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30歳童貞おっさんの転生物語  作者: 障子
第一章 ゴーレム編

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第17話 俺、脱出方法を考える

『問題は、どうやってお前を倒さずに先へ進むかだな』


 勇者の言葉に、俺は大きく頷きそうになって慌てて止めた。


 危ない。


 嬉しい時ほど動くな。これは俺が何度もの悲劇から学んだ、非常に大切な教訓だった。代わりに床へ指を当てる。


『重要』


『ものすごく重要』


 勇者が苦笑した。


『分かってるよ』


 いや、分かっていない。勇者たちにとっては「先へ進めない」という問題だが、俺にとってはそれだけではない。


 俺はさらに文字を刻んだ。


『俺もここから出たい』


『ずっと出られない』


 勇者が巨大な扉を見る。


『ああ。そういえば、お前ここから出られないんだっけ』


 俺は頷いた。


     ◇


 俺はこれまで何度も、この部屋から出ようとしてきた。扉を押した。殴った。蹴った。


 壁も調べた。床も掘った。天井も試した。全部駄目だった。


 来訪者が来た時だけ扉が開くが、俺が外へ出ようとすると途中で閉じてしまう。俺は床へ簡単に事情を書いた。


『外からは開く』


『中から開かない』


『俺が出ようとすると閉じる』


 勇者は文字を読みながら、しばらく考え込んだ。


『なるほどな。ボス部屋のシステムってことか』


 システム。その言葉に少し引っかかった。そういえば、この勇者はさっきから「ゲーム」と言っている。


 俺は床へ書いた。


『この世界ゲームなの?』


 勇者は少し考えてから答えた。


『正確には、俺が日本にいた頃にやってたゲームとほぼ同じ世界だ』


 ゲーム。この世界。同じ。


『タイトルは――』


 勇者がゲームの名前を口にした。


 聞き覚えがある気がする。前世。ものすごく昔。中学生くらいの頃。


「……ん?」


 何かが記憶の奥へ引っかかった。ただ、何百年も昔の話だ。すぐには出てこない。


『知ってる?』


 俺は首を傾げた。


『まあ、それは後でいいか』


 俺もそう思う。今はゲームの記憶より脱出だ。


     ◇


『ゲームの仕様通りなら、お前を倒せば先に進める』


 勇者が言う。俺は即座に床へ書いた。


『却下』


『即答だな』


『死にたくない』


『知ってる』


 話が早い。では、死なずに「倒した扱い」にできないか。


『気絶とか?』


 俺が書くと、勇者が首を傾げた。


『お前、気絶できる?』


 できるのか?


 こちらへ来てから眠ったことすらない。疲れない。意識を失ったこともない。


『多分無理』


『だよな』


 終了。


     ◇


『じゃあ降参』


 勇者が言った。


 なるほど。戦闘開始。俺、即降参。戦闘終了。


『やってみる』


 俺は両手を上げた。降参。さらに床へ。


『負けました』


 勇者が扉を見る。


『……何か起きた?』


 何も起きない。扉も開かない。


『駄目だな』


『駄目か』


 降参、却下。


     ◇


 次に出たのは、体力だけを限界まで削る案だった。


『死なない程度まで攻撃したら、戦闘不能扱いになるかも』


 勇者が言う。


 俺は三人を見る。勇者。男。女性。


 そして自分を見る。


『やってみる?』


『いいのか?』


『死ななければ』


 勇者は少し困った顔をした。


『いや、たぶん別の問題がある』


 何だ?


『俺たち、お前にダメージ通せるのか?』


 そこ?


     ◇


 試すだけ試すことになった。俺は動かない。勇者が剣を構える。


『軽くいくぞ』


 カンッ。


 無傷。


『もう少し』


 ガキィン!


 無傷。


『じゃあ、かなり強く』


 ガァン!


