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星の魔力と探検家  作者: 早宮晴希


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3/4

前文明の痕跡②

 地下空間に落ちてから五日が経った。


 すでに足の矢傷はほとんど癒え、軽く走る程度であれば問題ないほどだ。


「さて、そろそろ探索にいくか」

「分かった」


 向かう先は、寝泊まりしている部屋から池に向かって右側にある壁向こうだ。


 なぜそこに向かうのかだが、四日前に雨が降った。

 その際に、部屋まで水位が上がってくるかとヒヤヒヤしていたが、ここより低いとこで流れていっていることに気づいた。

 それが壁向こうだった。


 軽く覗いた限りでは、ここの部屋と同じような部屋だったが、中央が崩壊し窪んでおり、そこに水が流れ込んでいたらしい。

 その行先は暗くてよく見えていないが、川の様に流れていっているようだ。


 そして昨日、足の慣らしも兼ねて廊下側の探索を行った。

「出口はなかったし行っても大したものなかったよ?」

 彼女的にはそうなのだろうが、こちらとしては色々と見てみたい。


 そう言うわけでアイラに同行してもらいながら光の玉を使ってもらい好きに探索していた。


「ふむ、ここはなんでこんなにも生物について研究?をしていたんだ? 特に行動心理や行動原理みたいな……なんというか、本質を求めたような……」

 探索していくと、部屋ごとに専門的な本がいくつも見つかる。


 大きく分類分けをすると、

 ・生物行動学

 ・人間心理学

 ・生物行動原理学

 ・神話生物分類原論

 ・空想生物の能力付与実験記録

 ・精神、自我、魂の非物理存在の証明

 ・マナ還流型肉体組成原論

 ということらしい。ほとんどが生物に関するものだった。

 拾い上げた表紙を見るたびにアイラがそれに合わせて解説をしてくれていた。

 だが、そのほとんどが「よく分からない」の一言で片づけれてしまうほど、理解から遠い存在だった。


 一例として、"マナ還流型肉体組成原論"の挙げるならば

「ああ、それね。人間って心臓や血液があって初めて成立するものでしょ。それを別の物に置き換えたいって話なの。

 でも、普通に置き換えようとすると、人とはかけ離れた組成になってしまうの。だから、それをどうにかしようとして研究していたみたい。

 私の知っている限りだと、細胞とかすべての構成物質を微生物から人工物に置き換えるの。それで心臓の代わりに魔核を、血液の代わりにマナにね。前に捕まえた鹿みたいに」


 鹿から取れた正八面体、あれがこの話に繋がってくるらしい。

 因みに前に捌いた鹿は通常種との混血だったとのこと。


「マナってのは何なんだ?」

 血液の代わりになるものって何なのか、それぐらいならまだ理解ができる気がする。


 アスクの質問にアイラは首を傾げ、どう説明したものかと悩んでいるようだった。

「んー、マナってのはね。簡単に言うと自由になんでもできるエネルギーみたいなもの……かな?」


 マナってやつは何でもできるらしい。だからそのマナに血液の代わりができる……そういう話だった。

「うん。わからん。説明してくれて助かるけど知らないことが多すぎてついていけないわ」

 率直な感想だった。気にはなるんだがどうも今の頭では理解しきれない。


「そっか。また聞きたいことがあったら聞いてね。知ってる限りで教えるから」

 アイラはニコニコとしながら答えた。


 そう言ったやり取りが気になるものを見つけるたびに行われていた。


 そしてこの階層は地下三十階ある内の十五階にいるらしい。

 廊下を進み上下の階段を見つけたが崩壊していて使えなかったがその近くにあった階数標識に書かれていた。


 それが昨日の出来事だ。


 そして今日、出発の準備を終えていざ壁の向こうに跨ごうと思う。

 足の矢傷は問題なく、足の踏ん張りができる。


 完全に渡り切り安全を確認するとアイラに合図する。

「こっちに荷物を渡してくれ」

「はい」

 壁の向こうからヒョイっと荷物が出てくる。

 背負っててもよかったが万が一に備えてね。


 その荷物を受け取った後アイラの渡ってきた。

「よし、忘れ物はないな?」


「釣り道具も持ったし、食料も十分……大丈夫」

