1-18 「真の和解へ② 〜疑いと応援歌〜」
「わー、しずっちの家相変わらず広すぎ〜」
「お邪魔しまーす、あ、氷華! やっほ〜」
「宙、あんま先輩にタメ口使うなよ」
「お、お邪魔します。その、静紅のお姉さん、俺、古田 霧夜です」
そして、来たる日曜日。いつもの呑気な3人と、すごく緊張した面持ちの古田が、家にやってきた。
「みんないらっしゃい! 雨降ってたでしょ、濡れてない?」
お姉ちゃんが一旦古田をスルーして、人数分のタオルを持ってくる。
「あ、ありがとうございます。……あ、あの、これ、土産です」
「…………えー、いいのに。ありがとうね」
古田が差し出した紙袋を、お姉ちゃんが笑顔で受け取った。
でもしずくは知ってる。これは作り笑顔。前日、お姉ちゃんに古田も遊ぶことについて報告した時、めちゃくちゃ警戒していた。
今、古田はチェックされている。
……古田、頑張れ、お姉ちゃんの犬の目は鋭いぞ。
「じゃあ、しずくの部屋行こっか」
「わーい、しずっちの部屋! 結構久しぶりな気がする〜」
「あ、水萌待って〜」
みいなが先に階段を駆け上がって行った。宙と蓮月と古田もついていく。
自分も行こうとしたら、お姉ちゃんに腕を掴まれた。
「静紅、いい? 絶対になんかされかけたら走って逃げてくるか、叫ぶこと。私後で貰ったお菓子と飲み物持って様子見にそっち行くから。いいね?」
みんなが遊びに来る前にも散々聞かされたことをまた繰り返されて、流石に顔をしかめる。
「不審者扱いじゃん。大丈夫だって、いざとなったら宙もいるし。自分の身くらい自分で守れるよ」
そう言っても、お姉ちゃんはまだ不安そうだ。
「しずっち、どしたん? はやくー」
「ごめん今行く!」
しずくはお姉ちゃんに目配せし、急いで部屋へ行くと、4人がカーペットに座っていた。
「……広くね」
古田がどきまぎしている。何だか始めてしずくの部屋に来た蓮月みたいな反応で面白い。
「それで何やる? やっぱアタシス? 5人でできたっしょ確か」
宙がコントローラーをいじったりして、早速格闘ゲーム、『アタックシスターズ』をやる準備をし始めた。
……何だか、いつもと空気が違う気がする。古田がいるからかな。蓮月はいつもより宙の近くにいる。古田が怖いんだろう。
この感じ嫌だな。いつもみたいにふざけ合って遊びたいのに。
「古田、コントローラー持ってきた?」
そう尋ねると、古田は表情を曇らせた。
「ごめん、持ってきてない」
コントローラーを忘れたごときで何でそんな罪悪感漂う顔をしてるんだ……
「あーまじ? あ、つののん持ってる?」
「え? あ……うん、持ってた」
「…………さんきゅ」
蓮月がぎこちなく古田にコントローラーを渡して、ぎこちなく古田が受け取った。何だこいつらもどかしいな。
でも、格闘ゲームやると本性見えるときあるから、それで仲を深められたら――
「あー! またジャスガかよ立花お前卑怯だろクソ! ぜってーぶっ殺すかんな」
「いいえルールの範囲内ですー、雑魚が吠えないでください雑魚が」
いや本性出すぎ怖いって。古田とみいな、元々仲悪いからお互い口悪くなってるって。
みいなと古田に速攻ボコされたしずく達は、遠い目で観戦中である。悲しい。
というか、古田がわりと上手いのムカつく。
「ういーうちの勝ちー! 惜しかったねぇ古田の割には頑張ったんじゃね?」
「クソが! ちょっと強えからって調子乗んなよカス!」
「おい古田口の悪さ出てるぞ」
宙の指摘に古田は黙ったけど、イライラを隠しきれていない。
うるさいし、やっぱり友達やめようかなぁ……
◆◇◆
「クソが! ちょっと強えからって調子乗んなよカス!」
私は今、お菓子と飲み物をのせたおぼんを持って、静紅の部屋の前で聞き耳を立てていた。
……いや、聞き耳を立てるまでもなく、私の犬耳には、クソうるさい声が聞こえくる。
この声の主は、古田 霧夜。私の可愛い可愛い静紅を、転校初日にいじめた男子の名前だ。
そして今、あろうことかそいつが私達の家に遊びに来て、2人きりではないといえど静紅の部屋にいる。
なんで家に遊びに来させるくらいに心を許しちゃったかなあ、静紅。謝罪してきたって言ってたけど、絶対先生とかに促されてしぶしぶしたとかでしょ。それに転校してきてすぐ、私が学食で彼と話をしようとしたら逃亡されたし。また気の弱い静紅をいじめたりするかもしれない。
……い、いくら高級ビスケットを手土産に持ってきても、私は絶対許さないからな。……ぜ、絶対。
こうなったら、姉として、徹底的に探ってやる!
