第136章 :ゼノリス王国の動揺
「……おい、もう一度言ってみろ。我が国の王立学園から、一体何が発信されたと……?」
ゼノリス王国の王城・謁見の間。国王は報告に訪れた外務大臣の言葉が信じられず、固まりついた顔で問いただした。
「は、はい……! オルフェリア王立学園の最高理事長に就任したアレン・ノア氏より、各国の首脳陣へ向けて『学園の定期祝賀会』への招待状が送付された模様です。……なお、その宛先なのですが……」
外務大臣が震える手で差し出した報告書を目にした瞬間、国王をはじめとするゼノリス王国の重臣たちの顔から、一斉に血の気が引いた。
「バルツァー辺境伯はもとより、レムリア法皇国の法皇猊下と第一王子……! アルカディア魔法帝国の帝王陛下と宰相、さらにはクレイズ神聖王国の国王陛下まで……!? ば、馬鹿な! 世界の主要国家の頂点すべてに、単一の学園から直接の招待状が叩きつけられたというのか!?」
「しかも、各国とも『あの絶対者からの召喚である』と解釈し、国王や帝王が自ら全権を携えてゼノリス王国へ乗り込んでくる構えを見せております! すでに国境付近には各国の超一流の護衛部隊や国賓級の車列が集結しつつあり……!」
静まり返る謁見の間に、大臣たちの悲鳴に近い報告が次々と響き渡る。
ゼノリス王国にとって、アレン・ノアは「黒曜龍の脅威から世界を救った英雄」であり「国家の予算すら凌駕する莫大な資産を動かす怪物」であった。だが、まさか自国の王立学園の理事長に就任した途端、国を丸ごと通り越して『世界の首脳会談』を勝手にセッティングしてしまうなど、誰が予想できただろうか。
「ひ、一学園の祝賀会に、世界を統べる王や帝王が勢揃いするなど前代未聞だぞ! 開催地である我がゼノリス王国が知らぬ存ぜぬで通せるはずがないではないか!」
「警備はどうするのだ!? 万が一、我が国の領内で他国の元首に何かあれば、即座に世界大戦に発展するぞ!」
「そもそも、アレン殿は一体何を企んでおられるのだ……!? 我が国を飛ばして世界の勢力図を直接塗り替えるおつもりか、それとも新たな国際機構でも立ち上げられるというのか……!?」
王国の中枢は、かつてないほどの過剰な誤読と大混乱に包まれていた。
自国の領内で行われる「ただの学園行事」が、一夜にして「世界の運命を決める超国家規模の頂上会談」へと変貌を遂げてしまったのだ。国家の威信と存続をかけ、ゼノリス王国は全軍および全暗部を動員した過去最大の国賓警備体制を強制的に敷かざるを得なくなった。
一方その頃、理事長室で静かに本をめくっていた当のアレンは、外の騒がしさなど露知らず、呑気に思考を巡らせていた。
(よし、これで顔なじみへの近況報告と学園の宣伝はバッチリだな。まあ、十億円分の元くらいは取れるだろう)
自分が飛ばした数枚の「軽い挨拶の手紙」が、自身の母国をも破滅寸前のパニックへと叩き落としたことなど、彼はやはり微塵も気づいていないのだった。




