第133章:招かざる客たちへの招待状
アレンは、処理を保留にしていた最後の項目――形式的な行事や式典の予算について、手元の資料を見つめながら思考を巡らせた。
「四半期ごとに実施される王侯貴族を招いた大舞踏会・祝賀会……一回あたり十億円か」
年間四十億円が消えていく見栄と無駄の巨額予算。本来であれば即刻全廃か厳格な事前稟議に切り替えるべき案件だが、アレンはふとアゴに手を当てた。
(……待てよ。見栄を張るためだけに金をドブに捨てるのは論外だが、学園の宣伝として使うなら、この催しも悪くはないな。ちょうど最近世話になった顔なじみも増えたことだし、近況報告ついでに招待状でも送ってやるか)
本人は至って気楽な「旅先で知り合った友人や仕事仲間に同窓会の案内を出す」程度の感覚で自らの構想に納得すると、青ざめた顔で指示を待つ幹部へ冷淡に問いかけた。
「次の開催予定はいつだ?」
「は、はいっ! 再来月を予定しております……!」
「……そうか。既に手配が動き出している案件なら、今さら白紙撤回する方がかえってキャンセル費用などの 損失を膨らませるだけだな。やむを得まい、次回開催分まではそのまま執行を許可する」
安堵の表情を浮かべかけた幹部たちをよそに、アレンは「ただし」と指を一本立てた。
「無駄に終わらせるつもりはない。俺の知り合いくらいは招待枠として席を確保させてもらう」
アレンは受付から無記名の最高級招待状を数枚受け取ると、理事長室へと戻っていった。
(ただの見栄を張るための社交パーティなら金の無駄だが、知り合いを呼んで学園をアピールする場にするなら、十億円の予算も宣伝費としてギリギリ許容範囲か)
気軽な気持ちで羽ペンを走らせ、脳内で手際よく宛先を整理していく。
・バルツァー辺境伯
(国防の要であり、株式会社バルツァー・ラボの強力な共同出資者)
・レムリア法皇国第一王子(バルツァー・ラボ4号店・店長)
・レムリア法皇国女聖騎士(バルツァー・ラボ4号店・副店長)
(4号店の店長と副店長も、たまには店を離れて息抜きが必要だろう)
・レムリア法皇
(ついでに立ち上げを喜んでくれた第一王子の父親としても呼んでおくか)
・魔法帝国帝王本人
・魔法帝国ベルンハルト侯爵 および 令嬢エレーナ
・魔法帝国オクタヴィウス宰相
(あの熱心な美容水の顧客の令嬢と、いつも丁寧な手紙をくれる宰相さんたちだな。せっかくだから帝国のトップにも一枚送っておくか)
さらにアレンは、まだ自ら直接足を踏み入れてはいないものの、黒曜龍討伐の際に国際同盟を組んだ間柄である『クレイズ神聖王国』へと思いを馳せた。
(まだ現地の下調べは完了していないが、挨拶としては悪くないタイミングだ。誰か都合のつく奴が暇つぶしにでも来てくれればいいな)
アレンはクレイズ神聖王国宛てにも無記名の招待状を数枚封入し、自室の転送魔導陣へとセットした。
「形式ばかりの式典だが、まあ宣伝効果で回収させてもらうとしよう」
アレンは気楽な様子で、世界の主要勢力へ向けて一斉に招待状を送り届けたのだった。




