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拝啓、元私のお姉ちゃんへ。〜何故か姉が犬だけど気にせず学園ライフを謳歌したい〜  作者: 叶 梨鈴
日常編

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1-7 「自分で決めた青春」

 しずくとお姉ちゃんがこの学校に転校して、1週間が経った。


 そろそろ所属する部活動を決めなければならない頃である。


 中等部と高等部では部活が分かれているから、お姉ちゃんと同じ部活には入部できないけど。


 そして今しずくは、どこに入ろうかな、と考えながら高等部の教室に行くための渡り廊下を歩いていた。お姉ちゃんがどこに入部するのかを参考に聞きに行くためにね。


 たぶんお姉ちゃんなら、ちゃんと考えてるはず。


 ちなみに水萌ちゃん達3人はそれぞれ部活動に所属していて、もう活動を始めている頃だ。


 正直、めんどくさいし人間関係とか不安で入りたくないけど……成績のためには入るしかない。


 少し歩いて「1ー3」と書かれているプレートが掛けられている教室の前に辿り着く。


 ドアについてる窓から中を覗き見てみると、お姉ちゃんが窓際の席で入部届け出用紙に記入をしていた。


 そしてお姉ちゃんの前の席には軽井沢さんが座っていて、お姉ちゃんと話している。他にも教室に何人か人がいたけど、全員知らない人だ。


 星宮さんと中鶴さんは恐らく部活でいない。軽井沢さんは帰宅部なのかな。


「やほ、お姉ちゃん。もうどこに入るか決まったの?」


「お、静紅。うん、決まった。ちょうどこれ提出するとこなんだよね」


 扉から顔を出して話しかけると、お姉ちゃんは窓の外から吹いてくる風に髪をなびかせながら答えた。


 お姉ちゃんに手招きされて教室の中に入る。


「こんにちは、静紅ちゃん。元気してる?」


「は、はい。なんとか」


 ニコッと笑顔を向けてきた軽井沢さんに軽く会釈をして言葉を返すと、固いなぁ、と苦笑いされた。

 曖昧に口角を上げながらお姉ちゃんの入部届け出用紙を見る。


 お姉ちゃんが書いていたのは……「女子バスケットボール部」。


「私小学生の時にミニバス入ってたじゃん?だからまたやりたくなっちゃってさ」


「へー、またやるんだ。でも高等部のやつだし、きつそうじゃない? 走り込みとか」


「私走るの好きだしー。あと中学の時の吹奏楽はまぁ楽しかったんだけど、やっぱ運動が性に合ってるかなって。あ、それに夏南も女バス入ったらしいし!」


 確かに犬だからそうか……って、危ない、声に出るところだった。


 犬と人間のハーフである(ことにしている)お姉ちゃんは、体力がめちゃめちゃ多いし、脚が早い。持ち前の抜群の運動神経を持つお姉ちゃんは、ミニバスに初心者で所属してからたったの4ヶ月でレギュラーメンバーに昇格した。


