1-22 「友達だから」
日間ランキング入りましたーーー!!!!
初めてのことなので嬉しいです。やったー!
ポイントも50越えててほんともう、驚きです。
皆様こおかげです。本当にありがとうございます。
これからもどうぞ、私の小説を楽しんでいただけたら幸いです。
何となくクラス全体が気まずいまま、放課後が来た。
立花が珍しく浮かない顔をしながら部活をしにグラウンドへ向かっていく。
「⋯⋯桐生、帰るか」
俺は、ずっと机に突っ伏したままの桐生に声をかけた。顔を上げた桐生の目元が、少し赤い。
「宙、今日委員会で遅れて帰るって」
「わかった、」
桐生は立ち上がると、立ちくらみを起こしたのかよろよろとバランスを崩した。
「危なっ」
倒れそうになる桐生を慌てて抱きとめる。クラスメイトの視線を感じて、急いで桐生から離れた。
「⋯⋯ありがとう蓮月」
「いいけど、その⋯⋯大丈夫?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯わかんない」
桐生が肩をすくめるのを見て、俺は何となく見ていられなくなって俯く。
古田は結局、昼休憩の時間になっても、授業が始まっても戻って来なかった。ずっとあの人は問題児だ。せっかく許してくれた桐生に心配かけるなんて。
俺は別にどうでもいいけど。
「行こうか」
「うん」
学生鞄を片手に、2人で無言で廊下を歩く。必死に桐生へかける言葉を探したけど、見つからない。
話さないまま昇降口につくと、急に桐生が立ち止まった。
「やっぱり、しずく古田のこと探してくるっ」
「あ、ちょ、桐生」
桐生はそう言うが早いが、走ってどこかへ行っしまった。
取り残された俺は、ひとりため息をつく。
「⋯⋯桐生、待って」
仕方なく、俺は桐生を追いかけて走り出した。
◆◇◆
図書室、ホール、食堂、グラウンド、体育館。
入れ違ったか、どこを探し回っても、桐生が見つからない。
メールしても返事は返ってこないし。
体力の限界が来て、膝に手をついて息を切らす。
どこ行ったんだあの人。ひょっとしてもう帰ったとか? ⋯⋯いや、桐生のことだ。根気強く古田を探し回ってるに違いない。
⋯⋯というか、何してんだ俺。桐生が勝手に探してるだけだし、そもそも古田は帰ってるかもだし⋯⋯もう帰ろうかな。
――『待ってよ! 仲直りしたじゃん!』――
「⋯⋯っ」
あの、桐生の張り詰めた声を思い出す。
もう少しだけ、探そう。
再び歩きだした時だった。
「や、やめて!」
「黙って説明しろよ」
桐生の、声がした。そしてもう1つ、これは、まさか⋯⋯杉本? あの、桐生を恐喝しようとした古田の取り巻き⋯⋯
――まさか。
声のした空き教室の引き戸の後ろに隠れて様子を見ると、俺は思わず口を手で押さえた。
桐生が、教室のロッカーに追い詰められていた。
杉本と、西田に。
「おい、俺達霧夜に縁切られたんだけど。お前が何か吹き込んだな?」
「しらないっ、」
「お前しかいないだろ!」
「痛ッ」
西田が問い詰めて、杉本が桐生の細い両手首を掴み、バン、とロッカーに押し当てた。
桐生が痛そうに顔を歪ませる。
冷汗がだらだらと出てきた。呼吸が乱れてくる。
――どうしよう。どうしようどうしようどうしようどうしよう。
このままじゃ、桐生が。
また、証拠を撮って、先生に⋯⋯いや、そんな呑気なことしてる場合じゃない。じゃあ、証拠撮ってまた奴らに突きつける? いや、あれは宙達がいたからできたのであって、今やったら速攻奪われてボコされるルート直行だ。
――――――逃げる? 見なかったことにする?
