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拝啓、元私のお姉ちゃんへ。〜何故か姉が犬だけど気にせず学園ライフを謳歌したい〜  作者: 叶 梨鈴
日常編

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1-23 「問題児の友人」

 保健室のドアに掛かっている『養護教諭不在中』と書かれたプレートを見て、俺は苛立った。

 よりによって急がなくちゃならない時に。つくづく俺達は不運だ。


 鍵はかかってなかったから、ひとまず保健室に入って桐生をベッドに座らせる。


「……なんでそんな嬉しそうなの」


 こんな災難な目に遭ったっていうのに、桐生は何故か上機嫌だ。


「軽井沢さんの誤解が解けたからね」


「何の話?」


「ひとつミッションをコンプリートしたってこと!」


「うん、どういうこと」


 桐生が意味の分からないことを言うのは日常茶飯事。


 俺は棚から保冷剤とテーピングを取り出して、応急処置を始めた。

 保冷剤を制服越しに桐生の脚に当て、少ししてからテーピングを施す。


「なんか、手慣れてるね」


「……まぁ」


 俺は黙って淡々と処置を進めた。


「…………こんなもんか。安静にして待ってて」


 テーピングを巻き終えて立ち上がる。早く軽井沢さんのとこに先生連れていかないと。

 あー、この後面倒くさくなりそうだな。


「待って蓮月!」


 保健室から出ようとすると桐生に呼び止められ、俺は振り向く。


 すると、桐生が足を引きずるようにして俺の元に歩いてきた。


「ちょっ、今安静しててって言ったばっか――」


 案の定、桐生がつまづいたかなんかで、俺にしがみついてきた。いやこれ何回目だよ。


 けど、これは桐生の故意によって起きたものだと気付く。


「助けてくれてありがとう、蓮月!」


 その言葉に俺は微笑んで、桐生の背中にぎこちなく腕をまわした。


 初めての異性との抱擁が、まさかこんな形でやってくるとは。


 ………………俺、通報されないかな。こういうコンプラ厳しいんだっけ今。


 感動的な場面なのに場違いなことが浮かぶ自分に嫌気が差してくる。


「あの、桐生、そろそろ離れて――」


 ガララ、と、ふいに保健室のドアが開いた。


 ドアを開けたのは、衝撃的な顔をしている古田。



 …………あ、最悪。絶対誤解される。

 だって見てこの状況。

 ハグしてるじゃん。広められたら終わんじゃん。


「やっほー」


 何故か桐生は何事もないかのように古田に声をかけた。まじでこいつどんな神経してんだ。


「…………え、あ、え、お前ら、え、」


 案の定古田は混乱している。


 あー、終わった。全部桐生のせい……いや元はといえば古田のせいか。なんかムカついてきた。


 桐生が何事もなかったかのように俺から離れる。


「なんでいるの? 軽井沢さんは?」


「……え、あ、いや、あの」


 状況を飲み込めてないらしく、古田は口をぱくぱくさせている。……そんな戸惑うか?


「古田?」


「あっ、えっと……ま、待ってたら先生来たんだよ。色々事情聴取されて、俺は一旦解放されて傷の手当をしに、ここへ……」


「じゃあ、多分しずくと蓮月も先生と話さないといけなくなるのかな。……面倒だなぁ」


 そんな呑気なこと考えてんのはあんただけだ桐生。



◆◇◆


 

 長い長い先生との事情聴取は無事終わり、俺は誰もいない食堂のテーブル席に座っていた。


 まじで早く帰りたいんだけど、何でか古田が俺をここに呼びつけてきたのだ。当の本人は、事情聴取が長引いていて全然来ない。


 杉本と西田はこっぴどく叱られていた。当たり前だ、女子に暴力した挙句、追い回したんだから。


 正直1発ぶん殴りたいところだが、不本意なことにその役目は古田が終えた。


 ……にしても、意外だ。あの時はダメ元で古田に助けを求めたんだけど、古田は血相を変えて一瞬で俺を追い越して走って行った。


 それに今俺は、問題児である古田に呼び出されているのに関わらず、以前ほど恐怖心を抱いていない。少年漫画的に言えば、多分2人で共闘?? したことにより、古田への見え方が変わったからだと思う。