 アイラも小さな鞄を腰につけていた。

 そこに収まらないから肩から布に覆われた釣竿を持っているし、鞄の中身はほとんど釣りの仕掛けや少量の餌が入っている。

 その食料は落ちた時に水浸しになった干し肉だ。

 食べるには少し厳しいが、餌にはちょうど良かった。


「釣りにハマったからってわざわざ持ってこなくても……」

「この先食料に困ったら嫌だしね。あるに越したことはないよ!」


 ここ数日の食料はアイラが釣った魚がほとんどだった。

 教えたのは俺だったがほぼ捌くばっかりだ……。


 釣竿は落ちてた丈夫な棒と見つけた裁縫道具の糸と針を加工して(アイラが)くっ付けただけのものだったが、それでも十分だった。


 陥没した所には、それなりに生態系があるらしく食料に困ることはなかった。

 大きい魚だと、両手で抱えられるほどの魚もいた。


 最初は俺が釣っていたが興味を示したアイラがやってみた所、面白かったらしい。

 それから今日までずっと釣りをしているのはアイラだ。


 釣りすぎた魚は焚火であぶるなり燻製っぽくしてみたりと色々と食べた。


 一日二日は大丈夫な量の食料が今俺の背負っている鞄に入っている。

 正直、魚の匂いが付かないか心配だ。


 そして釣りをしていて難点だったのは、やはりヌメリと内臓や血の処理だ。

 ただ、アイラから受け取った細長い布切れ……これがかなり役に立った。

 今は俺の首に巻かれている(魚臭くはない……が、手に染みついていて匂いが漂っているのはつらい)。


 アイラが言うにはそれはストールという防寒に使えたりするらしい。だから最初は手拭きに使われることに渋い顔をしていたが、便利だから仕方ない。

 どう便利だったかというと、汚れても水洗いするだけで汚れや臭いが落ちる。

 ある程度吸水性もあるのか、汗を拭くのにも役に立つし、直ぐに乾く。何とも便利な布切れだ。


 よほど気になる時は、アイラに洗浄してもらった。

 宙に浮かせた水の中に布切れを入れて激しく回転させたり絞ったりして汚れを落としていた。

 その際アイラは、指を動かしたり腕を動かしたりと、見ていて楽しかった(見てたら睨まれたけど)。



 しばらく横に流れる瓦礫の上の川に沿って奥に進んでいく。

 途中から暗くなるためアイラが明かりを灯す。

「これは下の階に続いているってことでいいのか?」

「分からないけどそうだと思う。徐々に下っているし」

 水がどこかに流れていっているのは確かだ。


 途中瓦礫に阻まれるがそれを乗り越えて同じように進む。

「そういえばあんなものアイラなら退かせるんじゃないか?」

 ガレキぐらいならアイラの能力で何とかできないのかと、疑問に思った。

「この建物の建材は私の力じゃどうにもできないの。だからごめんね。それについでだけど人間にも危害を加えられないから」


 崩壊に巻き込まれたら大変だ。

「危害ってどこまでが?」

 それによってほとんど使えない可能性がある。

「基準は分からない。けど、人間に向けて使おうとするとうまく使えなくなる感じ」

 彼女自身もよくわかっていないのか。そもそも使う機会がどれだけあったのか。


 それを聞いてみる。

「使う機会?こうなってからはほとんどないよ」

 ほとんど。ということは、何かしら使う機会はあったらしい。


「そっか。じゃあここから脱出するのにアイラの手を借りるのは厳しいな」

 脱出よりも探索を優先してしまってはいるが、いざとなった時、アイラが助けてくれるとは限らない、そのことが理解できた。気を付けないと。


 二階分ぐらい降りた頃。

 寄り道もできずここまで一直線だった。


 通じていたのは水浸しとなった部屋へと繋がっていた。

 川から流れてきた水が部屋の床を濡らしている。


 だが、こうして水が流れ続けているのに、水嵩は靴底程度だ。明らかにどこかに流れていっている。

「水がこんだけで助かったけど、どこだここ……」

 明かりに照らされた部屋は、明らかに一人部屋とはいいがたく、どちらかといえば、数十人が生活していそうなほどの大きさだった。


 二人は、本来の出入り口である場所へ向かい部屋について書いているか確認する。

「実験室……兼研究室?」

 改めて部屋を確認すると、机の本来の配置は分からないが、ある程度規則的に置かれていたことは見て取れる。その机の上はぐちゃぐちゃになって散乱していてほとんど原型を留めていない。


