第134章: クレイズ神聖王国の動揺
ゼノリス王国の名門学園から、一本の魔導通信とともに届けられた無記名の最高級招待状。
それが王城の執務室へと持ち込まれた瞬間、クレイズ神聖王国の首脳陣は凍りついた。
「――なんだと? あの黒曜龍を単身で討伐した伝説の男、アレン・ノアからの直接の招待状だと!?」
羊皮紙を握りしめる国王の手に、じっとりと冷や汗が滲む。
クレイズ神聖王国は、先の黒曜龍討伐において国際同盟の一角として名を連ねていたものの、アレン自身が直接足を踏み入れたことは一度もない国であった。それゆえに、このタイミングで届いた「学園の式典への招待」という報せは、あまりにも唐突であり、そしてあまりにも不気味に響いた。
「無記名で数枚……これは一体どういう意図だ? 我らの忠誠や姿勢を試しているのか?」
「あるいは、同盟国としての踏み絵……立ち回りを誤れば、我が国もあの黒曜龍と同じ運命を辿るということでは……!」
重臣たちが青ざめた顔で交わす議論は、瞬く間に最悪の誤読へと加速していく。
「他国はどう動いている!?」
「はいっ! 報せによりますと、バルツァー辺境伯はもちろんのこと、レムリア法皇国は法皇猊下直々に 第一王子殿下を伴ってご出席の模様! さらにはアルカディア魔法帝国も、帝王陛下自らが全権を携えて乗り込まれるとのことです!」
「な……なんだと!? 世界の覇権を握るトップたちが、こぞって一斉に集うというのか!?」
報告を受けた国王はガタリと椅子を蹴って立ち上がった。
ただの学園の祝賀会などではない。世界の超大国や宗教の頂点が、一人の男のもとに結集する前代未聞の「世界首脳会談」へ変貌を遂げていたのだ。もしここでクレイズ神聖王国だけが名代の使節でお茶を濁そうものなら、世界の勢力図から一瞬で蚊帳の外へと弾き飛ばされかねない。
「冗談ではない! 名代などという生ぬるい対応で済むか! すぐに第一王子と、国内最強の聖騎士団を全機動させよ! 私自身も直接向かう!」
「は、陛下自らご出席されるのですか!?」
「当たり前だ! これは式典などではない、我が国の存亡を賭けた国際外交の最前線だぞ!」
国王の叫びとともに、クレイズ神聖王国は全軍緊急配備に匹敵する大パニックと、国を挙げた最上級の献上品選定作業へと突入していった。
当のアレンが「黒曜龍の時の同盟国だし、誰か暇な奴が顔でも出してくれればいいな」と、気楽にお茶でも奢る感覚で送った一枚の紙切れが、またひとつ国家を丸ごと狂乱の渦へと叩き落としたことなど、知る由もなかった。