 それからお姉ちゃんだけでなく、星宮さん達も今年から高等部の1年だから、中等部のときにに入っていた部活を引退し、最近新たな高等部の部活に入部した頃なんだろう。


「で、静紅は決まったの?」


「いや、まだ決まってないんだぁ」


「静紅の好きなとこに入ればいいよ。……まぁ、古田くんがいるとこはなるべく避けて欲しいけど」


「あの人確か硬式野球だっけ。入らないから安心してよ」


 野球はルールも複雑で興味もない。そこに古田がいるなんて論外すぎる。


 とは言っても、しずくの好きなとこ、ね。


 しずくは運動神経悪いし体力も絶望的。運動部には悲しいほど向いてない。……ううっ、お姉ちゃんとの差に虚しくなってきたよ。


「あ、じゃあ静紅ちゃん、俺が部活案内するよ。どうせ暇だし!」


「エッ」


 心の中でしくしく泣いていると、軽井沢さんが思いがけない提案をしてきた。


「え、いいの颯斗、ありがと! 静紅行ってきな!  私これから職員室行ってこれ提出してこなきゃいけないし。良い子にねー!」


「えっ、ちょっ」


 お姉ちゃんはしずくの返事を待たずに教室を出て行ってしまい、しずくは呆然と立ちすくんだ。


「じゃ、静紅ちゃん、どこ行きたい?」


 軽井沢さんが笑顔でこっちを振り向く。


 コミュ障気味なしずくと、キラキラ陽キャの軽井沢さんとの部活動巡りがスタートしてしまった。


 ダレカ、タスケテ……



◆◇◆



「位置について、よーい!」


 パン!


 グラウンドにスターターピストルの音が鳴り響き、直後に砂埃が舞い上がる。


 洗練されたフォームで白線の中を走っている水萌ちゃんを、しずくと軽井沢さんは眺めていた。


 軽井沢さんにどこの部活を見たいか聞かれ、しずくが言った答えは、「友達が所属しているところ」。


 そして友達、すなわち水萌ちゃんの入ってる部活動を教えたところ、案内されたのがここ、第1グラウンド。第1グラウンドは主に中等部の生徒達が使用している。


 水萌ちゃんは陸上部に所属していた。活発なイメージのある水萌ちゃんに合っている。


「おー、走ってんなー、水萌。あれは100メートル走か? 相変らす速いな〜」


「ですね」


 水萌ちゃんの走り方は、体育の教科書に載ってるお手本そのもののようだった。素人から見てもすごく速く見える。……まぁお姉ちゃん(趣味は10キロランニング&散歩)には及ばないかもしれないけど、ほら、お姉ちゃんは物理的に人外だし。


 数秒して水萌ちゃんがゴールした。息を切らせながらタイムを計ってくれた女子マネージャーの子にタイムを聞くと、何やら拳を突き上げて喜んでいる。

 と思えば、こっちに向かって走ってきた。


「わーい、しずっちー! しずっちが見てくれてたおかげで新記録更新したよー!」


「ほんと? それはよかった」


 流石水萌ちゃん。しずくだったら人に見られながら走るなんてごめんだけど。


「ちょっとー、俺も見てたんですけどー?」


「いーや、颯斗さんじゃなくてしずっちのおかげだしぃ」


「えー酷ー」


 その会話に笑いつつ、ふと水萌ちゃんが軽井沢さんとなんの遠慮もなく話せているのに気づく。


 水萌ちゃんのコミュ力恐ろしや……。


「あの、2人って、元々知り合いなんですか?」


「おう、ほら、水萌は夏南の弟の宙と友達だし。そこ繋がり的な?」


「そそ、うちなつ大好きー!」


 なつ=星宮さんかな。水萌ちゃんは先輩と仲良くて羨ましい。


「ていうか水萌ちゃん、戻らなくて大丈夫?」


「そうだった。あ、てかしずっちも一緒に走ろ! 50メートル走なら余裕っしょ?」


「えっ!?  いやしずくはいいよ!  ほらっ、自分部外者だし、申し訳ないっていうかっ」


 まさかの提案に首を横に振りまくった。


 だって走るの遅いし、他の陸上部の人に醜態を晒してしまう!!


「大丈夫大丈夫、体験の子って言えばみんな大歓迎だし!  ほら、行こ!」


「わっ、ちょっ! か、軽井沢さん!」


 水萌ちゃんに連れていかれそうになり、助けを求めて軽井沢さんを見たものの……


「はは、いいじゃん。行ってらっしゃい〜」


 このチャラ男がぁ!!


