1-5 「対立化」
お久しぶりです。大変お待たせしました。
今回は静紅の友達が出来た翌日の出来事。
それでは、楽しんで。
「まさか静紅があそこまで積極的とはねぇ」
「うっうるさい!」
放課後、しずくはやはり散々お姉ちゃんにからかわれていた。
「まぁ良かったじゃん、友達になれたんでしょ?」
お姉ちゃんが軽やかに動き回る度、ぴこぴこと犬耳やしっぽが動く。
「いやまあそうなんだけど! あの登場の仕方はないよお姉ちゃん、みんな逃げちゃったじゃん」
色々ムカついて、お姉ちゃんにキレた。
「別にあれは蓮月くんが恥ずかしがり屋だっただけでしょ。私悪くないし〜」
お姉ちゃんは悪びれもせずヘラヘラしていて、それがまた……うざい!
「あのあともっと一緒に過ごしたかったのに〜……ったく、元々友達がたくさんいるお姉ちゃんには分からないよっ」
「これから焦らず一緒に過ごしていけばいいの! そうすれば、自然にもっと仲良くなれるし、お互いの事も知れる。友達がたぁくさんいるお姉ちゃんの言葉よ、覚えておきなっ!」
お姉ちゃんの言うことはご最もなので、しずくは黙ってため息をつく。
まだ言い足りないけど、諦めてスマホのロックを解除し、メールアプリを開いた。
改めてメールに登録されている人を確認する。
『氷華』、 『泉』、それから……『yuyu』。
泉はおとうさんの名前で、登録されてるのはこの3人だけ。
転校前は、自分が出せず友達が全然できなかった。
そして、yuyu……夢優。
……これ以上この名前を見たくない。嫌なことを思い出してしまった。
でもほら、友達も出来たことだし、これから増える!
スマホの画面を閉じ、なんとか気持ちを前向きに戻したその時、お姉ちゃんのスマホから着信音が鳴った。
「お、前の学校の友達からだ。ちょっと出てくる」
そう言って自室に入って行くお姉ちゃんを、黙って見送る。
前の学校でたくさん友達を作っていたお姉ちゃん。
人懐っこいのもあるけど、シンプルにコミュ力が高いからだと思う。正直、羨ましい。
しずくは微笑む3人の友の姿を思い浮かべる。
手放したくない大切な人達。
できればずっと、傍にいたい。
◆◇◆
翌日の朝、しずくはちょっと楽しみな気持ちで学校の廊下を歩いていた。
まぁそれは言うまでもなく、友達ができたからである。しかも3人!
いやぁでもまさか、あんなに上手くいくとはねぇ。
「おっはよーござ――」
教室のドアを開けると、視線が一斉にこっちに集まった。
え、なんだろう。ちょっと怖い。
とりあえず席に座って、コームで前髪を整えながら3人を待つ。少し早めに来たからいないのな。
早く来ないかなぁと足をぶらぶらさせていると、急に机にバンっと手が置かれた。
「へあっ!?」
ビックリして顔を上げると、なんと転校初日に奢らせようとしてきた取り巻き2人が立っていた。しずくとぶつかった古田本人はまだ学校に来ていないらしく、姿は見えない。
う、嘘。まさかこの人達、水萌ちゃん達が来ないのを良いことにしずくに何かしようとしてる!?
「なあ転校生、どうやらさっきルンルンだったみたいだけど、一昨日のこと忘れてねえよな?」
取り巻きのうちの1人がそう言ってきた。自然と体が強ばる。
でも不思議と、恐怖より怒りのほうが大きい。
だってこんなにいい気分だったのに台無しにされたからね!
「おい聞いてんのか? ビビってねぇでさっさと答え――」
「忘れるわけ! ないでしょ!」
教室全体が静かになった。
自分がこんな大声を出せたことに驚く。もしかして友達が出来たことでちょっとだけ、自信が付いたのかも。そしてまだ来てないけど、味方がいる安心感。
だったらこの勢いのまま3人が来るまで耐えてみせる! 怖いけど。
しずくは2人を睨みつけた。少し怯むのが分かる。まぁ宙くん程じゃないけど、 しずくが反抗したことが意外なのかもしれない。
「……ああそうかよ。まぁ百歩譲ってその件のことは見逃しといてやる」
黙ってこいつらの言ってることを聞く。
相変わらず上からで威圧的なのは変わっていないようで。てか全然反省してないし。
でも不思議だ。あの一昨日のことが許された(悪いのは100%そっちだけど)なら、言いたいことは一体何だろう?
