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小説の先にある世界  作者: 藤咲玲


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第126章:皇王国からの旅立ちと、魔法帝国アルカディア

 聖都の医療システムが『バルツァー式聖教典』によって完全に標準化され、平和を取り戻した『株式会社バルツァー・ラボ皇王国支店4号』。


 カウンターの奥で本を読んでいたアレンは、区切りの良いページでパタンと文庫本を閉じると、静かに立ち上がった。


「さて、皇王国の視察はこれで終了だ。そろそろ行くぞ」


 その一言に、棚を掃除していた店長(第一王子)と、お茶を淹れようとしていた副店長(女聖騎士)の手がピタリと止まった。


「あ、アレンさん……!? 行ってしまうのですか……!?」


「アレン様! 4号店は……4号店はどうなるのですか!?」


 ショックで顔を蒼白にする二人に対し、アレンは至って平然とエプロンを畳んでカウンターに置いた。


「どうもこうもない。この4号店はお前たちに任せる。店長、副店長、明日からも今まで通り適当に営業しておけ。売上と特許利用料の管理は本社に自動送信されるようになってるから、変な不正さえしなければ好きにやっていい」


「「……私たちが、4号店を……!?」」


 アレンにとっては「拠点の一つを現地スタッフに管理委託する」というだけの話だった。だが、二人の受け取り方は違っていた。


(神が……私にこの『真なる神殿』の管理を託してくださった……!)


(あのお方の深遠なる聖域を守る……それが、私に与えられた新たなる聖命……!)


「はい……! 承知いたしましたアレンさん! 私の命に代えても、この4号店と『バルツァー式聖教典』の教えを守り抜いてみせます!」


「私も店長の護衛として、そして副店長として、死力を尽くしてこの店舗を維持いたします!」


 目をうるませながら固い決意を交わし合う二人を前に、アレンは「ただの店番に命を懸けるな」と呆れつつ、影の領域から旅の荷物を取り出した。


「これからは魔法帝国アルカディアを経由して、ゼノリス国へ帰還する。じゃあな」


「「いってらっしゃいませ、アレン様……! お気をつけて!!」」


 数日後。

アレンは快適すぎる街道をのんびりと歩き、皇王国と隣接する世界最高の魔導大国――『魔法帝国アルカディア』の国境検問所へと到達していた。


 空を飛び交う大型魔導船、街の至る所に配置された立体魔導陣、複雑に交錯する魔力ライン。

皇王国が「神聖魔法と信仰」の国だったのに対し、アルカディアは「極限まで発達した魔導技術」を誇る文明国家だ。


 アレンが検問所に近づくと――そこには異様な光景が広がっていた。


 通常なら長蛇の列ができるはずの国境ゲートがすべて封鎖され、中央の特設貴賓レーンだけが静まり返っている。

そして、その両脇には、豪華な礼装に身を包んだ帝国の高位魔導騎士団と、検問所の最高責任者が、滝のような冷や汗を流しながら直立不動で並んでいた。


(……来た! 帝国中枢を恐怖のどん底に陥れ、我が国の経済圏を完全に掌握された『バルツァー・ラボ』の総帥……アレン様がお戻りになられた……!!)


 検問所の最高責任者は、膝の震えを必死で抑えながら、遠くから歩いてくるアレンの姿を認めた瞬間に、腹の底から叫んだ。


「全軍――ッ!! 最高敬礼でお迎えせよぉぉっ!!」


 ガチャンッ!!と甲冑の擦れる重厚な音が響き渡り、数百人の魔導騎士が一斉に右拳を胸に当て、地べたに頭が届かんばかりの深々と頭を下げた。


「ア、アレン様……! アルカディア帝国国境検問所へようこそお戻りになられました! 貴賓用特設ゲートおよび全関門の通行許可、事前にすべて完了しております! 審査等の無駄な手続きは一切ございません!」


 責任者は、震える両手で最高位の『全関紋章フリーパス』を差し出し、冷や汗を拭いながら恭しく頭を下げ続けた。

 かつてアレンが宰相に送った「最低限の社交には工数を割く」という手紙を「いつでも帝国のインフラを麻痺させるという無言の脅し」と誤読して以来、帝国中枢から全関門へ「アレン様のお手を1秒でも煩わせたら即座に首が飛ぶと思え」と厳命が下されていたのだった。


 アレンは小脇に文庫本を抱えたまま、特に驚く様子もなく淡々と提示された貴賓レーンを通過していった。


(ふむ……無駄な検問の待ち時間がゼロか。CEOの手配と以前送った挨拶状の連絡手順がしっかり機能しているな。実に合理的だ)


 アレンにとっては「無駄なロスタイムがない素晴らしい手筈」としか思っていなかった。


「では、通り抜けるぞ」


「ははぁぁっ!! どうか快適な旅路となりますよう、帝国全土の魔導網を挙げてバックアップいたします!!」


 直立不動で拝み倒す魔導騎士たちの脇を通り抜け、アレンは悠々とアルカディア帝国の街並みへと足を踏み入れていく。


 かつて本拠地として立ち上げ、今や時価総額4兆円超の巨大プラントへと成長したアルカディア第4倉庫(バルツァー・ラボ本社)。

そしてその先にある故郷、ゼノリス国への帰還路。


 世界の裏側を書き換え続けるアレンの旅は、穏やかに、事故なく、そして帝国側の過剰な恐怖と敬意に包まれながら続いていくのだった。

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