「あとお前、この前俺らに暴言吐いてきたよな。今も同じように言ってみろよ、なぁ?」
杉本がぎりぎりと桐生の手首を掴む力を強めた。
桐生は今にも泣きそうになっている。
逃げない。逃げれるわけがない。
逃げたら、俺はきっとずっと後悔する。
じゃあ、どうする? 宙ならどうする? きっとすぐボコボコにするに違いない。でも、俺にそんな力はない。
でも、今は俺しかいない。俺が助けないと。
桐生の友達だから。
震える手で、学生鞄からペンケースを取り出して、チャックを開ける。
――そして、俺はそれを思いっ切り床に叩きつけた。
ガシャンバラバラ、と音が響く。
「うわ何だ今の音?」
「見られてたか?」
2人が俺が隠れてる引き戸とは反対の引き戸から出てくる瞬間、俺は教室の中に滑り込んだ。
座り込んでいた桐生が驚いたようにこっちを見て、安堵した表情を浮かべる。俺は人さし指を口に当てて、静かに、と合図した。
杉本と西田に見つからないように中腰で桐生の傍まで歩いて、逃げよう、と手を差し伸べる。
「あ! おい、津野!」
その瞬間、再び教室の中に戻ってきた2人に気付かれた。
俺達は教室の扉から出て、一目散に駆け出す。
「は、蓮月」
「いいから、走って。あいつらどうせすぐ諦めるから」
そう言ったものの、杉本達はしつこく追いかけてきた。俺が助けたことによって逃げ切れられるのが癪なのかもしれない。
不幸なことに、今いるのが人気ない棟なのと、今日は職員会議があるのとで、誰ともすれちがわない。
このままだと、人気のあるところに向かってるうちに、すぐ追いつかれてしまう。
災難なことに、俺と桐生の足は遅い。
「待てお前ら!」
がむしゃらに足を動かしていると、階段に突き当たった。2階に下る階段と、屋上へ続く階段。
そして俺は、思い付いた。桐生を助けるためのこと。
そうだ。⋯⋯こうするしかない。
桐生が2階へ続く階段を駆け下りるのを確認して、俺は屋上へと続く階段を駆け上った。
「え⋯⋯蓮月っ――」
桐生が立ち止まったけど、すぐ後ろまで迫っている杉本達を見て、桐生は階段を駆け下りて行った。
⋯⋯よかった。これでいい。
俺は屋上の扉を開けて、地面に座り込んで目を瞑った。
杉本達は、桐生より俺のことが嫌いだ。
逃げ場のない俺を追い詰めに来るだろう。
自分はどうなるか分からないけど、桐生が助かればいい。
それに、桐生がすぐ先生を呼んできてくれるはず――
そこまで考えて、違和感を覚えた。
呼びに来る……先生。
ぶわっと冷汗が出てくる。
慌てて扉を開けると、やっぱり杉本達の姿がない。俺を追いかけてきていない。
まずい。まずいまずいまずい。しくじった。判断を間違えた。
てっきり俺の方に来るのかと思ったけど、冷静に考えてみると逃げ場があって、先生に忠告される可能性のある桐生をそのまま逃がすわけが無い。
そもそも俺が教室に入り込んだ時点で、先に桐生を逃がしておけばよかったんだ。
ああ、なんで俺はいつもこうなんだよ。桐生はきっと捕まってしまう。人のいるところに辿り着くより先に。
そんな、どうしよう。
――――――桐生!