 結局、水萌ちゃんと50メートル走を走ることになってしまい、陸上部の人達の反対を期待したんだけど、水萌ちゃんが言った通り大歓迎されてしまった。


 結果はもちろん水萌ちゃんに惨敗。しかも5秒くらい差をつけられて。逆に5秒で済んだのが奇跡って感じ。


 つ、つっかれたぁぁ……


「しずっち、初心者にしてはいい走りだったよ! 他にも1500メートルとか、長距離向いてるかもよ?」


 膝に手をついて息を切らしていると、涼しい顔をした水萌ちゃんにそう言われた。


 しずくは、陸上には入らないと固く決めた。



◆◇◆



「そんで静紅ちゃん、次はどこ行きたい? 静紅ちゃんの友達、あと誰いる?」


 水萌ちゃんと別れた後、しずく達は走った休憩にと中庭のベンチに並んで座り、ジュースを飲んでいた。


「えと、宙くんとかですかね。あ、あと蓮月くんです。確か、宙くんと蓮月くんは2人とも天文学部って言ってました」


「あー、あの2人か……。分かった、じゃあ行くか」


 軽井沢さんが一瞬微妙な表情をした気がする。


「天文学室、確かB棟の2階だよな。……そういや、なんで静紅ちゃんは水萌と宙と、津野くんと友達になったの?」


 天文学室へ歩き始めてすぐ、そう軽井沢さんに訊かれた。


「えと、しず、わたしって古田くんに目をつけられちゃったじゃないですか。それを助けてくれたのがあの3人だったんです」


「……氷華が言ってたのってそれか。いい出会いじゃん」


「はい、すごく助かりました。……あの、軽井沢さんって、部活入ってないんですか?」


 疑問に思ってたことを訊くと、軽井沢さんは少し間を空けて、


「……あー、うん。そうなんだよね。俺、中等部の時からいる他の子達とは違って、高等部からここ入学したから。……あんま友達いなかったんだよな〜」


 と答えた。


 軽井沢さんは明るく言ったけど、何となく目が笑っていなかった。……馴染めなかったのかな。


「そうなんですか。ちょっと意外です」


「えー俺明るく見える? やったぜ」


「陽って感じしかしないです」


「まじ? うえーい、陽キャデビュー成功〜」


 最初2人で部活動を見て周ろうと誘われた時は正直不安だったけど、なんだか軽井沢さんは話しやすい。気を使ってくれてるというか、こっちの立場に合わせてくれてるというか。