「お菓子とジュース持ってきたよ〜。みんな白熱してるねぇ」
ノックして扉を開けると、5人は格闘ゲームをしていた。……思った通り、どこか険悪な雰囲気になっている。
「わーありがと氷華! 今俺たちアタシスしてたんだけど、氷華もやる?」
宙くんが笑顔で駆け寄って来て、私が持っていたおぼんを受け取ってくれる。
「ありがとう宙くん。うーん、私はいいかな、やることが残っちゃっててさ」
言いつつ、古田 霧夜の方に目をやると、彼は目線を泳がせながら私のことを見ていた。
というかこいつ、しれっと静紅の隣に座っている。静紅の隣は、いつも水萌ちゃんなのに。
あーもう限界。こそこそ様子見るの効率悪いし、バチバチに戦ってやる。
「…………古田くん、ちょっと話があるんだけど、リビングに来てくれる?」
私は平静を装って微笑みかけた。
一旦、静紅から離れろ。
「えっ、あ、はい、分かりました」
古田 霧夜はさっきの非にならないくらいに目を泳がせて、立ち上がった。
「お、お姉ちゃん」
「静紅はいいから遊んでな。ごめんね皆、すぐ終わるから」
私は彼が部屋から出たのを確認して、ドアを閉めた。
◆◇◆
「ひょーちゃん、古田に話があるって一体なんだろーね」
お姉ちゃんが古田を連れて部屋から出ていった直後、みいながそう呟いた。
「…………分かるだろ。ほら、氷華さん、古田が桐生に何したか知ってんだし」
蓮月が気まずそうに顔を逸らしながら言う。本当に、その通りなんだよね。
「ワンチャンあいつ出禁になるんじゃね」
宙がどうでもよさげにそっぽを向いて呟き、しずくは焦った。
だって、せっかくちゃんと友達になれるチャンスなのに、お姉ちゃんの判断で今後絡めなくなったら困る。
それにしても、お姉ちゃんはかなりキレていた。長年一緒にいれば分かる。……ちゃんと説得したはずなんだけどなぁ……。
「てかさ、最近古田おかしくね? あいつ今まで散々色々やらかしてきたのに、しずっちの件に関しては反省して謝ったり、なんなら遊びに来たりしてさ。なんかあるよ絶対」
みいながずいっと顔を近づけてくる。確かに、前々から何でしずくにそういう態度を取ってくるのかが不思議だった。
「俺も思った。しかも、杉本と西田と縁切ったらしいぜあいつ」
「杉本と西田?」
宙の言葉に首を傾げると、今度は宙がずいっと顔を近づけてきた
「ほら、古田と一緒に静紅に絡んでた2人だよ」
あの取り巻き2人のことか。言われてみれば、最近古田は1人で過ごしていた気がする。
「内申とか気にしだしたんじゃない」
「ちょっとつののん、あいつが内申なんか気にすると思う?」
「……確かに」
本当に何でだろう。もしかしてあれは、反省しているフリ? でも、そうは見えなかった。
「…………とにかく、長引くようだったらしずくが様子見に行ってくるよ。そうだ、2人が話してる間さ、ギター弾こうか」
しずくの提案に、3人は再び顔を明るくする。
「静紅のギター久しぶり! 水萌、今度も動画撮っといて!」
「もち! てかしずっち弾き語りしてよ」
「無茶ぶりするなよ立花。桐生、俺は桐生が弾いてくれたら何でもいいから」
3人の言葉に微笑みながら、ふぅ、とひとつ息を吐く。
古田、頑張って。
友達としてまだ一緒にいられるように。
しずくは、ここで弾いているから。
とうとうと霧夜と遊ぶ日がやってきて、少し緊張する静紅。
やはりいつもと違う、そして元々敵対関係にあった霧夜がいることにより、いつもの雰囲気ではなく、そのことを静紅は残念に思った。
しかも、霧夜の様子を見ることの限界に達した氷華が、とうとう霧夜を呼び出してしまう。
静紅はそのことに不安を抱き、まだ霧夜と仲良くし続けられるよう、ギターを弾いて霧夜を応援すると決意するのだった。
果たして、霧夜は氷華に許されるのか? そして、静紅と友達になることを認めてもらえるのか?
次回 「真の和解へ③ 〜ギターの音色と意外な理由〜」




