第95章:神罰の御前
眩い強制召喚の光が収まると、そこは先ほどの荒涼とした地上とは打って変わり、無限に広がる純白の神域――『最高裁決の間』であった。
足元には幾何学模様を描く神聖なグリッドが幾重にも敷かれ、その頭上には宇宙の真理を司る巨大な天秤のオブジェが静かに浮かんでいる。
「――おや、ご苦労だったな。エルエル担当官。そして、そちらが今回の件で話題の……アレン君か」
静寂を切り裂いて響いたのは、底冷えするような威圧感ではなく、どこか穏やかで理知的な神の声だった。
玉座の上から見下ろす最高神は、冷や汗を流して平伏するエルエルをひと目見てから、微動だにせず佇むアレンへと柔らかな笑みを向けた。
「神様……! その、色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんっ!」
必死に床に額をこすりつけるエルエルに対し、神は穏やかに手を振って制す。
「顔を上げなさい、エルエル。君のこれまでの報告と、今回のログの不整合について、システム側の記録を精査させてもらったよ」
神は手元のホログラムを軽くスワイプし、穏やかな口調で言葉を続ける。
「結論から言えば、今回の件はすべてが君の責任というわけではない。こちらの管理システム側の想定不足――つまり天界側の観測グリッドに古い仕様が残っていたことが、エラーを拡大させた主な原因だ」
「え……? じゃあ、私の隠蔽工作や職務怠慢は……?」
「それについても厳重注意は免れないがね。ただ、今回のトラブルの本質はそこではない。世界の理そのものが、未知の局面に直面しているということだ」
神は真摯な瞳でアレンを見据えた。
「アレン君。君が歩みによって引き起こした現象は、現在の世界の法では処理しきれない『システムの綻び』そのものだ。私たちが直接、世界の理に介入して修正することは、世界のバランスを崩すため不可能な相談となっている」
「……で、俺にその後始末をしろと?」
アレンが呆れたように問い返すと、神は苦笑交じりに頷いた。
「察しが良くて助かる。そこでだ、君にこの世界の各地で起きる『理の歪み』の解決を依頼したい。もちろん、タダとは言わない。協力してくれるというのなら、君の旅を助けるための正規の手続きを経て、空間を拡張し収納を自由にする『特殊アイテムボックス』の譲渡を約束しよう」
「……ふん。悪くない条件だな」
アレンが小さく息を吐いたのを確認し、神は満足そうにうなずいてから、傍らで青ざめているエルエルへと視線を移した。
「そして、今回の管理不行き届きと監査網の混乱の処分についてだが――エルエル、君には今日付けで『管理官』の資格を剥奪する」
「なっ……! そんな、私の平穏な日常が……!」
「左遷人事だ。今後はアレン君の『専属助手』として地上へ派遣し、彼の旅のサポートおよび監視を義務付ける。
身分としては、いわゆる『派遣社員』のようなものだと思ってくれたまえ。現地では予算も最低限だ、月に銀貨20枚といったところかな。
せいぜい安宿にでも泊まり、安いエールでも飲みながら節約に励むことだな」
神の淡々とした宣告に、エルエルはその場で盛大に崩れ落ち、絶望の声を上げるのだった。