 お姉ちゃんと仲良いのも納得だな、と心の中で頷いているうちに、天文学室の前に辿り着いた。


 でも電気が消えている。それに人もいない。


「おかしいな、天文学部は今日やってるはずだけど」


 軽井沢さんがスマホで日付を確認して首を傾げた。しずくも一緒に首を傾げていると、階段から足音がした。  


 振り返ると、蓮月くんが階段から下りてきていた。


「桐生……と、軽井沢さん? 何してんの、そこで」


「蓮月くん! ちょうど良かった。今しずく部活決めてるじゃん? 見学がしたくて。今日天文学部の活動ってある?」


 駆け寄って尋ねると、蓮月くんはしずくと軽井沢さんを交互に見ながら、


「あー、ある。今屋上で天体観測してる。俺忘れ物取りに来たんだけど……て、てか桐生、何で軽井沢さんも居るの?」


 と、内緒話でもするかのように耳元で囁いてきた。


「え? あぁ、部活案内してくれてる。お姉ちゃんの友達だから」


 小声で訊いてきたから、しずくもつられてこそこそ小声で返す。


 その様子を軽井沢さんが怪訝そうな顔で見てきたから、慌ててしずく達は軽井沢さんに向き直った。


「えと、活動屋上でしてるみたいです。蓮月くん忘れ物取りに来たっぽくて。軽井沢さんも来ますよね?」


「あー、俺は……いいわ。待ってる。楽しんでおいで」


「え? あ、はい」


 軽井沢さんの様子にまた違和感を覚えた。


 さっき水萌ちゃんのとこのグラウンドは一緒に来てくれたのに、どうしたんだろう。


 とりあえず蓮月くんが忘れ物を取りに行ってるのを待ち、学習用タブレットを持って戻ってきた蓮月くんと屋上への階段を上る。


「桐生、今タブレット持ってる? 多分必要になると思う」


「持ってるよ。……てか蓮月くん、軽井沢さんにちゃんと挨拶したら良かったのに」


「いやまぁ、そうなんだけど……俺あんまあの人好きじゃなくて」


 蓮月くんが気まずそうに顔を背けながら言った。しずくは首を傾げる。


「なんで? 良い人じゃない?」


「いや……それはその……あ、ほら、着いたぞ」


 蓮月くんが屋上への扉を開けると、まだ完全にオレンジではない、青色とオレンジのグラデーションのような空が見えた。


「あ、おかえり蓮月! って、静紅じゃん! 何でいるの?」


 聞き覚えのある明るい声のした方を見ると、宙くんが天体観測している手を止めてこっちを見ていた。


「桐生、部活動見学したいらしい。宙、皆に伝えてきてくれるか」


 駆け寄ってきた宙くんに、蓮月くんが説明してくれる。


「へー! ここ楽しいよ! 蓮月もいるし。おーいみんなー! この子体験来てくれた友達なんだけどさー!」


 宙くんの声に、他の部員の人達が集まってきた。


 かなり人数は少なく、数えてみると宙くんと蓮月くん合わせて4人ほど。


「えー体験の子? 珍しい! あ、もしかして転校してきた子? 可愛いんだけど〜」


「絶対入ってほしい! てか後で一緒に写真撮ろうね」


 女性部員の人達が話しかけてきた。「人達」と言っても、2人しかいないけど。なるほど、天文学部は過疎ってるんだ。


 ……というか。


「うち部員少なくてぇ! もう部活というより同好会みたいな感じでさ〜」


 いや明るいな。

 軽井沢さんといい、この人達といい、今日陽の過剰摂取してるんですけど。

 

 失礼だけど、天文学部ってなんかこう、陰のイメージがあったから……


「あ、そうそう、それでお名前なんて言うの?」


 しまった、自己紹介するの忘れてた。


「えっと、1週間前に転校してきました、桐生 静紅です。宙くんと蓮月くんの友達です。……よろしくお願いします」


 個人的に自己紹介のレベルが上がってる気がする。成長してる!


「あれ、この子体験?」


 嬉しくなっていると、屋上の扉から背の高い男子生徒が出てきた。メガネをかけている。


「あ、ぶちょー! そう、この子静紅っていう俺の友達! 静紅、この人が部長の朝月先輩だよ!」


「宙、ありがと。静紅さん、僕は朝月 大輝(あさつき だいき)。ここの部長してるんだ、よろしく」


「2年の桐生静紅です。よろしくお願いします」


 この人が部長さんか。清潔感のある黒のセンターパートが知的な印象を抱かせる。部員は4人じゃなくて5人だったらしい。

 