 苦手意識があることに変わりはないけど。


「よ、待たせたな」


 15分ほど待つと、古田がやって来た。事情聴取がキツかったのか、少しやつれている。


「待たせた詫びに買ってきたわ、バナナオレ」


「……バナナ?」


 古田がバナナオレを手渡してきた。

 ……俺が好きなのはいちごオレなのだが、やり直し、なんて生意気なことなど言えず、黙って受け取る。


「……あの、それでなんですか」


 早く終わらせたくて切り出した。


「いや、別に。これといった用はないけど」


「……は?」


「なんか、別に、世間話がしたくなっただけ」


「はぁ??」


 目を合わせずに言う古田に、思わず素っ頓狂な声をあげた。


「そう言わずさ。な、いいだろ津野」


 良くない、帰れ! なんて言えず、はぁ、と曖昧な反応をする。


「………俺、まじでお前のこと見直したんだよ」


 でも古田は至って真面目な顔で話し始めた。問題児に褒められるのは変な感じがする。


「あんなことできたんだな。一緒に事情聴取されてた静紅が言ってたの聞いたんだけど。何であの時桐生を助けたんだ?」


「なんでって……」


 俺は考えた。確かに、俺はなんで桐生を助けたんだろう。なんで自分が犠牲になろうとしてまで、桐生を助けようとしたんだ?


「友達、だから?」


「なんでお前が疑問形なんだよ」


 自分でもよく分からない。でも覚えているのは……


「…………別に、やんなきゃ後悔するなって思っただけです」


「なんで後悔するって思ったんだ?」


 深く質問してくる古田に少々苛立ちつつ、自問自答だと思って俺は考えた。


 後悔、か。俺、確かに逃げたいって思ったけど、その気持ちより、桐生を助けたいという想いのほうが強かった。そして、あろうことか俺は行動に移した。


 絶対、昔はそんなことできなかったのに。


 何でだろう。俺にとって桐生はそこまで大切な存在だったってことか? ……いや、あの時追い詰められていたのが立花だったとしても、きっと俺は同じことをした。


 ―――あ、そうだ。分かった、俺、影響を受けてたんだ。


 他でもない、あの恩人に。


「……古田さんって、」


「タメ口でいいって」


「…………古田って、俺がどういう人間か、知っててその質問をしたんですよね」


「まぁ、そりゃあ。つか敬語抜けてねぇよお前」


「なんか言い方ムズいんですけど、多分俺、この1年間でたくさん光を吸収したんだと思います」


「何言ってんのお前」


 答えてやってんだから黙って話を聞いててくれ。


「その……俺って、ネガティブというか暗くて、」


「知ってる」


「うるせぇ」


「ごめんって」


 思わず本音が口に出て俺は焦ったが、古田は目を細めて笑っている。何なんだほんと。


「そんな俺を宙が助けてくれたっていうか……その、変えてくれて。そんな宙の背中ずっと見てたら、なんか、ちょっと、俺の中で何かが変わったっていうか」


 ……ここまで喋る必要なかったな絶対。マジで恥ずいってこれ。


 古田は特にそのことを気にする様子はなく、少し首を傾げて腕を組んだ。


「ふーん、じゃあ津野は星宮に憧れてたってことか?」

 

