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30歳童貞おっさんの転生物語  作者: 障子
第一章 ゴーレム編

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第20話 俺、神々の試練を蹂躙する

 さっきまで目の前にいた巨大な魔物は、壁を何枚もぶち抜いた先で完全に見えなくなっていた。俺は自分の拳を見る。勇者も俺の拳を見る。戦士も見る。聖女まで見る。


『……軽く?』


 勇者がもう一度聞いた。俺は頷いた。嘘ではない。本当に軽く殴ったつもりだった。


『あれで?』


 もう一度頷くと、勇者はしばらく黙ったあと頭を抱えた。


『お前、やっぱり鉄じゃないだろ』


 俺もそんな気がしてきた。ただ、それを伝えるためだけに床へ文字を書くのも面倒なので、俺は自分の腕を見てから肩をすくめてみせた。


     ◇


 吹き飛ばした魔物が戻ってくる様子はない。勇者は剣を構えたまま通路の奥を警戒していたが、やがてゆっくり武器を下ろした。


『たぶん、死んでる』


 俺は少し気まずくなった。倒すつもりではあった。でも、一撃であそこまで吹き飛ばすつもりはなかった。


『ちなみに、あいつかなり強いからな』


 俺が首を傾げると、勇者は続ける。


『ゲームだと、ここまで来たパーティーでも普通に全滅することがあるくらい』


 そんなに強かったのか。俺はもう一度、自分の拳を見る。ちょっと怖くなってきた。


     ◇


『次からは、さらに弱く殴れ』


 勇者が真面目な顔で言う。俺も真面目に頷いた。


『今の十分の一くらいで』


 十分の一。かなり弱く。よし、覚えておこう。俺たちは再び先へ進み始めた。


     ◇


 しばらくすると、次の広間へ出た。そこには今度は複数の魔物が待ち構えていた。巨大な狼のような魔物が三体。さらに空中には、翼の生えた蛇のような奴が二体。


『ここは俺たちもやる』


 勇者が前へ出る。戦士も武器を構え、聖女は後方で杖を掲げた。俺は少し後ろへ下がる。


 今回は見学だ。せっかくなので、勇者たちの戦い方を見ておきたい。


     ◇


 勇者が一気に駆け出した。速い。普通の人間とは比べものにならない。剣に光をまとわせ、一体目の狼へ斬り込む。


 戦士は別の一体を受け止め、聖女は二人へ支援魔法らしい光を飛ばす。ちゃんとパーティー戦になっている。俺の中にあった「勇者一行」のイメージそのままだった。


 正直、格好いい。俺もいつか、仲間と連携して戦うようなことをしてみたい。


     ◇


 その時、空中の蛇が大きく口を開いた。魔力らしい光が集まる。


『上!』


 勇者が叫び、聖女が防御魔法を展開する。光の壁。次の瞬間、蛇の口から巨大な火球が放たれた。


 危ない。そう思った瞬間、俺は反射的に手を出していた。


 パァン!!


 火球が消えた。正確には、俺が手で払った。勇者も戦士も聖女も固まる。俺も自分の手を見て固まった。


『今……魔法、素手で消した?』


 俺は自分の手と勇者を交互に見て、首を傾げた。


 たぶん。


     ◇


 勇者が何か言いかけた。だが、その隙に巨大な狼が背後から飛びかかる。


『後ろ!』


 俺は振り向く。手加減。十分の一。これを忘れない。


 俺は本当にかなり弱く、指で狼の額を弾いた。


 バンッ!!


 狼が消えた。また壁へ飛んだ。俺は自分の指を見る。これで十分の一くらいのつもりだったのだが。


『絶対、加減できてないだろ』


 勇者が呆れた顔で言った。


 否定できない。


     ◇


 残った魔物たちは、一瞬だけ動きを止めた。当然だと思う。仲間が指一本で消えたのだから。その隙に勇者と戦士が一体ずつ倒し、聖女の魔法が空中の蛇を撃ち落とす。


 今度はちゃんと連携している。俺が少し安心したところで、もう一体の蛇がこちらへ飛んできた。


 殴れば飛ぶ。指でも飛ぶ。なら、もっと弱く。俺は悩んだ末、そっと手を置いた。


 ドンッ!!