 唯一見てわかるのは、その周囲に円柱状の台座があり、その上の透明なガラスが割れていることが確認できる。


 アスクは昨日読んだ書物の表紙を思い出し、身震いする。

「なぁこれって……生物実験の部屋ってことはない……よな?」

「その一部だろうね」

 アイラは即答する。


「げ、まさかまだ生きている奴がいるとかはしないよな?」

「いると思うよ。ここにいるわけだし」

「は?」


 アスクは驚きとともにアイラの方を見る。

 そこには彼女以外の姿はない。

「えっと……アイラ?」

 こちらから聞きにくかったことだからアイラから言ってくれるならそれでもいい。


「ここの実験はある程度成功してるんだよ。そのある地点での成功が私」

 そこからはアイラの身の上話となった。


 この実験室で、研究されていた実験の一つ"不老不死の実験"があったらしい。

 そして人間の素体では現時点として到達することは不可能と判断し、代案を模索していた。

 それが、疑似的な肉体に精神を宿すというものだった。


「そんなことが可能だったのか……」

「その時の人類は全知全能だと驕っていたよ。そのくせに金には困っていたみたいだけど」


 肉体の作成と精神の移植、この両方を確立させるのにかなりの時間が掛かり、それに比例して資金が必要になった。

 先に確立できた精神移植を使い、資金と実験材料を集めるため、資産家に精神移植の話を持ち掛けてしまう。

 後に魂の転移となる技術だそうだ。


 老いた資産家はこぞって若い肉体を用意する。そこに移植してもらおうと。

 老いた肉体は廃棄した。じゃあ、若い肉体の精神はどこへ行くのか。


「その余った精神はストックされ、別の実験の道具にされる。ね、無駄がないでしょ?」

 自嘲気味に彼女は言う。


 資産家は皆喜び、次々と資金を提供してきたらしい。愛する者も同じようにしたいがために。


 そして、その資金を得て、老化しない肉体を作ることができた。

 ここからはストックした精神の使い所。


 精神の入っていた肉体とは違い、ゼロからの調整。そう中々うまくいくものではなかった。

 ストックしていた精神も底をつく。すべて失敗だった。


 中には定着したものの精神に異常をきたし、死ねない体で自傷行為をし続ける者もいた。


「実験の副産物で、老化防止薬もできて資金は潤ってたみたい」

 それを一般の市場に流し定期的に摂取しなければ老化が進む薬を売りつけていたらしい。

「一回買ったら怖くて止められないな……」


 そしてアイラ自身についてに移る。

「それから、かなり改良されて精神は問題なし、肉体も異常なしってなった内の一人が私」


「ということはアイラは人間……ではない?」

「正確には人間ではない。けど中身は元人間だよ?」

 アイラは少し寂しそうに言った。


「とはいえ、私はここの出身じゃないんだけどね」

「え?別にまだあるのか?」

 彼女は頷く。


「確か、五つはあったはず。若干用途は違ってたみたいだけど。ここは、人間に近しい部分を実験してたみたいだけど……」


 他にまだ四つもあるのかと驚愕する。

 そして説明の中にマナや魔核についての話がないことに気づく。


「あれ?そういえばマナとか魔核ってここの実験じゃないってこと?」

「そう。こことは別の場所。私の生まれた所がそういう実験してたの。こことは手法が違うの」

 アスクはうんざりそうに「まだあるのか……」とこぼす。


「やっぱ、これは着いてから教えるね」

「あ、ああ」

 彼としてはありがたかった。これ以上難しい話をされても頭に入らなかっただろう。


 長々と話していた二人だが、不意に周囲が気になった。

「ん、さすがに生き残った奴はほかにいないんだよな……?」

 アスクはここの荒廃具合を見てそう思いたかった。


「どうだろう? 逃げ出しててもおかしくないと思うよ?」

 アイラがそう伝えると、彼はため息を漏らして項垂れる。


「とりあえず地上に上がれる場所を探そう」

「そうだね」

 二人は本来の出入り口から廊下へと進んでいった。



 グルルルル……

 部屋に残された小さな気配。

 二人はそのことに気づかずに進む。



「そういえばここってあの池の水面より低いんだよな……」

「そうだよ?水が流れてきたら大変だね」

「それは他人事過ぎない?!」


 そんなことを言いながら突き当りの壁まで来ていた。

 その先が先ほど話題に上がった池の水がある所。


 この壁はかなり頑丈にできているのかヒビ一つ見当たらない。

 上部が崩れて池になっていることが信じられないほどに。


「なんで上はあそこまで壊れたんだ?」

「さぁ? 原因はあの爆発としかね」

「そんなもんか」

「そういうもの」


 何だが、核心に迫れそうなものほど話をはぐらかしてないか?

