第1話 目覚めたら、玉だった
1つ小説を書き始めプロットなんかを作っていると、あ、このアイディアいいなぁとか
余計な脇道に逸れてしまい、出来上がった新作です。
楽しんでいただけたら幸いです。
今日は、人生初のデートだった。
三十歳。彼女いない歴=年齢。当然、童貞。
そんな俺に、ついに人生初のデートの日がやってきた。
「……よし」
服装を確認する。変じゃない。髪も大丈夫。財布も持った。スマホもある。待ち合わせ時間にも余裕がある。
完璧だ。
今日こそ、俺の人生が変わる。
そう思いながら歩いていた。その時だった。
「……ん?」
前方に、開いたマンホールがあった。
「危な――」
足元が消えた。
「うわっ!?」
身体が前へ投げ出される。
「ちょっ――!」
手を伸ばす。何かを掴もうとする。だが、何も掴めない。
「うそだろおおおおおおおお!?」
そのまま暗闇へ。そして――。
ドンッ!!
◇
――。
――――。
――――――。
…………。
………………。
……あれ?
俺、生きてる?
最初に思ったのは、それだった。痛くない。頭も痛くない。身体も――。
「……?」
身体を動かそうとする。動かない。
「……え?」
右手。……動かない。左手。……動かない。
右足。……動かない。左足。……動かない。
「…………」
おかしい。痺れているのか?
そう思って、もう一度動こうとする。動かない。もっと力を入れる。動かない。
「…………」
嫌な予感がした。俺は、自分の身体を確認しようとした。
――できない。
目が動かない。首も動かない。手もない。足もない。
「…………は?」
声を出そうとした。
「…………」
出ない。
口がない。
◇
「…………」
…………。
いや。待て。落ち着け。
何かがおかしい。俺は確かにマンホールに落ちた。そして気を失った。なら、ここは病院か?
いや。病院にしては暗すぎる。
というか――。
身体がない。
「…………」
まさか。俺、死んだ?
いやいやいや。待て待て。そんなわけがない。だって俺、意識あるし。こうして考えているし。
……でも身体がない。
ならこれは――。魂? 幽霊?
まさか、異世界転生?
「…………!」
その可能性に思い至った瞬間、俺のテンションが少し上がった。
異世界転生。そういうことか!
なるほど。俺の人生、ここから逆転するんだな?
もしかして神様から凄い能力をもらって――。
……ん?
でも待て。俺、今どんな姿なんだ?
◇
必死に自分自身を確認する。すると、なぜか分かった。
俺は――。
丸い。
球体だ。
「…………」
……球体?
もう一度確認する。丸い。間違いなく丸い。手もない。足もない。顔もない。
ただの球。
「…………」
……。
……。
…………。
いや。
「なんでだよ!」
当然、声にはならない。口がないからだ。でも心の中では叫んだ。
異世界転生だと思ったら玉だった。何だその展開。
普通もっとあるだろ! 赤ん坊とか! 美少年とか! 貴族とか! 最低でもスライムとか!
なんで玉なんだよ!
しかも――。
動けない。
◇
「…………」
転がろうとする。……転がれない。
ジャンプしようとする。……跳べない。
立とうとする。……そもそも立てない。
「…………」
俺は悟った。
俺、玉ですらない。
玉っぽい何かだ。
最悪だ。せめて玉なら転がれるだろ。俺にはそれすらできない。
完全に置物である。
「…………」
そして、もう一つ重大な問題がある。目がない。だから周囲を見ることができない。
なのに、なぜか周囲の状況だけは分かる。
暗い。ものすごく暗い。そして静かだ。
……。
これ、もしかして。とんでもなくヤバい場所にいるんじゃないか?
◇
「…………」
誰か来てくれ。誰でもいい。神様でもいい。天使でもいい。女神でもいい。
いや、できれば女神がいい。
異世界転生と言えば女神だろ。美人の女神様が現れて、
『あなたには特別な力を授けましょう』
とか言ってくれるんだろ?
そして俺は、
『え? 俺が世界を救うんですか?』
とか言いながら旅に出る。そこで美少女と出会って――。
「…………」
……。
来ない。
女神、来ない。
そもそも声を出せないので呼べない。
「…………」
……俺、詰んでない?
◇
そう思った瞬間だった。妙な感覚に気付いた。
近くに何かある。石。いや、鉱石……?
なぜか、それが分かった。そして、なぜか――。
それを取り込みたいと思った。
「…………?」
取り込む? どうやって?
口なんてない。手もない。そもそも動けない。
だが、意識を向けてみる。すると――。
スッ。
鉱石が消えた。
「…………え?」
今、何した?
もう一度。
スッ。
消えた。俺の中に入った。
「…………」
……。
……これ。もしかして。
俺、食べてる?
玉なのに? 口もないのに? 鉱石を?
◇
「…………」
まあ、いい。何もできないと思っていたところに、初めてできることが見つかった。
それだけで少し嬉しかった。
俺はもう一度、近くの鉱石へ意識を向ける。
スッ。
消える。
もう一つ。
スッ。
消える。
さらに一つ。
スッ。
消える。
……。
もしかして。これを続けていれば、何か変わるんじゃないか?
人間に戻れるかもしれない。身体が動くようになるかもしれない。もしかしたら――。
女神が迎えに来るかもしれない。
……最後のは、たぶんない。
でも、今の俺には、これしかない。
だったら――。
やるしかないだろ。
俺は暗闇の中で、ひたすら鉱石を取り込み始めた。
◇
この時の俺は、まだ知らなかった。
まさかこの行為が、俺の人生を、とんでもない方向へ変えていくことになるなんて。
そして――。
俺がこの場所で、想像を絶するほど長い時間を過ごすことになるなんて。
この時の俺は、知る由もなかった。
新連載です!
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