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小説の先にある世界  作者: 藤咲玲


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第112章:皇王国への進路と、影の鑑定結果

 ささやきの森の温泉村で一晩を過ごし、心身の回復を終えた俺は、次の目的地をどこにすべきか脳内でルートを再計算していた。


 帝国の南端に長居する義理はない。神の間の件や、あの性格の悪い――以後、心の中で「悪神」と呼ぶことに決めた無責任な管理者の依頼の件もある。


「次に向かうは、隣の『レムリア皇王国』とやらにするか」


 国の情報や魔導市場の動向、そして今後の拠点拡大のための市場調査を兼ねて、足を延ばす価値はある。今回の調査任務の報告も、どうせなら皇国内にあるギルド支部で行うとしよう。


 俺は歩きながら、影の領域に収めた『万物鑑定』の残影――いや、今は単に「鑑定」と呼んでいる雑用データに意識を飛ばし、皇王国に関する詳細なデータを引き出させた。


 脳裏に、帝国とはまた異なる威圧感を放つ巨大国家の輪郭が浮かび上がる。


名称: レムリア法皇国(自称皇帝を名乗り、ヴェストルム大陸内での面積は堂々の第1位)

位置: アルカディア魔法帝国の南東に隣接する、広大な土地。

政治体制: 神聖政体(法皇を頂点とする宗教独裁・神権国家)

最高権力者: 第七十三代法皇 『レグナード・ベネディクト』

信仰対象: 始まりの女神、および神界の管理体制(※為政者たちはそれを「絶対の神託」として政治利用している)

首都: 聖都レムリア・グラード(幾重もの白い高壁と、天を突く巨大な大聖堂がそびえる芸術と信仰の都)


 数々の周辺小王国を「教義の庇護下」という耳当たりのいい名目で実質的な属国として従えており、大陸全体の政治、経済、そして魔導技術において圧倒的な影響力を誇っている。

国教である「レムリア正教」の教えが絶対であり、法皇の言葉はそのまま国の法律となる。表向きは慈悲深い神の教えを説く平和な国だが、その裏では異端審問や厳格な思想統制が徹底されているきな臭い国家だ。


(ほう……「神界の構造」に最も近い古代遺跡やオーパーツを独占している、か)


 鑑定データを読み進めながら、俺は小さく鼻を鳴らした。

法皇直属の「神聖魔導院」では失われた古代の文字や術式研究が盛んに行われており、俺が路地裏の泥や魔導回路でやっているような「理の書き換え」の片鱗に、歴史上最も近づいてしまった国家らしい。


 もっとも、連中はあくまで「神から与えられた構造を正しく神聖に運用・解釈する」という立場だ。俺のように数値を狂わせたり、仕組みを勝手にいじくり回したりする不敬は、一発アウトで異端認定されるに違いない。


 さらに厄介なのが、その防衛・治安体制だ。


 常備軍のほかに、過激な信仰心と高い戦闘力を誇る「聖騎士団」、そして国家の脅威や都合の悪い存在を闇に葬る「異端審問官」が組織されている。

特に異端審問官たちは、魔力の隠蔽や特殊な魔法技術を暴くことに特化している。


(……ふっ。俺の隠蔽スキルや理の改変がうっかり公の場で露呈しようものなら、真っ先にあの面倒くさい連中の標的になるってわけか)


「悪神」のせいでただでさえ面倒な調整作業を押し付けられているというのに、今度は厳格すぎる宗教国家の検問まで潜り抜けなければならないらしい。


 だが、リスクが高いということは、それだけ美味い魔導データや未知のオーパーツが眠っているということでもある。

俺は馬車の座席に深く体を預け、異端審問官の影におびえるどころか、新たな「研究素材」の予感に冷徹な笑みを浮かべながら、レムリア皇王国への国境へと馬車を進めさせるのだった。

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