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30歳童貞おっさんの転生物語  作者: 障子
第一章 ゴーレム編

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第2話 俺、身体を作ります

 ――鉱石を吸収できる。


 それが分かってから、俺の生活はものすごく単純になった。


 鉱石を取り込んでいるうちに、身体を少し傾けられるようになった。最初はびくともしなかったのに、今ではどうにか転がれる。


 進歩だ。ものすごく地味だけど。


「鉱石!」


 ころん。


「吸収!」


 ころん。


「鉱石!」


 ころん。


「吸収!」


 ころん。


「…………」


 俺は止まった。


「何この生活」


 起きる。いや、寝てない。食べる。いや、食べてない。働く。いや、働いてない。


 ただ、転がって鉱石を吸収している。


「俺、何してるんだろう」


 少し悲しくなった。


     ◇


 時間の感覚がない。朝もない。夜もない。腹も減らない。眠くもならない。時計もない。


 つまり。


「何日経ったか全然分からん!」


 俺は叫んだ。もちろん、声は出ない。


 そう。俺には口もない。


「喋れない!」


 手もない。


「触れない!」


 足もない。


「歩けない!」


 顔もない。


「イケメンにもなれない!」


 最後は今関係ない。でも重要だ。ものすごく重要だ。


「異世界転生したんだから!」


 せめて。


「イケメンになりたい!」


 いや、贅沢は言わない。


「普通でいい!」


 普通の顔。普通の身体。普通に喋れる。普通に歩ける。普通に女の子と話せる。


 そして。


「普通に彼女が欲しい!」


 切実だった。


     ◇


 そんなことを考えながら、俺は鉱石を吸収し続けた。


「…………ん?」


 ある時、自分の中に何かが溜まっている感覚がした。


 今まで吸収した鉱石。それが俺の中にある。


「……これ」


 使える?


 なぜか、そんな気がした。


 俺は集中する。手が欲しい。


「手!」


 俺は強く念じた。


「手ぇぇぇぇぇぇ!!」


 すると、俺の身体から何かが、にょき。


 生えた。


「…………」


 俺は固まった。もう一度、確認する。


 細い。短い。棒みたい。でも、先端には何本か細い突起がある。


 俺は震えた。いや、身体が震えたのか分からない。


「手だ」


 手。俺の手。


「手ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 嬉しかった。めちゃくちゃ嬉しかった。


「俺の手!」


 動かす。ぎこちない。でも動く。


「曲がる!」


 少し。


「伸ばせる!」


 少し。


「握れる!」


 たぶん。


     ◇


 俺はその手をじっと見た。そして、想像した。


 女の子が隣を歩く。俺が手を伸ばす。女の子も手を伸ばす。そして、指が触れる。


「…………」


 俺は固まった。


「手を繋げる……!」


 感動した。


「俺、女の子と手を繋げるぞ!」


 まだ女の子はいない。


「彼女できるかもしれない!」


 まだ人間ですらない。


「うおおおおおおお!!」


 俺は手を振り回した。


 ぶん。ぶん。ぶん。


「手!」


 ぶん。


「俺の手!」


 ぶん。


「未来!」


 ぶん。


 ぽき。


「…………」


 落ちた。


 手が。俺の手が、床に転がった。


 俺は固まった。そして。


「うわあああああああああ!!」


 パニック。


「俺の手ぇぇぇぇぇぇ!!」


 落ちた!


「せっかく生えたのに!」


 落ちた!


「まだ女の子と手も繋いでないのに!」


 落ちた!


「俺の未来ぇぇぇぇぇぇ!!」


 床に転がる手。俺は絶望した。


     ◇


 しばらくして、冷静になった。


 原因は、たぶん。


「材料不足?」


 細かった。短かった。脆かった。


 つまり。


「もっと鉱石が必要?」


 俺は床に落ちた手を見る。


 よし。


「吸収」


 手も吸収した。


 少し悲しい。でも。


「作り直せばいい!」


 そうだ。失敗したなら、また作ればいい。


「次!」


 ころん。


「鉱石!」


 ころん。


「吸収!」


 ころん。


「もっと!」


 ころん。


「もっとぉぉぉぉぉ!!」


 俺は再び鉱石を集め始めた。


     ◇


 それから、俺は試した。


 腕。


「長い!」


 失敗。


 足。


「短い!」


 失敗。


 胴体。


「太い!」


 失敗。


 頭。


「三つある!」


 失敗。


「なんで三つ!?」


 分からない。壊す。吸収。作り直す。


「足!」


 四本。


「俺は馬じゃない!」


 やり直し。


「腕!」


 六本。


「虫!?」


 やり直し。


「頭!」


 巨大。


「バランス悪っ!」


 やり直し。


 何度も、何度も失敗した。でも、不思議と嫌じゃなかった。


 むしろ、楽しい。


 少しずつ、できることが増えていく。最初は転がるだけだった。それが今は、腕を作れる。足を作れる。身体を作れる。


 俺。


「成長してる」


 そう思うと、嬉しかった。


     ◇


 もちろん、問題もあった。


「顔」


 重要だ。ものすごく重要。


「イケメン!」


 俺は念じる。


「イケメン!」


 鉱石が動く。


「爽やか系!」


 形ができる。


「優しそうな目!」


 さらに形ができる。


「高すぎない鼻!」


 できる。


「自然な笑顔!」


 完成。


 俺は自分の顔を確認する。


「…………」


 硬い。ものすごく硬い。


 俺は沈黙した。


「……石じゃん」


 いや、鉱石か。


 違う。そうじゃない。


「俺が欲しいのは!」


 人肌!


「柔らかい肌!」


 無理。


「唇!」


 硬い。


「髪!」


 作ってみる。


 にょき。


「…………」


 針。


 俺は固まった。


「これ髪じゃない!」


 完全に金属の針。


「こんなの女の子に触られたら刺さるだろ!」


 いや、そもそも触ってくれる女の子がいない。


 悲しくなった。


     ◇


 それでも、俺は諦めなかった。


 鉱石を吸収する。身体を作る。失敗する。壊す。また吸収する。また作る。


 何度も、何度も繰り返した。


 どれくらい時間が経ったのか、分からない。一日? 一週間? 一年?


 いや、もっと?


 考えるのをやめた。時間を測る方法がない。


 だったら。


「完成するまでやる!」


 それだけだ。


 腕。足。胴体。頭。指。顔。


 少しずつ、少しずつ。俺の身体は形になっていった。


     ◇


 俺は自分の手を見る。まだ完全じゃない。でも、五本の指がある。


 握る。開く。握る。開く。


 嬉しい。


「今度は落ちない」


 ぶん。ぶん。


 落ちない。


「よし!」


 俺は拳を握った。


「これなら!」


 女の子と手を――。


 俺は止まった。


「まず女の子を探さないとな」


 順番が逆だった。


 でも、そのためには、まず身体。


「完成させる!」


 俺は再び鉱石へ向かった。


 ころん。ころん。ころん。


 吸収。吸収。吸収。


 そして、少しずつ、少しずつ。


 俺は玉ではなくなっていった。


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