第114章:神殿への挨拶と、投げやりの神託
第一都市での処理を終えたアレンは、法皇国の心臓部である「聖都レムリア・グラード」へと移動していた。目的である中央魔導市場での新たな調査や研究素材の探索へと足を進める前に、アレンは都市の中央に聳え立つ巨大な神殿へと向かう。
そこに祀られているのは、この国の信仰の対象である『理と秩序の神』だ。
(一応、ここに祀られているんだからな。形式的にも挨拶くらいは行っておくべきだろう)
特別な感情もなく、アレンはごく気軽に神殿の重厚な門をくぐった。
神殿内は静謐な空気に満ちており、出迎えた神官たちも最初はごく普通に対応していた。整った身なりの巡礼者が一人訪れた程度に捉え、ごく自然に内部へと通す。
だが、アレンがそのまま中央の礼拝通路を進み、奥に鎮座する聖像の祭壇へと近づいたその時だった。
無色のはずの聖像の足元が、静かに、だがはっきりと神聖な光を放ち始めた。
予期せぬ現象に神官たちが息を呑む中、アレンはその輝きの理由を冷めて把握していた。
原因は、神から世界の歪みを修正する仕事用に託されたスキル――『因果律の泥臭い辻脄合わせ《ラフ・アジャスト》』だ。
世界の不具合を処理した際、神界と現世の境をその辻脄合わせで強引に繋げてしまっていたため、神界への接続点である聖像がその干渉を感知し、反応して輝いてしまったのだ。
(挨拶のつもりで近づいただけで、境界の接続に反応してしまったか……)
アレンが静かに眉をひそめたその瞬間、脳裏に脳天気な声が直接響いた。
『やぁアレン君、急用かい?』
(いや、普通に挨拶しに来ただけだが……。何か光ってるんだが)
『おや、ラフ・アジャストが仕事したみたいだね。ははは』
(笑い事じゃないんだが)
光を放つ聖像を見上げ、周囲の神官たちが今にもひざまずこうとしている気配を感じながら、アレンは心の中で低く溜め息をついた。
『それじゃあ、こうしよう。少し神託があったとでも言っておけばいい。……内容は君が考えてくれたまえ。ははは』
それだけ言い残すと、通信はぷつりと切れた。
神聖な光に照らされながら、神官たちが感涙にむせび、恐る恐るアレンへと視線を向けてくる。
急遽、自分で適当な神託を捏造してこの場を収める羽目になり、アレンは心の中で静かに面倒くささを噛みしめていた。
アレンは気だるげに肩をすくめると、神官たちに向かって小さく呟いた。
「神託があったみたいだ。なんか、ここでの商売を認めようとかなんとか……」
「な……『ここでの商売を認めよう』……!?」
あまりにも適当で投げやりな伝達だったが、神官たちは息を飲み、互いに顔を見合わせた。
「おお……! 『理と秩序の神』が、異国の品や新たなる知識をこの聖都へ巡らせ、市場にさらなる秩序と繁栄をもたらすことをお許しになられたのだ……!」
「なんという深遠なる御意志……! 尊き啓示を伝えてくださり、感謝いたします!」
勝手に都合よく解釈し、涙を流して拝み始める神官たちを横目に、アレンは静かに回れ右をした。
(まあ……これで市場での活動許可も勝手に降りたようだし、良しとするか)
聖像の光が徐々に収まっていく中、アレンは何事もなかったかのように神殿を脱出する。
形式的な挨拶(と予期せぬ誤作動)を終え、アレンは本来の目的である聖都の中央魔導市場へと足を進めた。
さて、神託などと簡単に口にしたが、これまでの歴史を振り返っても神託が下りた例はない。
あるとすれば過去の聖女くらいなものである。
法皇国は大騒ぎとなり、やがて法皇のもとまで話が聞こえていた。