「あこがっ……い、いや、普通にちょっとだけ影響を受けだだけっていうか」


 いや、うん、()()()()()()で古田が言ってるんじゃないって分かってんだけど。

 どうしても焦ってしまう。


「……見直したけど、やっぱお前陰キャだよな」


「うるせぇ問題児」


「お、言うようになったじゃん」


 どうでもよくなって吹っ切れた。問題児相手に敬語を使うなんて、馬鹿らしい。


 …………俺、やっぱり変わったな。


「にしても……まさか津野に馬鹿って怒鳴られる日が来るとは思わなかったわ」


 古田が感慨深そうにそう呟いて、椅子の背もたれによりかかった。


「……俺そんなこと言ってない」


「さっき屋上で言ってただろ。まじびびったもん」


 あ、言ったかも。恥ず。


「……忘れて」


 顔を背けながら言うと、古田が豪快に笑った。


「つかあんた元気じゃん。何だったんだよあの病んでて意味深な感じ。じゃあやっぱり、俺らのとこ戻ってくるんだな?」


 ため息をついて言うと、古田が少し顔を赤くして、すぐに背けた。


「いや、だってそりゃ……戻るだろ、この流れ」


 無言で嘲笑すると、古田が更に顔を赤くする。


「しょ、しょうがないだろ! だって、俺のせいで静紅が悪く言われるのが――」


「……桐生だけかよ?」


 なんで桐生に拘るんだ、この人。



 ………………あ、まさか。いや絶対そうだ。


「…………なぁ、もしかしてあんた、桐生のこと好き、なの?」


 古田がぴしっと動かなくなる。分かりやすすぎる反応に、俺は更に畳み掛けた。


「好きだから、俺と桐生の関係を探るために、俺をここへ呼び出したんじゃないのか」


 図星だ。面白いくらいに分かりやすく耳を赤くしている。


「…………だったら悪いかよあぁん!?」


 古田が勢いよく立ち上がり、大きな声で言った。開き直っちゃった。


「あぁもういいわこの際はっきり言わせてもらうわ、お前は静紅のなんだ! 言え!」


「何って……言ってるだろ、友達って」


「普通異性同士の友達はハグしねぇんだよ!」


 ご最もだが、桐生に言ってくれそれは。


「じゃあ親友」


「じゃあってなんだよ親友もしねぇよ、2人きりで、保健室でよ! どう考えてもおかしいだろうが!」


 確かに言われてみれば。けど養護教諭がいなかったのはたまたまで、俺らに非はない。


「……あのなぁ、俺が桐生と付き合ってるって思ってるのか? どう考えても釣り合わないよ」


 嫌われ陰キャの俺が、桐生の彼氏? 笑わせるな、桐生にはもっと良い奴がいる。俺なんかよりもっとイケメンで、危なっかしい桐生をいつでも守れるような。


 …………それに、そもそも俺は……


「自虐したって無駄だぞ。前々から思ってたけど距離近いよなお前ら。この前家で遊んだ時だってなぁ――」


「違うって! 俺と桐生はそんな関係じゃないよ。疑うんだったら桐生に直接聞いてみればいい。大丈夫だ桐生は俺のことなんか好きじゃない」


 疑われるのが苦痛でそう一気に言い切ると、ようやく古田は黙った。まだ納得はできてなさそうだが。


「……本当に、本当に信じていいんだな?」


「誓う」


「……わかった」


 古田は安堵した表情で、どっかり椅子に座り直した。


 なんかムカついてくる。つまりなんだ、俺達4人はこいつの恋愛事情に振り回されてたのか。


「……なぁ、桐生と俺は釣り合わないって言ったけど、古田が桐生に釣り合うとも思ってないから」


「なんだテメェ喧嘩するか?」


「やってやる、宙が」


「人頼りじゃねぇか」


 はー、と2人同時にため息をついた。


「……帰るか」


「そうだな」


 俺達は2人並んで歩き出した。遅くまで残っていた同学年の奴らに2度見どころか3度見された。陰キャと陽キャ問題児が一緒にいるなんてさぞ珍しいだろう。


 別れ際、古田と連絡先を交換した。スマホに登録された『キリヤ』の文字を見ても、現実味が湧かない。問題児とメールでやり取りすることになるとは夢にも思わなかった。


「じゃあな津野」


「また」


 吹いてくる風が生暖かい。もうすぐ、夏だ。


 問題児と友人になってしまった俺。これからどうなってしまうんだろう。

 ここまで読んで頂き誠にありがとうございます。

 なんと、あろうことかポイントが50超えました。皆様本当にありがとうございます。

 これからもよろくお願いします。


 次回 「姉達」

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