 やっぱり無傷。


 勇者が剣を見る。


『……マジか』


 俺も自分を見る。まあ、今まで来た奴らの攻撃もほとんど効かなかった。


『じゃあ本気でいくぞ』


 少し怖い。でも頷く。


     ◇


 勇者が大きく踏み込み、剣に光を集める。


「おお」


 格好いい。勇者っぽい。いや、本物の勇者だった。


『はあああっ!』


 剣が俺の胴体へ叩き込まれる。


 ズガァァァン!!


 部屋に大きな音が響き、煙が上がった。やがて煙が晴れる。


 俺、無傷。


 勇者、沈黙。俺も沈黙。いや、俺は元から喋れない。


 勇者が俺と自分の剣を交互に見た。


『お前、何でできてんの?』


 俺は床へ書く。


『鉄』


『嘘つけ』


 即答された。


     ◇


『鉄だと思う』


『思う?』


『鉱石いっぱい吸収した』


『何の鉱石?』


 俺は周囲を指した。


『これ』


 勇者が近くの鉱石を拾う。そして、固まった。


 何だ?


 勇者は鉱石を見る。俺を見る。もう一度鉱石を見る。


『これ……』


『いや、今は後だ』


「気になる!」


 ものすごく気になる!


『先に脱出方法』


 正論だった。


     ◇


 その後も、いろいろ試した。


 扉を壊す。無理。


 壁を壊す。無理。


 床。無理。


 天井。無理。


 勇者だけ一度外へ出て、扉を開けたまま俺が近付く方法も試した。俺が境界へ近付く。


 ゴゴゴゴ……。


 扉が閉まり始める。


 戻る。開く。


 一歩進む。閉じる。


 一歩戻る。開く。


『面白いな』


 勇者が笑った。


『遊ぶな』


『悪い』


 完全に俺を感知している。


     ◇


 俺だけ腕を外へ出せないかとも試したが、境界へ近付けただけで扉が閉じた。


『完全にお前が部屋から出るのを防いでるな』


 勇者が言う。俺は床へ書く。


『嫌われてる?』


『システムに感情ないだろ』


 正論。


     ◇


 やがて、考えられる方法がほとんどなくなった。


『……詰んだか?』


 勇者が頭を掻く。


『それ言うな』


『悪い』


 それは何百年も俺が感じ続けてきた言葉だ。だが、今は一人ではない。それだけで少し違った。


     ◇


 勇者はしばらく考え込んでいたが、やがて喉が渇いたらしく、片手を軽く上げた。


『ちょっと水飲むわ』


 すると、何もない空間から袋と瓶が現れた。


 俺はそれを見る。勇者が瓶を開けて水を飲む。


 何それ?


 俺がじっと見ているのに気付いた勇者が言った。


『アイテムボックス』


 アイテムボックス。


『持ち物を収納してる』


 勇者は飲み終えた瓶を、再び何もない空間へ戻した。


 すっ。


 消える。


 俺はその様子を見つめた。物が消える。別の場所に収納される。そして必要になれば、また取り出せる。


 いいな。便利だな。前世でゲームをしていた頃なら、そんな感想で終わったと思う。


 でも、今の俺は何百年も、この部屋から出られずにいる。


 もし、俺もあそこへ入れたら。


 勇者にそのまま外まで持っていってもらえるんじゃないか?


     ◇


 いや、無理だろ。俺だってゲームくらいやっていた。アイテムボックスに生き物を入れるなんて、普通はできない。


 人間も。魔物も。入らない。


 でも、俺はゴーレム。身体は鉱石。呼吸しない。食事しない。


 眠らない。心臓もない。


 物? 生き物? どっち?


 分からない。俺は勇者がまだ開いているアイテムボックスらしき空間を眺めた。


 入れたら、楽なのにな。


 本当に、ただそう思った。強く。


 外へ出たい。この部屋から。ずっとずっと閉じ込められてきた、この場所から。


「俺も入れたらいいのにな」


 次の瞬間、俺の身体が消えた。

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