が国の『店長(第一王子)』と『副店長(女聖騎士)』を参加させよ!)と法皇は固い拳を握りしめ、クレイズ国王も「我が国の聖騎士団の若手精鋭を全員集結させよ! アレン様へ我らの誠意を示す好機だ!」と血眼になって叫んだ。


「よし。日程や詳細な規約については追って通達する。各国とも、優秀な若者を準備しておいてくれ」


 演説を終え、すっと壇上を降りるアレン。

担当教員は「す、素晴らしい演説でした……! これで皆さんの暴走が止まり……」と涙ぐんだが、直後、各国の首脳たちが「直ちに本国へ打電! 各学園および騎士団から最精鋭の若手を選抜せよ!」「全財産を投じて特級装備を買い揃えろ!」と前代未聞の大狂乱を開始したのを見て、再び崩れ落ちたのだった。


 アレンはそんな喧騒を横目に、冷めかけたお茶を啜りながら「これで大会の入場料と出店料、さらには調達資材の利益で、学園の向こう数年分の運営費は完全に確保できたな」と、一人満足げに頷くのだった。

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