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小説の先にある世界  作者: 藤咲玲


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第111章(ささやきの森の帰還と、合理主義の再計算

 神の間での邂逅と「サトオの轍」という教訓を経て、アレンの意識はふたたびささやきの森の夜気の中へと戻ってきた。


 目前には、先ほど自らの手で完璧な温度管理のもと焼き上げた極上のボアステーキが、香ばしい湯気を立てている。アレンはそれを一口放り込み、咀嚼しながら冷徹に思考を巡らせた。


(……あまりの効率主義は危険だと悟った。サトオのように文明のバランスを完全に破壊し、世界の根幹にまで手を加えれば、性格の悪い神は容赦なく世界の理ごと巻き戻しの介入をしてくるだろう)


 神の間で聞いた先駆者の末路は、合理性を至上とするアレンにとっても無視できない警告だった。直接この世界を管理しているのはエルエルの上司である「あの神」だが、サトオの文明を理不尽にリセットしたもう一人の「性格の悪い神」がどの階層に潜んでいるのか、その所在はいまだ不明のままだ。あれが別次元の神なのか、あるいは同じ世界の別の管理領域にいる高位存在なのか――データ不足のまま過剰な干渉を行うのは、世界構造の不具合を引き起こす最大のリスクとなる。


「……無理な過剰な効率化は、長期的には最大のロスを生む。今回の件は、あくまで仕様の範囲内で収めるのが得策だな」


 アレンは小さく息を吐くと、目の前の国境線沿いの調査任務へと意識を切り替えた。

警備兵から得た情報や、これまでの森の踏査データを脳内で高速で照合させる。


「さて、この国境線沿いの調査は、適当に『特異点なし、異常なし』の定型書式でまとめてギルドに提出しておけばいいか」


 実質銀貨数枚の塩漬け依頼にこれ以上リソースを割くのは非効率の極みだ。問題は、アレンの影の領域に静かに収納された、あの面倒な固有スキル――「鑑定」の残影である。


(問題は、今すっかり沈黙しているあの鑑定さんだ。音声出力は強制ミュートしているが、内部の記憶基盤や過去の履歴が今後どう振る舞うか、完全に予測しきれていない)


 神から半ば押し付けられる形で引き取ったその厄介なデータを抱えたまま、アレンは今後のルートについて冷徹に計算を弾き出す。


 このまま国境沿いを引き返して帝国領に戻るか、あるいは、いまだ未踏の領域であるレムリア皇王国へと足を踏み入れるか。


「……帝国に戻るのも手だが、皇王国側の経済圏や魔素データのサンプルも一度回収しておきたいところか」


 特上ボアステーキの最後の一切れを口に運びながら、アレンは次の移動先を決めるべく、静まり返ったささやきの森の闇へと冷ややかな視線を向けた。

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