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30歳童貞おっさんの転生物語  作者: 障子
第一章 ゴーレム編

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第10話 俺、今度こそ話し合います

 初めての来訪者を全滅させてから、俺は本気で反省した。反省というか、しばらく立ち直れなかった。


 何年待ったのか分からない。やっと来た人間だった。それなのに、嬉しくなって走り出し、手を振っただけで全滅。


「歓迎の仕方として最悪すぎる……」


 俺は巨大な扉の前で頭を抱えた。普通なら、来客を歓迎する時にお茶を出す。


 俺の場合、衝撃波を出した。


「何でだよ」


 自分でも分からない。


     ◇


 それ以来、俺は徹底的に動きを見直すことにした。まず走らない。絶対に走らない。来訪者を見つけても、その場から動かない。


「これなら事故は起きない」


 次に手を振らない。前回は友好的な挨拶のつもりで振った腕から、とんでもない衝撃が出た。


「手を振るって、そんな危険な行動だったっけ?」


 前世では幼稚園児でもやっていた。異世界、怖い。


 いや、異世界が怖いんじゃなくて、たぶん俺がおかしい。


 そこには、まだあまり深く触れないことにした。


     ◇


 続いて、速度制限。


「ゆっくり動く」


 俺は片手を上げる。ゆっくり。本当にゆっくり。


 これなら大丈夫。


 さらにお辞儀。ゆっくり。


 ぺこり。


 問題なし。


 次に一歩後ろへ。


 そろり。


 よし。


「完璧!」


 俺は拳を握りかけて、慌てて止めた。


「いや、急に拳握るのも怖いか」


 もう何をしても怖く見える気がしてきた。


     ◇


 そこで俺は、前回の失敗を整理することにした。


 一、興奮した。二、走った。三、両手を広げた。


 四、手を振った。五、全滅した。


 改めて並べると。


「俺、完全に襲ってる側じゃん」


 しかも無言。相手からすれば、巨大なゴーレムが突然突進してきたのだ。


「そりゃ武器構えるわ」


 むしろ、あの三人は正しかった。悪いのは全部俺。


「次は絶対に誤解させない」


 俺はそう決めた。


     ◇


 そのためには。


「意思疎通だな」


 結局、ここに戻ってくる。いくら動きを慎重にしても、言葉が通じなければ限界がある。


「喋れれば一発なんだけどな」


 俺は自分の喉へ手を当てた。喉。硬い。金属。


 当然、声帯なんてものはない。


「……まあ、ゴーレムだしな」


 仕方ない。では、口。


 俺は顔を触った。口らしき形はある。人間っぽくしようと身体を作った時、見た目だけはそれらしくした。


 だが、動かない。


 俺は開こうとしてみる。動かない。


 もう一度。


「開け」


 動かない。


「口!」


 動かない。


「口ぃぃぃぃぃ!!」


 動かない。


 俺はしばらく自分の顔を触った。そして。


「これ……口じゃないな」


 ただの溝だった。


     ◇


 愕然とした。


「俺、口ないじゃん!」


 今さらだった。本当に今さらである。


 何年。いや、下手をしたら何十年。俺はこの身体で過ごしてきた。それなのに。


「何で今まで気付かなかったんだ!?」


 答えは簡単だった。食事をしない。呼吸もしない。眠らない。


 そして、一人なので会話もしない。


「口、使う機会ゼロだった……」


 必要がなかった。だから気付かなかった。


「待てよ」


 ということは、もし前回、あの三人が生きていて、無事に話し合える状態になっていたとしても。


「俺、喋れなかったじゃん」


 詰んでいた。


     ◇


 俺はその場に座り込んだ。


「どうするんだよ……」


 前回、走るな。分かった。手を振るな。分かった。


 ゆっくり動け。分かった。


 でも。


「喋れない!」


 これは努力でどうにかなる問題なのか? 俺は自分の顔に指を当てる。


「口、作る?」


 身体を作った時のように、鉱石を使えばいけるかもしれない。少し試してみた。


 顔の下半分を変形させる。隙間を作る。上下に分ける。


 口っぽい。


 動かしてみる。


 ガギ。


 閉じる。


 ガギン。


「怖っ」


 どう見ても怪物だった。しかも音が完全に罠だった。


「女の子の前でこれやったら泣かれる」


 即座に戻した。


     ◇


 ならば文字。日本語が通じる可能性は低い。


 絵。前に描いたらホラーになった。


 ジェスチャー。


「これしかないか」


 俺は立ち上がった。言葉がなくても、動きで伝える。問題は、どんな動きが通じるか。


「まず敵意なし」


 両手を上げる。降伏。これは分かりやすい。


「いや、ボスが降伏してどうするんだ?」


 でも、戦いたくないのだから正しい。


「採用」


 次、待って。


 俺は片手を前へ出した。手のひらを見せる。


「止まってください」


 これも、たぶん通じる。前世でもよく使う動きだ。


「これだな」


 相手が攻撃しようとしたら、手のひらを見せる。待って。敵意なし。話し合おう。


「完璧!」


 俺は久しぶりに希望を感じた。


     ◇