「…………津野、か?」
頭を抱えていると、ふいにそんな声がした。
まさかと思って振り返ると、屋上の端の方のフェンスに、戻ってこなくなったと思っていた古田が、もたれかかっていた。
……ああ、そうだ。古田なら。
「何で津野、お前ここに――」
「古田ーー!!」
俺は叫んでいた。今まで出したことのないほど、大きな声で。
「……な、何だよ、どうしたんだよ――」
「桐生が! お前のせいで傷ついていいのかよ!」
「…………は?」
俺は必死に叫び続ける。頼みの綱に向かって。
「馬鹿! 桐生が今、大変なんだよ! あんたを探すって追いかけてな! そのせいで、桐生が杉本と西田に、追い詰められてんだ!」
怒りと悲しみが混じった声で叫ぶと、古田が顔を青くした。
「……おい、それって、それってどういう」
「こっち!」
屋上の扉から飛び出して、俺達は階段を駆け下りた。
◆◇◆
どうしてこんなに追いかけてくるの。
悪いことなんて何もしてないのに。
もう疲れた、限界。
頭に霧がかかってる気がする。
「……あっ!」
意識が遠のいたせいで足がもつれ、踊り場に倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ、チッ、手間かけさせやがって」
杉本と西田が、こっちに迫ってくる。
ああ、もうだめ。お姉ちゃんっ……
諦めて、ぎゅっと目を瞑った。
その時だった。
「静紅に触んな!!」
え、古田………?
目を開けると、古田が階段を駆け下りて来ていた。
「……え、霧夜、お前――」
振り向いて驚きの声を出す杉本に、古田が馬乗りになって拳を振り上げる。
どういう、こと?
助かった?
というか、なんで古田がここに。
「桐生!」
状況が分からず呆然と座り込んでいると、蓮月が階段から駆け下りて来た。
泣きそうな顔で駆け寄ってくる。
「よかった、無事で。ごめん、俺がしくったせいで」
どうして蓮月が謝るんだろう。
「だ、大丈夫だよ。というか、古田がっ」
立ち上がろうとして、バランスをくずした。さっき転んだときに脚を捻ったせいだ。
「危なっ。どこか怪我したの?」
さっきと同じように、転びかけたのを蓮月に支えられる。
「ちょっと転んだだけだよ。……というか、しずくより古田が……」
古田と杉本達が、かなり激しく取っ組み合っている。2対1だし、古田がボコされちゃう。
「……まぁ、多分すぐ誰か来る。先に保健室行こう」
蓮月がそう言ってしずくの腕を自分の肩にまわした瞬間、ドタドタと階段を駆け上ってくる音が聞こえた。
「ちょっと君達、何してんの!」
そう言って駆け上ってきた人――軽井沢さんが、しずくと蓮月を見て目を丸くする。
「え、し、静紅ちゃんと…………津野くん? 一体何が――」
「軽井沢さん! いいから古田助けてあげて!」
思わず大きな声で言った。この際軽井沢さんだろうが関係ない。
「え? こいつ、静紅ちゃんのこといじめた――」
「そんなのいいから!」
しずくの剣幕に、軽井沢さんは不思議そうな顔をしつつも取っ組み合っていた古田と杉本達をあっという間に引き剥がした。わお、帰宅部なのにすごい力。
「おいちょっと、何があったんだ?」
傷まみれになった古田達に、軽井沢さんが困惑した様子で問いかける。
「古田は悪くないんです」
助けてくれた古田を擁護するために、しずくは訴えた。
「古田がその2人から助けてくれたんです。それと、蓮月が」
蓮月が、を強調して言って視線を送ると、軽井沢さんは申し訳なさそうに俯いた。
蓮月がしずくを補助して立っていた構図から、少なからず蓮月が役に立っていたことを理解したんだろう。
杉本と西田はというと、息を切らしながらしずく達を睨んでいた。力強い先輩の登場により、色々と諦めたらしく何もしてこない。
「……とりあえず、詳しいことは後で聞くわ。えっと…………蓮月くん、動けるなら先生呼んできてくれる?」
「……あ、はい。あの、桐生のこと保健室に連れてきたいんですけど、軽井沢さんそこ1人で大丈夫ですか」
「……ああ、こう見えて俺、力強いから」
軽井沢さんが少し笑って言った。
「……行こう、桐生。もっと体重俺に預けちゃっていいよ」
「ありがとう」
わざと、大袈裟に蓮月にもたれかかった。それに気付いたらしく、蓮月はうざそうな顔をしている。
「…………ごめんね、静紅ちゃん」
去り際、軽井沢さんが俯き加減で言ってきた。しずくは聞こえないフリをしつつも、思わず笑顔になっていた。
次回 「問題児の友人」




