第91章:黒曜討伐報酬
冒険者ギルドの奥、重厚な扉の向こう側で、ギルドマスターは信じられないものを見る目でアレンを見つめていた。デスクの上には、討伐の証として提出された黒曜龍の鱗と、契約を完了させるための書類が整然と並べられている。
「……本当に、たった一人で成し遂げたのか。アレン・ノア、君の伝説は本物だな」
ギルドマスターが震える手で差し出したのは、重厚な革袋だった。中には、王室の承認印が押された聖金貨が詰まっている。
ずっしりと重いその感触は、アレンにとって単なる対価ではなく、自身の「技術」がこの世界というシステムにおいて、いかに高く評価されたかを示す証拠でもあった。
アレンは表情一つ変えず、その革袋を受け取ると、淀みない動作で自身の腰に下げた。
「報酬は正確に受け取りました。今回の討伐は、あくまで私の構築した戦術シミュレーションの検証プロセスの一環に過ぎません。……結果は良好、といったところですね」
彼は事務的な口調でそう言い放つと、ギルドマスターの驚愕を背後に残したまま、踵を返した。
廊下を歩きながら、アレンは脳内で計算を走らせる。
聖金貨30枚(30億円)。これで手元の現金は30億500万円。ラボの株式資産4,000万円と合わせれば、総資産は30億4,500万円に達する。
アレンは歩みを止め、ギルドの壁に手を当てて思考にふけった。彼の脳内にある高度な演算回路は、突如としてこの膨大な資金を、市井の生活基準という「低レイヤーな単位」に変換し始めた。
「まずエールだ。王都で一番の酒場なら、樽生が一杯500円(銅貨5枚)といったところか。30億500万円あれば……」
アレンの視界に計算結果が浮かぶ。
「……601万杯。毎日100杯飲んでも、理論上は164年以上生存可能ということか。過剰なバッフだな」
次に彼は、大好物のステーキセットをシミュレートする。大銅貨3枚(3,000円)の標準価格をベースにする。
「王都の『銀の食卓』の特選ヒレステーキセットが3,000円。これならばコストパフォーマンスは最適化されている」
アレンは指先で空中に数字をなぞった。
「30億500万円 ÷ 3,000円 = 1,001,666食。毎日3食ステーキを食ったとしても、913年間は消費できる計算になる」
アレンは満足げに頷いた。
「これなら『資産の寿命』は私の寿命よりも長い。実質的に、食事という『エネルギー供給プロセス』に対する永続的なアクセス権を確保したのと同じだ。毎日最高級の食事を摂り続けても、資金が枯渇する懸念はゼロに等しい」
彼はふっと笑みをこぼした。
「エール601万杯分もの流動資産を持ちながら、ステーキを食い続けても900年持つ。……実に合理的なマルチタスクだ。さて、まずはこの資金を使って、ラボの自炊環境を最適化するシステムを組むべきか。安価な食材で最高級の味を再現する、アルゴリズムの改善が必要だな」
傲慢な天才は、30億円の重みを感じながら、夕食の献立という名の「次なるプロジェクト」へと没頭していった。




