第92章:幕間 バルツァー・ラボの放任
ゼノリス王国西南の街、活気ある大通りに面した「バルツァー・ラボ」の執務室。窓の外ではギルドへ向かう冒険者たちの喧騒が聞こえるが、この部屋の中だけは奇妙なほど静謐だ。
壁一面に並ぶ経営資料、整然と管理された資産運用のポートフォリオ、そして冒険者ギルドとの独占契約書。それらはすべて、アレンが雇ったCEOの執務デスクに集約されている。
アレンは執務室の椅子に深く腰掛け、デスクに置かれた一通の承認書類にサインを走らせた。
「あとは任せた。報告は必要な時にだけ聞く」
冷徹なほどに合理的な指示を、CEOは恭しく受け止めた。アレンにとって、バルツァー・ラボは目的ではなく、成り行きで出来てしまった産物に過ぎない。
資産4000万の運用益は、自動的に次なる研究施設への設備投資と、最先端の魔導研究費へと変換される仕組みが構築されている。
煩雑な事務作業、ギルドとの泥臭い折衝、市場の相場変動。
――そんなものは、年俸1200万で雇ったCEOの仕事だ。
「好きに運営しろ。俺は俺の人生を歩む。」
「好きな時に寝て、好きな時に酒を飲める。軍資金はたんまりある。気ままに行こうか」
ラボの扉が閉まる。背後でCEOが何かを言おうとしていた気もするが、アレンにとってはその声すら、すでに遠い場所の出来事のように響いていた。