 そう思えて仕方なかった。さっきの話を聞いてよりそう思うようになった。


 結局ここからは上に向かうための道は見つからず、引き返すことになった。

「まだ水の先を目指してみる?」

「流れる先はありそうだったけど……これ以上下に進んでも上がれるのか?」


 色々と模索した結果、池の所から上がるのが無難であるということに落ち着いた。

 だから、早々に必要なものを集めて上に戻りたいわけだが……


 ギュルルルルル……

「なぁ、なにか聞こえないか?」

「何かいるみたい」

「さっき話してた時近くにいたってことか?!」

「たぶん……警戒して出てこなかっただけかも」


 二人して気づかず話していたらしい。


「どうする?」

 アスクが腰に装備した小さな鉈の柄に手をかける。

 どうしても何者かがいる部屋を通らないと上には戻れない。

「もう少し近づいてみよう」

 アスクは頷くとアイラが明かりの光量を限りなく落とす。


 足音を殺して歩くものの水が浸っているせいで音が鳴る。

 向こうもこっちが近づいていることは気づいていると思った方がいいだろう。


 出入り口の両サイドに二人は別れて身を隠す。


 お互いが薄っすらと見える状態で二人は目配せする。

(どうする?)

(私が見てくる)

(え?おい!)


 アスクが首を振って自分が先に行くと伝えようとしている時にはもうアイラは部屋に入っていた。


「きゃっ」

 部屋に入った途端、押し返されるようにアイラが弾き飛ばされている。

 そしてその上に何やら大きな何かが覆いかぶさるようにアイラを押さえつけていた。


「おい!やめろ!」

 そう言って首元に噛みつこうとしていた奴に体当たりする。

 だが、アスクの体当たり程度では、体を揺らす程度にしか効果がなかった。


 グルルルルル……

 丁度、腹の部分に体当たりしたこともあり、近くで聞こえる。

「腹が減ってるのか?」

 腹の中から唸り声のような腹の虫が鳴いていた。


 それにアスクにとまれと言われたからなのか、首元に牙を触れない程度に噛みつく姿勢のまま止まっていた。

「アスク、別の命令をしてみて」

 アイラは押さえつけられて牙を向けられているのに冷静だった。

「離れて座れ」

 言われるがままアスクがそう命令すると、大人しくそれに従った。


「何だこいつ……」

 奴を観察しようとしてるのを察してかアイラは光量を元に戻す。


「猫だね」

「いや、この大きさでそれはないと思うぞ?!」

 アイラは濡れた髪を絞りながらそう言った。

 だが、明らかに大きい。立ったら人間より大きいのは確かだろう。


「こいつは、あれか。昔いた猫科の猛獣みたいなやつか?」

 昔見つけた端末にそんな奴が載っていた気がする。


「たぶんヒョウかな?黒いヒョウだね」

 全身が真っ黒な毛並みをしている。

 それが今、大人しくお座りして待っていた。


「どうする? 魚以外の肉は久々になるな……」

「え?食べるの?!」

 アスクが久々の肉だと言って捌く気満々だ。


 そのヒョウとアスクの合間に入ってアイラが庇う。

「待って、もっとよく考えてみてよ。このヒョウはアスクに従順だよ?もっと有効に使おうよ。ね?」

 なぜ襲われているのにそこまでして庇うのかアスクには理解しずらかった。


 だが、食べる以外の選択肢を得たのもまた一つ。

「確かに。それに食べれる肉か分からないしな……。で?どうする?連れて行くにしても命令しなきゃだし」


 それならと、アイラが耳打ちする。

「わかった。じゃあ、ヒョウよ。二人に危害を加えないこと。ほかは自由にしていいぞ」


 そうヒョウに命令する。

「腹が減った……」


「は?」

 どこから声がしたのか、一瞬理解ができなかった。

「理性を忘れて襲ってしまったこと、申し訳ない」

 そう言って黒いヒョウは頭を低くしていた。


「話せるのか?!」

「ええ、元人間ですから。それよりも、何か食べ物を恵んでいただきたいのです」

「あ、ああ。元人間……?」

