1-6 「友達との日常」
しずくたちの目線の先には、しずくを脅してきた首謀犯、古田霧夜がいた。
しかも、こっちに歩いてきている。
「……ちょっと、うちらになんか用? しずっちまた何かするんだったら、うち容赦しないけど」
敵意を剥き出しにした水萌ちゃんが、歩いてきた古田を睨みつけながらそう言った。
とは言っても、ここは学食。流石に人目がはばかる。
ど、どうしよ、水萌ちゃんとか宙くんが古田に殴り掛かるようなことをしたら、きっとしずくたちのせいにされちゃう。
そしてもし、古田がこの3人を傷つけるようなことをしたら……絶対に、絶対に嫌だ。
「いやその……俺、静紅と話を――」
古田がそう口を開いたその瞬間、
「あっ! 静紅達じゃん! 一緒にお昼食べよ!」
と明るい声が聞こえてきた。見ると、お姉ちゃんが立っている。
そしてその周りには星宮さんと中鶴さんと軽井沢さんが立っている。この前紹介されたお姉ちゃんの友達だ。よかった、助かった!
「あっ! ひょーちゃん達! ちょっと聞いてよ、こいつが例の、しずっちをいじめたやつ!」
「えちょっと水萌ちゃん!?」
それ本人の目の前で言う!? しかも結構でかい声だし……それほぼ古田に喧嘩売ってるようなものでは!?
案の定、古田が水萌ちゃんを睨み付けている。
「……そうなの? ねぇ君、静紅にちゃんと謝ったの?」
お姉ちゃんが古田と正面から向き合う。
「お、お姉ちゃん、いいって……」
学食の雰囲気がピリピリしていく。そりゃそうだ、水萌ちゃんがあんな大きい声で言うから……
星宮さんたちは黙って古田を睨んでいる。
古田は何も答えない。
「ねぇ、聞いてんの!?」
「うっせぇ!」
古田はそう叫ぶと、走って学食から出て行った。
「……さ、一緒に食べよう?」
皆が沈黙していると、お姉ちゃんは何事も無かったかのように笑いかけ、しずく達が使っているテーブル席に腰掛けた。
星宮さんたちはお互いに顔を見合せると、険悪な雰囲気は元に戻り、お姉ちゃんと同じように席に座った。
……よかった、何とかなって。お姉ちゃんのおかげだ。
「わー、ひょーちゃんありがとー! あいつしつこくてほんと無理ー」
いちばん最初に水萌ちゃんが口を開き、古田が走り去った所に目をやった。
「てかあいつ古田だよね? この学校で有名な問題児だよ。静紅ちゃん、気をつけな?」
星宮さんにそう言われ、気が重くなった。
確かにあの感じだといつもやってそう。
……嫌だなぁ。
「あちゃー静紅、初っ端からヤバそうな奴に目ぇ付けられちゃったね。どんまい」
「ほんとだよお姉ちゃん……なんとかしてよぉ」
「えーやだ自分でどうにかしてよ、私だって関わりたくないもん」
「な、なんだと、それでも姉かっ」
薄情なお姉ちゃんと軽口を叩き合っていると、クスクスと軽井沢さんが笑った。
「いやぁ桐生姉妹は仲がいいねぇ。どっかの2人とは大違いだな」
そう言うと軽井沢さんは隣にチラリと目をやった。ジト目をした星宮さんが宙くんを睨む。
「俺だって、こんなやつの弟になんかなりたくなかったよ」
宙くんが苦虫を噛み潰したような顔をしながら言った。
「あ? なんだと? あたしもあんたの姉なんてほんとごめんなんですけど! 調子乗んなクソガキ! 脳みそ引きちぎるぞ?」
星宮さんが噛み付く。ていうか星宮さん思ったより口が悪いな!?
「やれるもんならやってみろよメスチンパンジー」
「だれがチンパンジーだとぉぉ! 弟の分際で! こいつ生かしてはおけぬ!!」
2人が騒がしいせいで再びしずく達の席に注目が集まってしまった。
恥ずかしいけど……何故かこの状況を楽しんでいる自分がいる。
するとずっと会話を見守っていた中鶴さんが口を開いた。
「でもこう見ると仲いいよな」
「「仲良くないし!」」
2人の息ぴったりな返答に、皆が笑う。
あぁ、さっきは大変だったけど、楽しいや。
「ちょっと夏南、落ち着いて、人に見られてるからぁ」
「落ち着けるかぁ!!」
お姉ちゃんが笑いながら星宮さんを宥め、水萌ちゃんはこの状況が面白くて堪らないらしく笑い転げている。
「おい、お前人前でみっともないからやめろって」
「うるさい蓮月のバーカバーカ! これでもくらえっ」
「ちょっ!? やめっ、俺にまで飛び火してるって……!」
宙くんと蓮月くんが揉みくちゃになって笑っている。
しずくも思わず笑みがこぼれた。
……これが、友達との日常。
手に入ったんだ。
ただ、この幸せな空間だからこそ、しずくには場違いな声がどこかからはっきりと聞こえてきた。
「いいな、」と。
静紅を恐喝しようとした主犯、古田 霧夜が静紅達のテーブルに近づいて来て、学食の雰囲気が険悪になる。
しかし、氷華とその友人、夏南、諒、颯斗の登場により、霧夜を追い払うことに成功した。
その後は先程の雰囲気とは打って代わり、和気あいあいと過ごす8人。静紅は、その「日常」を愛おしく思うのだった。
次回 「自分で決めた青春」