 蛇が床へ叩きつけられ、そのまま動かなくなった。


『お前、加減下手すぎるだろ!』


 勇者が叫ぶ。俺は倒れた蛇を見た。


 本当に、押さえただけなんだけどな。


     ◇


 戦闘は終わった。魔物は全滅。こちらは無傷。俺は床に転がる蛇を見ながら、少しだけ頭を下げた。


 申し訳ない。本当にそんなつもりではなかった。勇者は剣をしまいながら俺を見る。


『お前がいると、試練にならない気がする』


 俺も、ちょっとそう思う。


     ◇


 それから先も似たようなものだった。次の部屋では大型魔物が出た。俺が軽く押したら終わった。


 さらに次では魔法を使う魔物が現れた。攻撃を受けてみたが無傷だったので、近付いて触れたら終わった。


 その次は巨大な甲殻を持つ魔物。


『こいつ、物理攻撃ほぼ通らない』


 勇者がそう説明した。俺が軽く殴る。甲殻ごと吹き飛んだ。


 勇者が無言になる。


     ◇


 さらに先へ進む。魔物が出る。倒す。また進む。


 いつの間にか、戦闘が始まるたびに勇者たちの出番が減っていた。何だか申し訳なくなってきた。


『なあ』


 勇者が言う。俺は見る。


『俺たち、必要?』


 言っちゃった。


     ◇


 俺は床へ文字を書く。


『必要』


 勇者が読む。


『本当か?』


 俺は頷き、さらに続ける。


『俺 言葉わからない』


『道わからない』


『仕組みわからない』


『勇者必要』


 勇者は少しだけ納得した顔をした。


『戦闘以外全部か』


 俺は頷く。


『それはそれで複雑だな』


     ◇


 勇者は戦士と聖女にも説明したらしい。戦士は苦笑し、聖女はなぜか少し笑っていた。


 笑顔。いいな。俺はすぐに意識を別の方向へ向ける。


 落ち着け。爆発しない。今の俺は昔とは違う。


     ◇


 その後も試練は続いた。勇者が苦戦する相手も、戦士が受け止めきれない相手も、聖女の魔法を防ぐ相手も、俺が触ればほぼ終わる。途中からは、戦闘が始まる前に勇者が俺を見るようになった。


『やる?』


 俺が頷く。


『じゃあ頼む』


 扱いがだいぶ雑になってきた。


     ◇


 ある部屋では、巨大な魔法陣が床に現れ、そこから何十体もの魔物が召喚された。


『ここ、ゲームだとかなり面倒なんだよ』


 勇者が言う。俺は魔物の群れを見る。一体ずつ殴るのは面倒そうだ。


 なら、俺は手を軽く横へ振った。


 ゴォォォォォォン!!


 衝撃波が広がり、魔物たちがまとめて壁へ叩きつけられる。全部動かなくなった。勇者が口を開けたまま固まっている。


『お前……最初からそれやれたの?』


 俺は頷く。


『じゃあ今まで一体ずつ殴ってたの何だったんだよ!』


 俺は床へしゃがみ込み、一言だけ書いた。


『手加減』


『どこが!?』


     ◇


 そんな調子で、俺たちは神々の試練を進んでいった。俺にとっては、外へ出て初めての冒険であり、初めての仲間との攻略だった。全部が新鮮で、楽しい。


 ただ、勇者たちから見れば、たぶん何かが違う。


     ◇


 さらに奥へ進むと、これまでとは明らかに雰囲気の違う巨大な扉が現れた。装飾も違う。漂う魔力も違う。空気そのものが重い。


 勇者が足を止めた。


『ここだ』


 俺も扉を見る。


『この先が、神々の試練の最終区画』


 勇者はそう言ってから続ける。


『ここを突破すれば、願いを叶える宝珠が手に入る』


 願い。その言葉に俺は反応した。


『一人一つ』


 一人、一つ。俺の中で、長年ずっと抱えていた願いが浮かぶ。


 人間になりたい。できれば男として。


 そして何より、ちゃんと恋愛できる身体に。


 そこは非常に重要だった。

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