「晴れてるから今日は天体観測をしてるんだ。宵の明星を観測してて――」


「部長! ちょっと望遠鏡の不具合が」


「今行くよ。ごめんね静紅さん、ちょっと見てくるから、詳しい事は宙と蓮月に聞いて」


 朝月さんはそう言い残し、さっきからずっと気になっていた、屋上の真ん中にある1台の大きい天体望遠鏡をチェックしに行った。これを皆で共有して観測するみたい。


 それと、気になったことがあと1つある。


「ねえ宙くん蓮月くん、さっき部長さんが言ってた『宵の明星』って何?」


「金星だよ、夕方と明け方に綺麗に見える一番星。夕方は西の空に見える」


 そう言って、蓮月くんが空の1点を指差した。

 見上げると、他の星を遥かに上回った明るさを持つ金星が、オレンジ色の空で輝いているのが見える。


「な、綺麗だろ?」


「なんで宙が得意げなんだよ」


 でも本当に、望遠鏡なんていらないくらい、今の時点ですごい綺麗だ。 


「さ、皆準備出来たよ、順番に見て写真撮ってね」


 朝月さんがみんなに声をかけると、早速女子部員2人が観測を始めた。さっきののほほんとした雰囲気とは打って変わって、真面目な表情をしている。


「……2人はなんで天文学部に入ったの?」


 何となく気になって、軽口を叩きあってる宙達に訊いた。


「俺はやっぱり空が、というより宇宙が好きだから! ロマンあるだろ。そんで入ってみたら、俺は蓮月と出会ったってわけ。 運命だよな〜」


「俺は普通に、星とか月とか好きだから」


 宙くんは、まぁ予想通りの理由だったけど、蓮月くんがちょっと意外だ。てっきり、入部する前から宙くんと仲良くて、宙くんに誘われて入ったのかと。


 そうこうしてるうちに順番が回ってきて望遠鏡を覗き込んでみると、え、思わずと声が出た。


 月。形が月だ。綺麗な三日月形。てっきり、金星ってまん丸だと思っていた。


「金星ってね、月と同じで太陽の光を反射して輝いている太陽系の惑星だから、丸じゃないんだよ」


 朝月さんの解説を聞いて納得する。だったら、他にも月みたいに形が変わって見える星があるかもしれない。


「宵の明星って呼ばれてるのも納得できる気がする。……ロマンを感じる」


「なんかさっきの俺みたいなこと言ってるー」


 それにしても不思議だ。望遠鏡を介さずに見ると、ただ輝いている点だったのに、少し拡大して見るとこんなにも見え方が違う。


 今までに綺麗だな、とだけ思っていた星達には、金星のような意外な姿があるのかもしれない。


 …………見てみたい。


「桐生、そろそろ俺見ていい」


「あ、ごめん、つい」


 急いでタブレットで写真を撮って、横に退くと、蓮月くんが少し微笑んだ。


「……いいよな金星って。わかる」


 うっ、顔が良い。


 蓮月くんが望遠鏡を覗き込む。その目を見て分かった。蓮月くんは心の底から天体が好きなんだなって。


「じゃあ蓮月終わるまであっちで待ってよーぜ」


 宙くんが指定したベンチに2人で腰掛ける。


 ……そういえば軽井沢さん、何してるんだろ。待たせちゃってるし、もう戻ろうかな。

 

