表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓、元私のお姉ちゃんへ。  作者: 叶 梨鈴
日常編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/16

1-14 「和解」

「で、ここの文法の活用は……って、おい桐生聞いてるか?」

「……ぷえ〜」

「なんで鹿の鳴き声?」

「がんばって静紅!」


 いつめんで電話した翌日の月曜の放課後、しずくは教室で蓮月と宙に国語の勉強を教えてもらっていた。

 と言っても宙は国語が得意じゃないからほぼ眺めてるだけだけど。


「なら、この文が命令形、それは分かるよな?」

「それはわかる、何何しろってやつでしょ」

「じゃあこの文が連用形ってことは」

「あーもうそれは分かんない!」


 で、何故国語を教えてもらってるのかと言うと、この前の定期テストの国語の結果が散々だったから。


 多分今蓮月がすごい分かりやすく教えてくれてるんだけど、結構マジで分からん。これは蓮月の説明以前に、しずくの理解力と言うか……ま、まぁ色々こっちに非があるわけで。


 ほんと、Why Japanese People って感じ。


「ていうか、静紅って英語ができるから文系だと思ってたけど、なんでそんな国語は苦手なの? この前のテスト英語は96点くらい取ってたじゃん」


 宙の質問に、胸がちくっとした。


「それは……ただ単に英語が得意なだけだよ」


 当たり前。当たり前に、英語ができるだけ。


「……あー、しずく疲れちゃった。なんか飲み物自販機で買ってくるよ、2人の分も勉強のお礼に奢るから、何がいい?」

「いいの!? じゃ、俺はコーラ!」

「そんないいのに……とりあえずいちごオレで」

「好きだねえ。じゃ、すぐ戻ってくるから」


 しずくは二人にひらっと手を振って、教室から出た。


 自販機がある学食に着き、2人に頼まれた飲み物を購入する。


 自分のはどれにしようかな、と自販機のラインナップを眺めて迷っている時だった。


「……おい!」


 その声と共に後ろから腕をガシッと掴まれ、しずくはびっくりして持っていた飲み物を落とした。


 聞き覚えのある、嫌な声。


「……や、やめて、なんで、」


 しずくの腕を掴んだのは他でもない、転校初日に恐喝してこようとした張本人、古田 霧夜だった。


「静紅………さん」

「は、離してっ!」


 しずくは慌てて古田の手を振り払い、飲み物を落としたまま蓮月と宙のいる教室に向かって走り出した。


「ちがっ……! 待って! 謝りたいんだよ!」


 ………謝り、たい?


 思わぬ古田の言葉に、しずくは足を止める。


 振り返ると、そこにはしずくが落とした飲み物を拾い、立ち尽くしている古田の姿があった。


「……これ、落としたやつ、」


 古田は少し離れたしずくに向かって、飲み物を差し出してきた。


 恐る恐る、一歩ずつ古田に近づいていく。


 少し震えた手で飲み物を受け取ると、古田はあからさまにほっとした表情を浮かべた。


「奢るわ、まだなんか買うんだろ? ……何がいい」

「…………メロンソーダ」


 分かった、と言って古田は自販機のメロンソーダのボタンを押した。しずくはそれをちょっと後ずさって見る。


「ほらよ」


 メロンソーダを受け取り、お礼を言おうか迷っていると、古田はもう1本メロンソーダを購入した。


「……ちょっと話さないか、空いてるし」


 古田はそう言って学食のテーブル席に座った。

 確かに学食にはしずく達以外誰もいない。


 しずくは宙と蓮月がいる教室の方をちらっと見て、何かされかけたらすぐそこに逃げられるよう脳内シュミレーションしてから、古田の向かいに座った。


 飲み物をテーブルに置き、古田と向き合う。

 古田は自分のメロンソーダを片手でぎゅっと握っている。


「……そのコーラといちごオレも、自分で飲むの?」

「いや友達の」

「そうなんだ」


 沈黙が流れる。

 

「……ちなみに、その友達って誰?」


 中々本題に切り出したくないのか、古田は余計な質問ばかりしてくる。


「宙と蓮月。……君が嫌いな」


 あ、思わずちょっと嫌味になった。この人を刺激させなきゃいいけど……


 けどそんなしずくの不安とは裏腹に、古田は申し訳なさそうに俯いた。


「その……その件も含めて、本当に悪かった」

「…」


 思ったより素直に謝罪してきて、しずくは面食らう。


「ほんとは、ほんとはあんなことするつもり無かったんだ」

「……じゃあ、なんで」

「……俺、あの時、静紅さんが昼飯誘ってくれて嬉しかった。でもそれで調子乗った」


 「静紅さん」、か。あの日は、「おい転校生」だなんて呼ばれたけど。


「冗談のつもりだったんだ。奢れだなんて。……でも、俺と一緒にいたあの2人が本気にして」


 あの2人とは、古田と一緒に恐喝してきて、更には後日みいな達を馬鹿にしてしずくが怒った、あの取り巻き2人のことだろう。


「俺、静紅さんが転校してくる前も、その、あの二人とああいう性格の悪いことしてたからさ」

「……その人達のせいにするの」

「ち、違う! 俺があんなふざけたこと言ったから……そのせいで……それに、俺らが気に入ってなかった立花達がお前……静紅さんのこと助けようとしたから、ムキになって……ほんとに、ごめん」