「それでその問題って――」
「お前と昨日一緒にいたやつらだよ!」
……え?
「えどういうこと?」
言われたことの意味が分からなくて思わず素で聞き返した。しずくと一緒にいた人達? お姉ちゃん? どの人のこと?
「まぁここに来たばっかのお前はまだ知らなかったか。あいつらだよ、津野達のことだよ!」
つの。…………え、蓮月くん達? ってことはあの3人が問題だって言うの?
「いやその3人のことなら知ってるけど」
「そういうことじゃない。お前さぁ、あいつらと昨日一緒に学食に居ただろ。もしかしてその放課後もか?」
「そうだけど……それの何が問題なの?」
この人達は、何を言いたいんだ?
「気に入らねえんだよ、それが。あんなキショい奴らと一緒にいたらお前も同類になるぞ? てか、俺らが同類とみなすぞ」
「は?」
は?
「あんな正義感ぶってるやつらみんな嫌いだよ」
「そうそう、俺は津野が一番気に入らん。あんなド陰キャ、よくうちの学校入れたよな。普通にキモイし」
「それなー! 俺は立花だな、自称サバサバ的な。まさに4軍集団だろあれ」
「あと星宮が一番ヒーローぶってて萎えるわ、ちょっと力が強いからって調子乗んなって感じ」
2人が笑いながら言い合う。しずくの口からはなんの言葉も出てこない。
それぐらい怒りを感じてるから。
「だからまぁ、嫌われたくなかったらあいつらから離れることだな。せっかくお前顔はいいんだから、自分まで汚れたくはないだろ?」
「そうそう。てかあいつら点数稼ぎでお前を助けただけだと思うんだよ、お前から一方的に仲良くしようとしても意味ないって〜」
点数稼ぎ。一方的。
しずくの中で何かがぶちんと切れた、その瞬間――
「ちょっとあんたら! しずっちに何してんの!」
よく通る声。水萌ちゃんだ。
後ろを向くと案の定、水萌ちゃんと宙くん、それから蓮月くんがいた。
「あー噂をしたら来たぜ、おい、言えよ、私はあなた達と関わりたくありませんーって」
「……うん、そうだね」
そう言って立ち上がった。
そして水萌ちゃんたちの方⋯⋯じゃなくて取り巻き2人の方に向く。
水萌ちゃん達、本当にありがとう。本当に心強い。でも、しずくがずっと守ってもらうわけにはいかない。
「じゃあ正直に言ってもいいかな」
「あ? 俺たち? 一体何――」
「fuck you!!」
大きく、はっきりと言って、中指を立てた。
教室が異様な空気に包まれる。
「……え、はっ!? お前何言って⋯⋯」
取り巻き2人はおろか、水萌ちゃん達も目を丸くしている。
「もう一度言う。fuck you! 聞こえなかった?」
「……はぁ!? いやおま、誰に向かって――」
「あんたら以外に誰がいるんだよ! 良いことと悪いことの区別がついてないような分際で、水萌ちゃん達を悪く言うな!」
感情を剥き出しにして怒鳴った。まだまだ言い足らず声の限り怒鳴り続ける。
「お、お前いい加減に――」
「関わりたくないのはあんた達の方だよ! そんなことのために水萌ちゃん達から離れると思わないで! しずくのことを言うのはいいけど、友達を馬鹿にするのは絶対に許さない!」
「……」
取り巻き達とクラスメート達はしずくのあまりの行動に絶句していた。
というかこいつら、ここまで言われても謝罪の一言もないのか。
怒りが募って、手の平を振り上げる。
「おいっ、桐生それはやめとけ!」
その瞬間体を押さえつけられた。
……蓮月くんだ。
「もういいから! お願いだから、頼むよ、」
「おいお前ら何してる!」
その瞬間、先生が入ってきた。我に返る。
やばい、流石にビンタしようとしたのはマズかった。怒られる――
「あーすいません! でも大丈夫ですよ先生。俺らちょっと遊んでただけなんで!」
え、と思って振り返ると、宙くんが笑いながら先生にそう告げていた。
「なっ?」
いつもの純粋な笑みで目配せしてくる。
「えっ? ……あっ、は、はい。遊びすぎましたすみません」
「はぁ!? いやこいつ俺らに――」
「遊びだったよな?」
「っ……!」
今度はめちゃくちゃ怖い目で宙くんは取り巻き2人に圧をかけた。う、うん、やっぱりしずくなんかより本物が一番怖い。
「そうか。桐生、転校してきたばかりだからってはしゃぎすぎるなよー。じゃあ朝のHRを始める」
取り巻き達が舌打ちして席に戻って行った。クラスメート達がチラチラと見てくる。
……やばい。とてもやばい!
