1-30 「夏祭り 〜氷華編〜」
「またねお姉ちゃん」
「またね。楽しんでね〜」
私は静紅に手を振り、あちこちにある提灯と屋台に胸を弾ませながら、軽い足取りで待ち合わせ場所へ向かった。
大きい鳥居の前に着き、諒を探す。約束の15分前だから、まだ来ていないみたいだ。
諒から貰った、お揃いのネックレス。浴衣とは合わないかな、と思ったんだけど、どうしても付けたかったから、浴衣の下に忍ばせた。
――諒とデート。楽しみすぎる! 焼きそばとかりんご飴とか食べたいなぁ。
着いたよ、と諒にメッセージを送ると、すぐに返事が返ってきた。後4〜5分で着くらしい。あー、やばい。楽しみ。
――なんだけど、今私の犬耳に良からぬことが聞こえてきた。下ネタ系。あー、今回もか。だるいな。
「ねぇねぇお姉さん、今1人? ちょっと俺達と回んない?」
「めっちゃ美人〜、絶対悪い思いはさせないからさ〜」
案の定、大学生くらいの男2人がニヤニヤしながら話しかけてきた。
はいはいナンパね。無視無視。
「ちょっと無視しないでよ」
持っていたスマホを掴まれ、危うく蹴りを入れるとこだった。流石に浴衣ではしたない真似はできない。
「ちょっと、私彼氏が――」
我慢できずに声を発して、ハッと気づいた。この匂いは。
「――すみません。俺の彼女なんですけど。諦めてください」
振り向くと、そこにはブチ切れ諒。きゃー、かっこいい! え、なに、浴衣!? 浴衣だー!!
「んだよ彼氏持ちかよ……」
怖気付いてそそくさと去っていくナンパ男2人を勝ち誇りながら眺め、内心ドッキドキで諒と腕を組んだ。
「ありがとう! かっこよかったよ!」
「お待たせ氷華、大丈夫だった? ……てかめっちゃ可愛いなその浴衣」
は?? イケメンがよ!! 好き!!
「諒も似合ってるよ!」
涼しげな無地の青が、諒にぴったりだ。
「ありがとう。私服か迷ったんだけどな。さ、行こうか」
諒は私と組んでいた腕を解いて、手を繋いできた。勿論恋人繋ぎ。
あーっそうですよね! こっちの方がいいわ!
――あ、わーきゃー心の中で騒ぎまくってたせいで、屋台が目に入ってなかった。せっかくだし、色々やりたいな。
「あ! りんご飴食べたい! あと焼きそば! あ待って綿あめとイカ焼きも! あ、大判焼きある!」
「ちょっといっぺんには多いかな氷華」
歩き回るうちに、すぐに食べ物で手が塞がってきた。あー早く食べたい。
多いなんて言った諒もそれなりに買いまくり、手を繋げなくなってきたから、一旦この食べ物達を消費することになった。
「あ、あそこにピクニックみたいに座れる場所があるみたいよ。私レジャーシート持ってきたから」
「流石、用意周到だな」
ふふん、こんなの事前にリサーチ済み。ちなみにゴミ箱も少ないらしいから、ビニール袋も持ってきておいた。静紅にも渡しといたし。
良い感じのスペースがあったから、諒と一緒に手際よくレジャーシートを敷いて、並んで座る。
まずはりんご飴に噛み付いた。ボリボリ、とクセになる音が響く。美味しい。帰ったらりんご飴ASMR聴こ。
「おいしい?」
「うん、すごく!」
幸せな気分で甘いりんご飴を食べていると、諒が愛おしげな目で見つめてきた。
う、顔がいいのと食べずらいのと照れくさいのとでなんか爆発しそう。いいですか爆発しても。これが本当のリア充爆発。上手いこと言っちゃった。
「やっぱり氷華は可愛いな」
「や、やだもう、諒もすごくかっこいいよ! 諒も食べなっ」
