1-29 「浴衣」
「見て見て静紅、可愛くないっ?」
「めっちゃ良いと思う!」
綺麗な浴衣を着て可憐に舞うお姉ちゃんに、しずくは心からそう言った。
紺色の生地に、白と黄緑の朝顔。帯は朝顔の柄と同じの上品な黄緑で、リボン結びしている。帯留めは華やかなゴールデンだ。お姉ちゃんらしい大人っぽい感じがする。
「迷ったけど。やっぱりこれかなぁ」
お姉ちゃんはそう言って、クローゼットからカンカン帽を取り出して、露出していた犬耳に被せた。絶妙な大きさで、三つ編みお団子と被っていない。
「そうだ、静紅の髪もやってあげるよ」
お姉ちゃんはしずくをドレッサーに座らせて、丁寧な手つきでしずくの髪に櫛を入れ始めた。浴衣を着て少しおめかしした自分が鏡に写る。
「……ねぇ、髪型お姉ちゃんと一緒がいい」
「そうしよっか。…………ねぇ、静紅は夏祭り、水萌ちゃん達と行くって言ってたよね?」
「……うん」
――実は、言えなかった。古田と2人で行くってこと。何故か言えなくて誤魔化してしまった。
「お姉ちゃんも、夏南さん達と行くんだっけ?」
「…………う、うん」
鏡に写っているお姉ちゃんの目が微妙に泳いだ気がする……お姉ちゃんって嘘つくの下手なんだよね。別に誰でも気にしないんだけど。
「ほら、できた」
あっという間に、綺麗な三つ編みお団子が完成した。――お姉ちゃんとお揃い。嬉しいな。
「うん。流石我が妹。可愛い!」
「うふふ」
全身鏡の前に移動して、さっきのお姉ちゃんみたいにくるくる舞ってみる。お姉ちゃんの紺と対照的な白の生地に、百合の柄。帯は上品な紅色をセレクトしてみた。帯留めはお姉ちゃんと同じゴールデン。
うん、流石しずく。中々いい。
「新しい浴衣も似合ってるね。そういえば、静紅って夏祭りは行ったことあるけど浴衣は着たことないんだっけ?」
「そうだね。その、ゲタ? ってやつも、初めて履く」
「クッション性のやつだから痛くないからね」
昨日試しに、その下駄とやらを履いてみたけど、結構不思議な感じがした。なんか、靴じゃないのを履いてるみたいな。
「じゃ、そろそろ時間かな。行こうか」
しずく達は、和な浴衣には似合わない洋風の玄関から家を出て、駅に向かって歩き始めた。
夏祭りが始まるのは17時からで、今は16時。電車で15分くらいだとお姉ちゃんが教えてくれた。
――なんか、こうやってお姉ちゃんと歩いていると現実味が湧かない。本当に今から、古田と2人で……
そんな変なことを考えながら歩いていると、すぐに駅に着いた。うちは駅から近い。徒歩5分と言ったところ。
皆夏祭りに行くのか、人が多い。浴衣の人もたくさんいる。かなり有名らしいからね、今回行くとこ。
そして何故か、人とすれ違う度にちらちらと視線を感じた。浴衣の着方間違ってたかな。
けどお姉ちゃんは堂々と背筋を伸ばして歩いているから、多分違うかも。
改札を通って、ホームにやってきた快速電車に乗り込む。人が多くて座れない。結構ぎゅうぎゅう。
――そういえば、大丈夫かな。夏祭り、人いるよね。お姉ちゃん、犬のせいで耳が良すぎるから、うるさすぎて倒れたりしないといいけど……
チラッとお姉ちゃんを見ると、めちゃめちゃ笑顔。楽しみーって顔してる。心配して損した。そうだよ、お姉ちゃんは昔から色々器用にやるから。
「楽しもうね、静紅」
こそっとお姉ちゃんが耳打ちしてきて、しずくも笑って頷いた。――うん。楽しみ。
――楽しみだけど、夏祭りではお姉ちゃんと鉢合わせしないといいなぁ……
次回 「夏祭り 〜氷華編〜」




