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拝啓、元私のお姉ちゃんへ。〜何故か姉が犬だけど気にせず学園ライフを謳歌したい〜  作者: 叶 梨鈴
日常編

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20/28

1-19 「真の和解へ③ 〜ギターの音色と意外な理由〜」

「はい、これ私が好きなアールグレイティー。気に入ってもらえると嬉しいな」


「ど、どうも」


 私はリビングのソファーテーブルの上にアールグレイティーを2つ乗せて、古田 霧夜の向かいに腰掛けた。


 なるべく作り笑顔を崩さないように、冷静さを保って、私は彼に話しかける。


「お土産のお菓子ありがとう。あれ高かったよね?」


「いえ……」


 気まずいのか、彼はろくに目を合わせてこない。


 それにしても、見た目だけは好印象な少年だ。髪は柔らかそうなコンマバングで、諒には及ばないけど中々整った顔立ちをしている。それにわりと背も高い。


 見た目がいい故、もったいない。


「私ああいうの好きだから嬉しいな〜。もしかして、私の好み静紅から聞いたとか?」


「……はい、氷華さんはASMRが好きって」


 静紅とはそれなりに話してるってことね。    あの子、ペラペラ喋るんじゃないよ全く。


「そうなのよ〜、あの音がたまらなくって。ついつい聴いちゃ――」



「あの氷華さん!」



 急に、彼が私の話を遮り、テーブルに手をついてソファーから立ち上がった。いきなりのことに、私は口をつぐむ。


「…………」


 だけど、それきり彼は俯いて何も話さない。


「……どうしたの?」


 私が訪ねても、彼は口を開かないままだ。


 そういえば、前学食で静紅について彼を問い詰めようとしたときも、こんな状況だった。

 私が訊いても、何も喋らずに、俯いていて。


 また、逃げるつもり?


「ねぇ、君さ――」

 

 痺れを切らして、彼に話しかけようとしたときだった。



『〜〜〜〜♪♪』



 流れるような、繊細で美しい音。

 ギターの音色が、上の階から聞こえてきた。


 これ……静紅?


 そういえば、この前初めて家に水萌ちゃん達を招いたときも、静紅はギターの演奏を皆に聴かせていた。


 にしてもこの曲、静紅が演奏するにしては明るい。静紅はいつも、簡単なロックや、自分で作曲した短調の曲を弾いているのに。


 この曲調はまるで……何かを後押しするような。


「………………氷華さん」


 演奏に聞き入っていた古田 霧夜が、再び私の方を向いた。


「本当に、すみませんでした」


 彼は、私の目をしっかり見てそう言って、頭を下げた。


 自分から謝罪してくるとは思ってなくて、何と言っていいか分からず口ごもる。


「俺…………自分でも、何がしたかったのかよく分かってなくて」


 声が震えている。


「俺頭悪くて。普通に仲良くしようと思ったのに、あんなことして。氷華さんにも、暴言吐いちゃったし」


 ……え。

 泣いてる。


 彼が急にぽろぽろ涙をこぼし始めて、私はハンカチを差し出した。


「あの……っ」


「いいよ、ゆっくり話しな」


 静紅の優しくて力強いギターのメロディが、会話の空白を埋める。


 彼は私のハンカチで目元を拭い、再び口を開いた。


「…………完全に許してほしい、なんて言わないんで、その……静紅と友達になるの、認めてもらえますか」


 彼は嗚咽を漏らしながらも、私を真剣に見つめてくる。


 私はアールグレイティーを1口飲んで、彼を安心させるために微笑んで、口を開いた。


「古田くんは、どうして静紅と友達になりたいの?」


 そう尋ねると、彼は少し赤くなった目を見開いた。


「静紅から、君が反省していたってことを聞いて不思議に思っていたの。それと、これは私の友達から聞いたんだけど、君って他にも問題起こしてたんでしょ?」


 彼は黙ったままだ。構わず私は話し続ける。


「それも君の頑固故に中々解決しなかったって聞いたよ。それなのになんで君は、静紅との件についてはわりとすぐに反省して謝ったの? なんで泣くほど静紅と友達になりたいの?」


