1-32 「鉢合わせ」
「え、あれって……」
私達は今、衝撃的な光景を目にしていた。
道の隅っこ。知りすぎている2人。
――静紅と、古田くんが、いた。
手を、握り合っている。
「――おい、ちょっと!」
我に返った諒が、古田くんに向かって怒鳴った。諒はまだ、静紅と古田くんが和解したことを知らない。
ギョッとした顔でこっちを見た2人は明らかに動揺していた。おろおろする2人に、私は完全に思考停止する。
――えっ? え? だって静紅は、水萌ちゃん達と5人で夏祭り、って言ってたはず。なのになんで、古田くんと2人で。
「君古田 霧夜だよな、静紅ちゃんに何してるんだ!」
古田くんが静紅をいじめてると勘違いした諒が2人に近付くと、静紅が慌てて硬直してる古田くんを庇うように前に立った。
「な、何もされてません」
「どう見たってされてただろ。静紅ちゃん、君脅されてたんじゃ――」
「あの、軽井沢さんから何も聞いてないんですか」
急に颯斗の名前が出てきて私も諒も戸惑ったけど、思い出した。そうだ、静紅がいじめっ子に追いかけられた時、颯斗が最終的に場を収めたって言ってたような。
「とっ……とにかく何もされてないですさようなら!」
「あちょ、静紅!?」
静紅は耳を真っ赤にしてそう言い残すと、古田くんの手を掴んで一目散に走って行った。
あまりの出来事に、私達2人はしばらく固まった。
――『静紅って、可愛いじゃないですか』――
――まさか。
もう行動に移したっていうの、古田くん。
「……えっと、どういうこと?」
諒があからさまに困惑した声色で呟いた。
「えっと…………まず、あの2人仲直りしたのよ」
「それは何となく分かったけど。……でも、あの2人」
諒が言いたいことは、本当によく分かる。
手を握り合ってた2人。それはどう見ても、古田くんから一方的にしたものではなかった。
必然的に蓮月くんの顔が浮かぶ。あの、苦しそうに服の襟を掴んでいた、蓮月くん。
そっか。そうなんだ。静紅は、きっと――。
「……諒、行こっか」
「……そうだな」
私達はとりあえず何も見なかったことにして、再び恋人繋ぎをした。暗くて寂しい道を歩く。人は少ないけど、ぽつぽつと屋台が立っている。
――不安だ。
私抜きで、人と関わる選択をする静紅が。少しずつ、自立していく静紅が。
まだ私がいないと、静紅は……
どうしようもなく、不安だ。
◆◇◆
「……はぁ」
幸せの色に染まったスマホの画面を消して、俺は立ち上がった。
暗くて蒸し暖かいベランダに出て、空を見上げる。金星は、どこにも見えない。
満月になりそうな、少しだけ欠けた月だけが見える。
ポケットからミラーレス一眼カメラを取り出して、月にかざした。
――『じゃーん! これが蓮月の誕生日プレゼントだよ!』――
無邪気な笑顔でこのカメラを取り出した桐生。2人で遊んで、心から楽しそうにしていた桐生。
さっきのスマホの画面が脳裏にちらつく。古田から送られてきた、あの写真。
上物の浴衣を着てピースをしている桐生と、緊張からか上手く笑えていない古田。撮り慣れていないのか、微妙なアングルの、あの写真。
――俺は、どうせ月にはなれない。あの太陽の近くに、どうせ行けやしないのに。
それなのに、すぐ近くにいたスピカから、自分から遠のいた。――いや、自分で掴めるはずもなかったんだけど。
やっぱりダメなんだ。俺は、あの太陽じゃないと、ダメになってしまう。そういう体になってしまった。
――あの目を見た、あの日から。
次回 「気付いた想いと停滞と」