 それから、また長い時間が流れた。俺は鉱石を吸収し、身体を鍛え、前回のように力を出しすぎないよう練習し、来訪者へのジェスチャーを何度も確認した。


 相変わらず誰も来ない。それでも、前とは少し違った。一度、人が来た。


 つまり。


「また来る可能性がある」


 それが分かっただけでも大きい。俺は以前より辛抱強く待てるようになった。


「次こそ成功させる」


 そう思いながら。


     ◇


 そして、ある時。再び扉の向こうから音がした。


 カツ。カツ。


 俺は動きを止めた。前回なら、この時点で飛び上がっていたかもしれない。だが今回は違う。


「落ち着け」


 俺は自分へ言い聞かせる。


「前回の俺とは違う」


 成長した。反省した。学習した。


「俺は同じ失敗を繰り返す男じゃない」


 足音が近付く。一つ。二つ。三つ。


「また三人か?」


 気になる。だが、動かない。絶対に走らない。


 声らしきものも聞こえてくる。内容は分からない。当然だ。


「でも大丈夫」


 今回はジェスチャーがある。


     ◇


 ゴゴゴゴゴゴ……。


 巨大な扉が開き始めた。俺は部屋の中央に立ったまま、微動だにしなかった。


「よし」


 落ち着いている。


「俺、落ち着いてる」


 素晴らしい。


 扉がさらに開く。人影が見える。やはり三人。


 男。


 また男。


 最後も男。


「また全員男かよ!」


 心の中だけで叫んだ。だが今回は、それで暴走したりしない。


「いいんだ」


 人間。それだけで。


「十分嬉しい」


 本当に。


     ◇


 三人も俺に気付いた。明らかに警戒している。そりゃそうだ。俺はたぶん、この部屋のボス。


 一人が剣を構えた。もう一人も武器を持つ。三人目も身構える。


「ここだ」


 練習通り。俺はゆっくり、本当にゆっくり、片手を上げる。


「待って」


 手のひらを見せる。


「攻撃しないで」


 敵意はない。


「話し合おう」


 完璧。俺はそう思った。


     ◇


 三人の表情が変わった。驚いている。いや、ものすごく驚いている。


「伝わった?」


 いける。今回は成功する。


「よし!」


 俺は嬉しくなった。


 ほんの少し、手を前へ出した。


     ◇


 ブォンッ!!


 空気が鳴った。


「え?」


 俺は止まる。目の前、三人。


 一人が、吹き飛んだ。


 続いて、二人目。三人目。


 ズドドドドォォォン!!


 三人がまとめて、部屋の入口方向へ飛んでいった。


 静寂。


 俺は上げたままの手を見る。


 いや、待て。


「俺、何した?」


 走ってない。手も振ってない。ゆっくり動いた。


「今回は完璧だったよな!?」


 俺は床を見る。抉れていない。


「ほら!」


 走ってない!


「前回と違う!」


 じゃあ、なぜ三人が飛んだ?


 俺は自分の手を見る。


「手を……出しただけ?」


 少し、前へ。それだけ。


 俺は固まった。


     ◇


「嘘だろぉぉぉぉぉ!!」


 俺は頭を抱えた。


「今回はちゃんとやったじゃん!」


 走ってない。急に動いてない。手も振ってない。


「待ってってやっただけじゃん!」


 それで全滅。


「どうしろっていうんだよぉぉぉぉ!!」


 理不尽だった。少なくとも、俺の中では。


     ◇


 しばらくして、俺は恐る恐る三人を見る。


 動かない。


 また、失敗。


 俺はその場へ座り込んだ。一回目、嬉しくて走った。失敗。


 二回目、じっと待った。失敗。


 俺は両手を見る。


「もしかして」


 ようやく。本当にようやく。一つの可能性が浮かんだ。


「俺……」


 普通の鉄ゴーレムじゃ。


「ない?」


 沈黙。


 いや。


「そんなわけないか」


 俺はすぐに否定した。


「鉄いっぱい吸収したから、ちょっと強いだけだろ」


 そういうことにした。なぜなら、それ以外の鉱石なんて。


「見分けつかないし」


 前世、普通の会社員。鉱物学、知識ゼロ。


 うん。


「鉄だな」


 納得。


 問題はそこではない。


     ◇


 俺は再び反省会を始めた。


「次は……」


 動かない。これは継続。


「手も出さない」


 重要。


「お辞儀だけ?」


 いや、頭を動かした勢いで何か起きたら怖い。


 じゃあ。


「完全に静止?」


 何もしない。ただ立つ。


 それ、余計怖くない?


 巨大ゴーレムが暗い部屋の中央で、無言。無表情。微動だにしない。


 ホラーだな。


 俺は頭を抱えた。


「もうどうやって友達作ればいいんだよ……」


     ◇


 それでも、諦めるわけにはいかなかった。俺には目標がある。この部屋を出る。人間と話す。


 街へ行く。友達を作る。できれば。


「彼女を作る」


 そして、ちゃんと恋愛して。その先。


 俺は少し照れた。


「いや、そこは今考えるな」


 まだ人との会話すら成功していない。段階が飛びすぎている。


「まず友達!」


 目標を下げる。


「友達から!」


 さらに。


「会話から!」


 もっと下げる。


「いや」


 口がない。


 俺は顔を押さえた。


「そこからかぁ……」


 道のりは、あまりにも長かった。



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