 私が話し終えたタイミングで、ギターの演奏の音が止まった。


 彼は固まって、顔を赤くしている。


「…………⋯⋯あのこれ、本人には絶対言わないで欲しいんすけど」


「うん、何?」


 私が問い直すと、彼は更に顔を赤くして、少し目を逸らしてから――口を開いた。



「静紅って、可愛いじゃないですか」



「………………え?」


 思わぬ返答に、今度は私が固まる番だった。

 反応を見るに、彼が今言ったのは偽りないと思う。


 …………いやでも、まさか。


「語彙力ないですけど、なんかすごい、可愛い。……それだけです。あの、本当に内緒っすよ?」


 彼は恥ずかしさがピークに達したのか、急いでソファーに座り直して、ちびちびとアールグレイをすすり始めた。


 私はてっきり、彼は私達桐生家が金持ちだってことを知っていて、やらかした後に焦って関係を良好にしたがってるのかと思ってた。


 …………おいおい、嘘だろ。


「……それで、認めてもらえますか」


 照れくさそうな彼の言葉に、私は我に返る。


「あ、あぁ……君がきちんと反省してることは伝わったし、これからは二度としないなら……」


「本当ですかっ」


 あっ、つい許しちゃった。どうしよ。結局こいつ静紅のこと好きだから仲良くなりたがってるだけじゃん。くそっやられた(?)。


 ……けどまぁ、心は入れ替えたみたいだし。


 …………ん? あれ?


 この男、静紅のことが好きだって?


「まてっ、静紅と付き合うのはまだ早いからな!?」


 私は思わず立ち上がって、大きな声で言った。


「つつ付き合っ!? そっちこそ気早いっすよ氷華さん!?」


 しまった、つい冷静さを失ってしまった。

 古田くんの顔は完全に真っ赤である。


「アッエット……そ、そろそろ戻りたいよねっ?」


「アッハイ……戻りたいっすね……」


「い、行こうか」


 すごく気まずい雰囲気で私達は階段を上って、静紅の部屋のドアを開けた。


 ギターをいじったりして遊んでいた静紅達が一斉にこっちを見る。


「あ、ひょーちゃん戻ってきた! 古田、あんた出禁にされてない? 大丈夫そ?」


「されてねぇよ!?」


「なんだつまんねぇの」


「何だと星宮」


 あれ、古田くん意外と水萌ちゃん達とも仲良くしてる。


「古田大丈夫だった? 何話したの?」


 静紅がこっちに近づいてくると、古田くんは少し顔を赤らめた。


「べつに平気」


「ふーん? てかさ、今しずくギター弾いてたの聞こえた?」


 静紅がそう言ってギターを指さした。


「おう。その、うまいな、ギター」


「ありがと。好きなんだよねこれ弾くの」


 照れたのか、古田くんは顔を逸らした。


 ……こいつ、本当に静紅のこと好きじゃん。


 私どっちかって言うと、静紅には今会話に参加せずにギターのそばに座ってる蓮月くんとくっついて欲しいんですけど。てかもう2人付き合ってんじゃないの? おおん?


「あ、てか氷華もせっかくだから一緒に静紅の演奏聴こうよ! めっちゃうまいよ静紅!」


「えーやん! ね、いいよねひょーちゃん?」


 宙くんと水萌ちゃんが、満面の笑みで口々に私にそう言った。


 2人とも、純粋無垢で可愛いから断れないなぁ。宙くんは犬みたいだし。


 まぁ、静紅のギターがすごいのは、私がいちばん最初に知っていたことなんだけどね。


「宙、お姉ちゃんには散々聴かせてるよ」


「いーじゃんいーじゃん。な、蓮月?」


「え? いや、どっちでもいいけど」


「だって! いいよね、氷華?」


「しょうがないなぁ。ちょっとだけだよ?」


 和やかな雰囲気に、思わず笑顔になった。


 私は敷いてあるカーペットの上に座る。


「じゃあ、何の曲がいい?」


 静紅がギターを持ってベッドに腰掛けた。


「…………桐生んちに初めて行った時に弾いてくれた曲がいい」


 蓮月くんが、珍しく自分から発言して、私はちょっと驚く。


「あー、あれね。しずくのオリジナル。おっけー」


「えっ、静紅曲作れるのか?」


 古田くんが驚いた様子で静紅に訊ねた。


「簡単なコードのやつだけで構成しただけだけどね」


「…………意外とお前器用っていうか、センスあるよな」


「意外とってなんじゃい」


 それにしても、よく話すな。静紅、そんな雑談するくらい古田くんに気を許していたのか。すごく意外。


「…………桐生、早く」


「あーごめんって。……蓮月って、意外としずくの演奏のファンだよね」


「いや、別に…⋯時間なくなると思って」


 おっとこれは蓮月くんの嫉妬か!? いいぞもっとやれ!!