めちゃくちゃ照れてるのを紛らわすために、勢いよくイカ焼きにかぶりついた。あ、おいしい。
諒は焼きそばを食べ始めた。あー、食べてるのもかっこいいな。……というか私って、諒以外に彼氏いたことなかったから気付けなかったけど、だいぶ恋愛脳だよな。ま、いっか。しょうがない、好きなんだから。
「そういえばさっきチラッと静紅ちゃん見かけたよ。氷華と来てたんだな。誰といたかは屋台に隠れて分かんなかったけど、手繋いでたと思う」
「まじ? えー、水萌ちゃんかな」
あっもしかしたら蓮月く――……
――ううん、やめよ。なんか悲しい気分になるし。……大丈夫かな、蓮月くん――じゃなくて、今はこっちに集中しよ。
まぁそれはそれで、静紅も楽しんでるといいな。
「あ、そうだ。諒、19時から花火あるらしいから、どっかで見ない?」
「そうだな。ここでもいいけど、屋台回りつつ穴場探そう」
なんてことない会話をしながらぼちぼち食べ終えて、また歩くことになった。
「あ、諒見て射的だって」
「お、いいな。やろうか」
ふふん、私の運動神経の見せ所ね。
銃と弾を受け取って、2人並んで構える。
狙うは、1番でかいあのぬいぐるみ――あやっぱ高級牛肉にしよ。お腹空いた。
標準を合わせて、引き金を引く。3発撃って2回命中したけど倒れない。あと2発か。
「……えっ、諒すごっ」
隣を見ると、諒は既にいくつかのお菓子を撃ち落としていた。積み重なってたところを撃って倒したのか。流石だわ。
「氷華、真ん中じゃなくて上部を狙うと落とせやすいよ」
すると射的を終えた諒が、私の腕と腰に手を回して支えてきた。ヒュー、と周りからからかいが聞こえてくる。
うわー!! うわー!! 私の心臓がー!!
震える手で銃を持ち直し、諒のアドバイス通りに上部を狙って、引き金を引いた。お、動いた。
何とか震えを完全に沈め、最後の弾を詰めて引き金を引くと――倒れた!!
「やったー! ありがと諒!」
「その高級肉ってのが氷華らしいな」
何故か苦笑しながら言われて首を傾げた。変かな。
「……諒ってやっぱりかっこいい」
「照れるな。氷華のほうが可愛いよ」
牛肉が入った袋を片手に、私達は再び並んで歩き始めた。諒の横顔を見つめる。
――ああ、好きだなぁ。ずっと、一緒にいたい。
「氷華」
少し人気のないところに出ると、諒が立ち止まった。
「どうしたの――」
振り返った瞬間、突然諒が私の右手を両手で包み込んできた。いきなりのことに本当に爆破寸前になる。
「俺、やっぱり氷華のことすごく好きだって再認識した。変なこと言うけど、この先、別れないでずっと一緒にいてくれませんか」
まさかの2回目の告白に、私の顔は更に真っ赤になってしまった。しかも、さっき私が考えたこと。
「……も、勿論! その……私も、諒とずっと一緒にいたいなって思ってたの。……その、これからも、その――」
ぎゅっ、と諒が私を優しく抱きしめてきた。その温もりに、泣きそうになる。
私は今まで、こんな優しくて暖かい感情を受けたこと、あったかな。
「――ずっと、一緒にいようね」
囁いて、我ながらすごく恥ずかしくなった。人気が少ないとはいえ通行人はいるよね。
慌てて諒と離れて、お互い照れたように笑う。
ああ、こんな時間が、ずっと続いたら――――――って、えっ!?
私はあるものを見て固まった。
「どうした氷華――は?」
諒が振り返って、私と同じく固まった。
「え、え? あれって……」
「うん……」
待って、あそこの隅っこにいるのって、まさか……!?
次回 「夏祭り 〜静紅編〜」