 宙くんに話しかけようと隣を見ると、彼は見た事ないような顔で空を見ていた。その横顔に、少しドキッとする。くっ、こいつも顔がいい。


「な、静紅」


 突然宙くんが、空を見たまま話しかけてきた。


「……俺達さ、嬉しいんだ。静紅が俺達と仲良くしてくれること。静紅が俺達のために古田達に怒ってくれたこと。……あんまり俺ら、友達いないから」


「……」


 いつもと違う宙くんの雰囲気を感じて、耳を傾ける。


「よく分からないけど、みんな離れていっちゃって。もう仲良くしようとしてくれてる人いないのかなって、ちょっと寂しかったの」


「宙くん……」


「でもさ、静紅は俺達の良いところたくさん見てくれて、本当に嬉しいんだ」


 良いところしかないと思うけど……宙くんは寂しそうな顔をしていた。


「だからさ、本当に感謝してるんだ。ありがとう、静紅!」


 宙くんが、しずくを見て笑って言った。屈託のない、純粋な笑顔。


「……どう、いたしまして」


 めちゃくちゃ照れて、思わず顔を逸らした。本当に顔がいいっ……



「…………ただいま」



 急にそんな声がしてびっくりして後ろを見ると、観測を終えた蓮月くんが真顔で立っていた。あっなんかちょっと気まずいとこ見られたかも。


「おかえり蓮月ー。今ねー、静紅のこと勧誘してたんだ!」


「あっ今の勧誘だったの?」


 くそっやられた、まんまと……


「……それで、桐生、時間大丈夫?」


 時計を見ると、もう30分以上経っている。軽井沢さんに申し訳ない。


「わ、ありがと蓮月くん。じゃあ、帰るね」


 部員の人達に挨拶を済ませて、屋上の扉のドアノブに手をかけた。


「2人ともほんとにありがとう。入部するかは考えとくよ」


「いやっ、予言しよう。静紅は絶対入部するね!」


「まだ分かんないよ?」


「いや俺には分かる!」


 何それ、と言うと、宙くんはまた屈託なく笑った。


「無理はするなよ桐生。……まぁ本音を言えば入ってほしいけど、その、人数的に」


「……うん! 考えとく!」


 2人に手を振って、扉を閉めた。

 思わず笑みがこぼれる。


 楽しそうな活動。優しそうな先輩。そして何より、大切な友達。


 これはもう決まりだな、と、しずくは階段を駆け下りた。



◆◇◆



 しずくとお姉ちゃんがこの学校に転校してきて1ヶ月が経った。

 しずくは水萌ちゃん、宙、蓮月とすっかり仲良しになっている。


 無事天文学部にも入部し、バスケ部のお姉ちゃんとは正反対に、のほほんとゆったり楽しい日々を送っている。天文学部の活動は休日合わせて2日しかないからね。


 そして今は、いつも通りその3人と学食でランチを食べているところだ。


「うち絶対来世猫がいいわ、優しい人間に飼われて毎日寝ながら生きてく。まぁ今が1番楽しいけどね」


「急にどしたの水萌ちゃん。てか野良猫になるかもしれないじゃん」


「そしたらダンボールに入って拾ってもらうの!」


「捨てられてんじゃねぇか」


 こんな下らない会話がすごく楽しくて、嬉しい。

 

 ……そんな幸せな気分だったのに。



「つかこの前親に教えてもらったんだけど、なんか8年前? にさ、ここからちょっと遠いとこで紛争があったらしいじゃん」


「いやそれ多分7年前のやつじゃないか? 1年で終わったやつだろ。1年だけって言うけど、悲惨だったらしいな」


 

 急に、宙がこんなことを言い出した。

 蓮月が、その話題に反応する。


 隣のテーブルで夏南さん達と談笑していたお姉ちゃんも、固まったのが分かった。


 心臓がばくばく言っている。どうして、急に、そんなこと。やめて。


 もう違うのに。そんなんじゃない。違う、違う。だから、だから――



「4人で遊ぼう!!」



 明るいくて大きい水萌ちゃんの声に、我に返った。水萌ちゃんが立ち上がっている。


「どしたの水萌〜」


「あ〜いや……うちは、そういう暗い話より、楽しい話したいなって」


「確かにね! 俺達まだ4人で遊んだことないよな」


 ああ、助かった。ありがとう、水萌ちゃん。


「で、いつにする? あ、今週の土曜は? うち部活ないし。天文学部ズは?」


「俺らもないよー!」


 さっきの暗かった雰囲気が、水萌ちゃんの話題転換によって、またぽかぽかと暖かくなっていく。


「集合は12時ぐらいにしてさ。場所は……しずっちの家とかは?」


 話が回ってきて、焦って顔を上げた。

 

「え、そんな急に大丈夫なの?」


「…………あ、しずくんち? いけると思う」


「やったー! あー、楽しみだなー!」


 水萌ちゃん達は、何事も無かったかのようにまた楽しく話し始めた。


 きっと、水萌ちゃんはしずくの様子を察してくれたんだろう。


「……幸せだな」


「桐生、何か言った?」


「いやなにも」


 ふふ、と思わず笑った。幸せだった。こんなに素敵な友人達に恵まれて。


 ……幸せだったからこそ、目に入った。学食の端っこで、寂しそうにこっちを見ている古田の姿が。

 ひょんなことから、颯斗と部活動見学をすることになった静紅。


 水萌がいる陸上部には入らないと決め、続いて宙と蓮月のいる天文学部を見学することになったが、静紅は颯斗の様子が少しおかしいことに気づいた。


 その違和感に不思議に思いつつ、天文学部での見学と体験を楽しむ静紅。


 そして休憩中、ふと宙に「仲良くしてくれてありがとう」と笑顔で言われた静紅。


 人当たりの良い部員達に、魅力的な活動内容。そして、何より大切な2人の友人。


 静紅は、そんな天文学部に入部するのだった。


 次回 「妹のお友達」


 



 

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