 私の心のテンションとは真逆に、少し暗めなメロディーが部屋に響き始めた。

 静紅の奏でる音だけが聴こえる。


 やっぱり静紅はギターがうまい。ギターの音とは思えない繊細さと優しさあって、それが曲とマッチしている。


 聴き入ってしまうというか、静紅の音に引きずり込まれてしまうようような、


 周りを見渡すと、皆静紅の演奏に聞き惚れていた。

 隣に座っている宙くんは、音に合わせてゆっくり首を左右に振っている。


 古田くんは何やら真剣な顔で聴いていた。もしかしたら、この曲を材料に、静紅が一体どういう人間なのかを見出そうとしているのかもしれない。


 この曲をリクエストした蓮月くんは、少し目を見開いて、固まるようにして聴き入っていた。


 分かる。私も同じようになる。静紅の演奏は、すごく特殊で……綺麗だ。


 少しして静紅の演奏が終わり、一瞬の間が空いてから、拍手が起こった。静紅は安堵のため息をついている。


「ふう……こんな大人数の前でするのは始めですごい緊張しちゃったよ」


「ナイスしずっち! 今回もちょー凄かった!」

 

「それなー! 俺、こういう曲聴いてて眠くなんないの始めてだわ!」


「やっぱ静紅すごいな。普通にビビった」


 水萌ちゃんと宙くんと古田くんが静紅を褒めている横で、蓮月くんはぼーっとしていた。心配になって、私は蓮月くんの肩を叩く。


「蓮月くん、大丈夫? 水飲む?」


「…………あ、い、いえ……すみません何ともないんで」


「あーお姉ちゃん、前も蓮月しずくの演奏聴いたあとそうなってたから大丈夫だよ。感動したんだよね、蓮月?」


 静紅が悪戯っぽく笑って、蓮月くんを覗き込んだ。


「いや、ちが……そんな感じでは、あるけど、」


「あるんじゃん、もっと素直になりなさいな」


 チラッと古田くんを見ると、あからさまに口を尖らせて静紅と蓮月くんを見ていた。なんかおもろい。


 というか静紅、このあからさまな古田くんの好意に気づいていない。こいつ、ほんと鈍感なんだよな。


 ふと古田くんの横を見ると、何故か宙くんもちょっと不機嫌そうな顔をしていた。


 ……え、まさか宙くんも静紅のことを?


 いや、ないな。確かに静紅と距離近いけど、静紅のこと意識してるとか、そういう素振りは一切ないし。

 きっと、まだ古田くんについて納得してないことがあるんだ。


 そしてそんなことより……古田くんの件についてのやることは終わったんだから、ここからは静紅の姉として、皆をもてなさなきゃね。


「ねぇ、皆にスイーツご馳走するよ! プリンとか。今私お菓子作りハマってるんだ〜」


「え! 氷華の手作り!? 食べる食べる!」


「やったープリン! ひょーちゃん神〜」


「わーいありがとお姉ちゃん」


 私は今機嫌がいい。


 なぜなら、静紅に取り巻いていた嫌なことが概ね消えたから。


 そして何より、静紅自身が楽しそうだから。

 氷華は霧夜を詮索するため、彼をリビングに連れ出した。


 張り詰める空気の中、急に霧夜が立ち上がった。そしてその瞬間、静紅の奏でるギターの音が聞こえ始める。


 霧夜は自分から謝罪し、氷華はそんな誠実さに免じて彼のことを許すことにした。そして、思わぬ事実が発覚する。


 霧夜が、静紅のことを好きだということに。


 果たして、蓮月もいるなか霧夜と静紅の関係はどうなるのか? 進展するのか?


 次回 「中等部組(5人)」


 読んでくださりありがとうございます。

 また前みたいなペースでぼちぼち投稿できそうです。これからもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
ここまで読みました。 静紅が少しずつ友達を増やして、自分の居場所を作っていく過程がすごく微笑ましかったです。 特に水萌・宙・蓮月との関係は、それぞれ距離の縮まり方が違うので、4人で騒いでいるだけの場面…
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