 色々と気になるが、考えながらも鞄から干した魚を手渡す。


「ああ、久々の食事だ……まだあるのでしたら……」

 遠慮がちに追加を要求してきた。


 結果として手持ちの食料をすべて渡すことになった。

 もう戻るだけだからいいんだけど……


「これだけ食べればお腹は大方満たせました。ありがとうございます」

 そう言ってどこかに行くのかと思いきや、そのまま座った姿勢で二人を見ていた。


「あれ?用が済んでどっかにいくものだと思ったんだけど」

 アイラが首を傾げていた。


「食事のお礼もしたい故、しばらくの間、お供させてもらえないでしょうか」

 恭しくヒョウはお供させてくれと願ってきた。


「まぁ、いいんだけど、その話し方どうにかならない? 共に過ごすなら疲れない?」

 アスクはあっさりと同行を認めた。そして話し方を直してほしいと要求もしている。


 ヒョウは少し考えた後、話し方を変えることにしたらしい。

「わかった。これぐらいならどうだろうか」

 それにアスクが頷く。

「じゃあこれからよろしく。俺はアスク、こっちがアイラ。そっちの名前は?」

「パンサー……と呼ばれていた」

「パンサーね、よろしく」


 挨拶を済まして詳しい話は後回しに、一旦来た道を戻って拠点としていた場所へと戻っていた。


 壁を越える際、若干水辺に反りだしていることもあり、パンサーが苦戦するかと思いきや持前の身体能力で難なく渡ってきた。

 水に落ちても大丈夫ではあるんだけど。



「――――ということで、今に至る」

「そっか……よく生きてたね」

 パンサーの今までの経緯について聞いた。

 その間、近くでアイラは釣りをしながら聞いていたから俺とパンサーで向かい合って話す形になった。


 パンサーの話によると、パンサーと同様に動物の体に人間の精神を入れられた者達があそこにはいたらしい。

 その工程には色々あったらしいが、大きく分けて二つに分かれるそうで、動物の本能を入れてから人間の精神を入れるとか。

 そうすることで、生物的な行動を残しつつ、人間的な理性も獲得できるとして、研究されていたらしい。


 その実験体の一人(一匹)がパンサーであるヒョウの体を持つ彼だ。

 他の実験体は、外に出れるものは出ていき、絶望し自死する者もいたり、命令のまま留まるものと別れたとのこと。


 パンサーは高い身体能力も相まって命令に対しての強制力を強く持たされていた。

 だから、やめろと言ってやめたのだろう。


 だがなぜ俺の命令も聞いてしまうのかを聞いてみたが、人間の命令は絶対ということで命令する人間は特に決まりはないらしい。逃げ出した先で暴れられても困るからなんだろうけど。


 相反する命令の蓄積によって行動不能に陥るなどが判明した結果、不良品として保管されていたそうだ。


 それが、十年前にようやく設備が壊れて解放されたとのこと。ずっと意識はあったらしい。

 そうしたらすでに周りには何もいないし建物は崩れているしで、かなり困っていた。

 残っていた命令が待機だったため、動けず、部屋に流れてきた魚とかで食事は何とかしてきた。

 が、数日前からそれが一気に減ってお腹が空いていた所、二人が下りてきて魚の匂いに釣られて我慢の限界がきて理性が吹っ飛んで襲ってしまったと。


 俺とアイラのせいで腹を空かせていたらしい。


 で、俺がした命令のおかげで、他の命令が上書きされて自由になったと言っていた。


「とはいえ、俺たちもここから出れないんだけどね……そういえば逃げ出した奴らが使った道ってわかるか?」

 結構前の話ではあるが、どこか外につながる道がある可能性があった。


「どの方向に向かったか程度しか分からない。部屋の外には行けなかったから」

 申し訳なさそうに教えてくれた。

 だが、それが分かれば調べてみるのはいいかもしれない。


 早速明日、向かってみることにした。

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