クラスメート達に変な印象持たせちゃった。しかも普通に水萌ちゃん達の前で怒鳴っちゃったし。他のクラスにも聞こえたかも。
ああもう、やらかしたぁ……!
◆◇◆
「ここだな、例の写真の撮影場所は」
俺は辺りを見回して、念の為フードを深く被り直した。そして今いる場所を視察する。
特に当たり障りはない、ごく普通の路地裏。
俺はファイルを取り出して、付箋をつけていたページを開いた。
そこに貼っている写真には、ドローンで撮影された路地裏に、俺が探している人物が写っている。
写真は後ろ姿だから顔は確認できないが、こいつの能力を認識できる特徴がはっきりと写っていた。
この写真が取られたのは5年前。写っているのは女の子供2人。だけど身長差があるから同い年とは考えにくい。
それで今回、俺が狙っているのはこの背が高い黒髪の方だ。
髪は下ろしていて、淡いグリーンのワンピースを着ている。手にはキャップの帽子。そして何より、俺がこいつを探している理由。
この黒髪の頭に、耳が生えている。
人の耳じゃない。犬だ。
こいつには犬耳が生えている。
まだ詳しいことは分からない。でも、もしこいつの異能力が「犬」なのであれば、俺はー……
そう思うと、くつくつと笑いが込み上げてくる。
……おっと、いけない、俺はまだやるべき事がある。
一旦笑いを押し戻し、再び写真に向き直った。
実は、今回の目的ではないけど、気になってるのがもう1つある。
この写真に写っている、背の低い方。
この犬耳少女とは違って金髪。特に変わった特徴のない至って平凡な少女。
に、見えるが。
写真だと分かりずらいが、俺には何となく分かる。
こいつも、絶対に一般人とは違う。
犬耳少女とは別にこいつも調べておきたい。
ただ、一緒に写っているし2人に何らかの関係があるのは間違いないから、そこも押さえておこう。
嗚呼、今回も時間がかかりそうだな。
◆◇◆
「いやぁ、しずっちがあんな怒鳴るなんてビックリしたわ〜」
「ご、ゴメン……」
午前の授業が終わり、食堂にて。
しずくは水萌ちゃん、宙くん、蓮月とランチを食べていた。
「いやいや、静紅が俺らのために怒ってくれたの嬉しかったよ!」
「宙くん……」
「そうそう。しずっちって意外と芯があるね〜。……まぁ、その、1言目ふぁっきゅーなのはビビったけど」
「あ、あはは…」
もう1つ後悔していた事がある。 今水萌ちゃんが言ったことなんだけど……考えすぎかなぁ。
「……もうするなよ」
パックのいちごオレを飲みながら、ボソッと、でも強く蓮月くんが呟いた。
「……うん、ごめん蓮月くん、でも、やっぱりしずくは――」
そこまで口にした瞬間、ふと宙くんと水萌ちゃんの目付きが変わったことに気づいた。
……ああ、例のあの怖い目だ。
恐る恐る2人の視線の先を見て、思わず息を呑む。
なんであいつがこっちに来てるの!?
静紅は友達ができた翌日、うきうきで教室に入ったものの、静紅を恐喝しようとした取り巻き2人に話し掛けられてしまう。
そしてその話の内容は、静紅の友達3人を侮辱するものだった。
我慢の限界を迎えた静紅は、その取り巻き2人に怒りを露わにし、挙句の果てに殴りかかろうとしてしまう。
宙のおかげでなんとか危ない状況は回避したものの⋯⋯
次回 「友達との日常」




