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小説の先にある世界  作者: 藤咲玲


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第139章 :帝国国境と「ささやきの森」の戦慄(校正版)

 神聖騎士団の全精鋭を挙げた大移動が決定した直後、法皇庁の参事会では現実的かつ極めて重大な「移動ルート」の問題が浮上していた。


 ゼノリス王国へ最速で到達するための最短ルート――それは、かつてアレンが広域環境の調整を行ったとされる、魔法帝国東部に広がる広大な大樹海『ささやきの森』を直貫する軍事ルートであった。


「……即座にアルカディア魔法帝国へ正式な軍事通行申請《通行要請》を出せ。『神聖騎士団全軍、アレン様主催の式典出席のため、貴国東部ささやきの森の領内通過を要請する』とな」


 法皇猊下の直命を受け、超光速の魔導通信が帝国のオクタヴィウス宰相のもとへと叩きつけられた。


 通信を受け取った帝国の執務室では、オクタヴィウス宰相が書類を二度見し、青ざめた顔で額の汗を拭っていた。


「な、何だと……!? レムリア法皇国の神聖騎士団『全軍』が、我が国の『ささやきの森』を突入通過するだと……!?」


 一国の最精鋭軍団が他国の領土を強行軍で通過するなど、通常であれば即座に宣戦布告とみなされる開戦事由である。しかし、申請書の末尾に添えられた理由を目にした瞬間、宰相の思考はまたしても盛大に暴走した。


(あ、アレン様からの招集命令に応じるため……だと!? そうか、そういうことか……! アレン様は我が帝国と法皇国の結束を試しておられるのだ! もしここで我が国が通行を拒み、無駄な不協和音《連携不全》を起こせば、あのお方が施された大霊脈の安定化措置をすべて巻き戻されかねん……!)


 冷や汗を流しながら、宰相は即座に国境守備隊へ特級通達を発令した。


「全関門へ命ず! レムリア神聖騎士団の『ささやきの森』通過を全面的に許可せよ! どころか、森の魔物どもが彼らの行軍の邪魔をせぬよう、帝国の魔導騎士団を先導させ、最優先の優先ルートを確保するのだ!!」


「は、ははっ! 直ちに!!」


 こうして、本来であれば世界大戦の引き金となりかねない他国軍の領内通過が、アレンという共通の「絶対的絶対者」の名のもとに、前代未聞の爆速スピードで全承認即時全許可された。


 魔法帝国の東部国境では、重装甲を誇る帝国の魔導騎士団が「ささやきの森」の先頭に立ち、その後ろをレムリア法皇国の神聖騎士団が一糸乱れぬ異様なる大群列で突き進むという、歴史上あり得ない「東西二大強国合同の超巨大行進列」が誕生してしまった。


 二大国の軍隊が「アレン様の待つ学園」という単一の目的地に向かって大爆走を繰り広げている頃――。


 ゼノリス王国の理事長室で静かに温かいお茶をすすっていた当のアレンは、手元で静かに風を吹かせながら呑気につぶやいていた。


(……ん? なんだか東の森の魔素濃度が一気に高まった気がするな。まあ、大気循環の季節的な誤差だろう。さあ、次の帳簿の見直しを進めるとするか)


 己が放った一枚の手紙が、大陸の軍事バランスと国境の概念を完全に崩壊させていることなど、彼はやはり知る由もなかった。

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