第2話 俺、身体を作ります
――鉱石を吸収できる。
それが分かってから、俺の生活はものすごく単純になった。
鉱石を取り込んでいるうちに、身体を少し傾けられるようになった。最初はびくともしなかったのに、今ではどうにか転がれる。
進歩だ。ものすごく地味だけど。
「鉱石!」
ころん。
「吸収!」
ころん。
「鉱石!」
ころん。
「吸収!」
ころん。
「…………」
俺は止まった。
「何この生活」
起きる。いや、寝てない。食べる。いや、食べてない。働く。いや、働いてない。
ただ、転がって鉱石を吸収している。
「俺、何してるんだろう」
少し悲しくなった。
◇
時間の感覚がない。朝もない。夜もない。腹も減らない。眠くもならない。時計もない。
つまり。
「何日経ったか全然分からん!」
俺は叫んだ。もちろん、声は出ない。
そう。俺には口もない。
「喋れない!」
手もない。
「触れない!」
足もない。
「歩けない!」
顔もない。
「イケメンにもなれない!」
最後は今関係ない。でも重要だ。ものすごく重要だ。
「異世界転生したんだから!」
せめて。
「イケメンになりたい!」
いや、贅沢は言わない。
「普通でいい!」
普通の顔。普通の身体。普通に喋れる。普通に歩ける。普通に女の子と話せる。
そして。
「普通に彼女が欲しい!」
切実だった。
◇
そんなことを考えながら、俺は鉱石を吸収し続けた。
「…………ん?」
ある時、自分の中に何かが溜まっている感覚がした。
今まで吸収した鉱石。それが俺の中にある。
「……これ」
使える?
なぜか、そんな気がした。
俺は集中する。手が欲しい。
「手!」
俺は強く念じた。
「手ぇぇぇぇぇぇ!!」
すると、俺の身体から何かが、にょき。
生えた。
「…………」
俺は固まった。もう一度、確認する。
細い。短い。棒みたい。でも、先端には何本か細い突起がある。
俺は震えた。いや、身体が震えたのか分からない。
「手だ」
手。俺の手。
「手ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
嬉しかった。めちゃくちゃ嬉しかった。
「俺の手!」
動かす。ぎこちない。でも動く。
「曲がる!」
少し。
「伸ばせる!」
少し。
「握れる!」
たぶん。
◇
俺はその手をじっと見た。そして、想像した。
女の子が隣を歩く。俺が手を伸ばす。女の子も手を伸ばす。そして、指が触れる。
「…………」
俺は固まった。
「手を繋げる……!」
感動した。
「俺、女の子と手を繋げるぞ!」
まだ女の子はいない。
「彼女できるかもしれない!」
まだ人間ですらない。
「うおおおおおおお!!」
俺は手を振り回した。
ぶん。ぶん。ぶん。
「手!」
ぶん。
「俺の手!」
ぶん。
「未来!」
ぶん。
ぽき。
「…………」
落ちた。
手が。俺の手が、床に転がった。
俺は固まった。そして。
「うわあああああああああ!!」
パニック。
「俺の手ぇぇぇぇぇぇ!!」
落ちた!
「せっかく生えたのに!」
落ちた!
「まだ女の子と手も繋いでないのに!」
落ちた!
「俺の未来ぇぇぇぇぇぇ!!」
床に転がる手。俺は絶望した。
◇
しばらくして、冷静になった。
原因は、たぶん。
「材料不足?」
細かった。短かった。脆かった。
つまり。
「もっと鉱石が必要?」
俺は床に落ちた手を見る。
よし。
「吸収」
手も吸収した。
少し悲しい。でも。
「作り直せばいい!」
そうだ。失敗したなら、また作ればいい。
「次!」
ころん。
「鉱石!」
ころん。
「吸収!」
ころん。
「もっと!」
ころん。
「もっとぉぉぉぉぉ!!」
俺は再び鉱石を集め始めた。
◇
それから、俺は試した。
腕。
「長い!」
失敗。
足。
「短い!」
失敗。
胴体。
「太い!」
失敗。
頭。
「三つある!」
失敗。
「なんで三つ!?」
分からない。壊す。吸収。作り直す。
「足!」
四本。
「俺は馬じゃない!」
やり直し。
「腕!」
六本。
「虫!?」
やり直し。
「頭!」
巨大。
「バランス悪っ!」
やり直し。
何度も、何度も失敗した。でも、不思議と嫌じゃなかった。
むしろ、楽しい。
少しずつ、できることが増えていく。最初は転がるだけだった。それが今は、腕を作れる。足を作れる。身体を作れる。
俺。
「成長してる」
そう思うと、嬉しかった。
◇
もちろん、問題もあった。
「顔」
重要だ。ものすごく重要。
「イケメン!」
俺は念じる。
「イケメン!」
鉱石が動く。
「爽やか系!」
形ができる。
「優しそうな目!」
さらに形ができる。
「高すぎない鼻!」
できる。
「自然な笑顔!」
完成。
俺は自分の顔を確認する。
「…………」
硬い。ものすごく硬い。
俺は沈黙した。
「……石じゃん」
いや、鉱石か。
違う。そうじゃない。
「俺が欲しいのは!」
人肌!
「柔らかい肌!」
無理。
「唇!」
硬い。
「髪!」
作ってみる。
にょき。
「…………」
針。
俺は固まった。
「これ髪じゃない!」
完全に金属の針。
「こんなの女の子に触られたら刺さるだろ!」
いや、そもそも触ってくれる女の子がいない。
悲しくなった。
◇
それでも、俺は諦めなかった。
鉱石を吸収する。身体を作る。失敗する。壊す。また吸収する。また作る。
何度も、何度も繰り返した。
どれくらい時間が経ったのか、分からない。一日? 一週間? 一年?
いや、もっと?
考えるのをやめた。時間を測る方法がない。
だったら。
「完成するまでやる!」
それだけだ。
腕。足。胴体。頭。指。顔。
少しずつ、少しずつ。俺の身体は形になっていった。
◇
俺は自分の手を見る。まだ完全じゃない。でも、五本の指がある。
握る。開く。握る。開く。
嬉しい。
「今度は落ちない」
ぶん。ぶん。
落ちない。
「よし!」
俺は拳を握った。
「これなら!」
女の子と手を――。
俺は止まった。
「まず女の子を探さないとな」
順番が逆だった。
でも、そのためには、まず身体。
「完成させる!」
俺は再び鉱石へ向かった。
ころん。ころん。ころん。
吸収。吸収。吸収。
そして、少しずつ、少しずつ。
俺は玉ではなくなっていった。