 表情と声色からして、どうやら古田は本当に反省しているらしい。

 

 けど、まだそれだけじゃ許せない。


「……そのことだけど、みいな達がしずくを助けてくれた時、古田さんみいな達のこと馬鹿にしたよね。特に蓮月に、イキってるなんて言ってたよね。……わたし覚えてるから」

「……」


 古田がさっきの饒舌が嘘のように押し黙る。


「…………静紅さんは、俺らがきっかけで蓮月と宙…あの三人と仲良くなったのか?」

「そうだけど」


 急に何を言い出すんだ。まさかこの状況で、みいな達と仲良くならない方がいいとか言うの?


「……あー、俺、マジで余計なことしたわ」


 けど古田は、そう言いながら諦めたように笑った。


「……ごめん。静紅さんの友達を馬鹿にしたことも、謝る」


 古田が深々と頭を下げた。


 ……そういえば、この前古田がしずくに近づこうとしてきたのも、しずくに謝罪するためだったのかな。


 ……それはちょっと、申し訳ないことしたな。

 

「…………じゃあ、うん、わたしのことは許すよ」

「……いいのか?」

「でも……みいなと蓮月と宙にも、ちゃんと謝って。きっと前からも三人に酷いこと言ってたりしてたんでしょ。じゃないとだめ」

「……分かった」

「あっちに宙と蓮月がいるから……行こう」

「……え、あ、お、おう」


 しずくは一口も飲んでないメロンソーダと宙と蓮月の飲み物を持って立ち上がった。

 蓮月と宙のいる教室に向かって歩くと、古田がついてくる。


「その、それ持つ、3本持つの大変だろ」

「…………ありがと」


 古田にレディーファーストされるなんて、変な気分。

 宙と蓮月の分の飲み物を預けると、古田はちょっと微笑んだ。……気がした。


「今日古田さんの部活ないの」

「月曜はない」


ふーん、としずくはほぼ古田に聞こえないような声で相槌を打った。この人との雑談は慣れない。


「……古田さんはさ、前から性格悪かったんだよね」

「うっ……まぁ、そうなんだけど。許してくれよ……」


 立ち止まって尋ねると、古田は気まずそうに目線を逸らした。


「いや、違くて。……それなのに、なんでわたしには謝ろうと思ったの? そもそも、なんでわたしと仲良くなりたかったの」

「えっ!? いや、それは……」


 古田が口ごもった。言いたくないんならいいや、としずくはまた歩き出す。


「…………かったから」

「え? なんて?」

「あー! やっぱ何でもねぇよ、とっとと行こうぜ」


 古田がしずくを追い越して行く。


「調子戻ってきたね」

「……るせ〜」


 少し歩いて教室に辿り着き、しずくは扉を開けた。


「お、静紅! 遅かった、な……」


 しずくの後ろにいる古田を見た瞬間、宙の目付きが変わり、蓮月がバッと宙の後ろに隠れた。


「……おい、お前……静紅に何した」


 宙がガタっと椅子から立ち上がり、身震いするような声で言う。


 う、と後ろから古田の声が聞こえた。無理もない、だって今の宙はバチバチに警戒激怖モードだから。


「聞いてんのか、」

「すみませんでした!!」

「「…………は?」」


 古田がバッと頭を下げた。宙と蓮月は古田の行動に固まっている。


「俺、前から二人に酷いことした。本当に悪かった。……この通りだ、許してくれ」

「「……」」

「どういう心境の変化か分からないけど……さっきしずくにも今までのこと謝罪してくれて。宙達に謝るって条件で許すことにしたんだよ。……古田さんえらい。許そう。2人もほら、許してあげて」


 相変わらず固まっている2人に、古田の肩をぽんぽんしながら経緯を説明した。


「……いや本当にどういう心境の変化なんだよ」


 蓮月が宙の後ろに隠れている状態で口を開いた。


「その、津野……さんにも、色々酷いこと言ったりしたよな、悪かった」

「え、あ……は、はい……そ、宙、どうする」


 蓮月はまだ怯えたような表情で宙の顔を見た。

 宙はまだ古田を睨んでいる。


「……静紅、こいつ本当に反省してんの?」

「うん、多分そう」

「た、多分って……してる、俺ほんとに星宮さんにも悪いと思ってるから!」

「……星宮さん? ……前まで呼び捨てにして悪口言ってたのに?」


 ぷっと宙が吹き出した。


「……分かった、静紅と蓮月が許すなら俺も許す」

「ほ、本当か」

「まぁ。……で、蓮月は許す?」

「え? ……あー……じゃあ、宙が許すんなら」


 古田の緊張が緩んだ感じがした。


「じゃあ、仲直りの飲み会しよ。……ほら、乾杯」


 しずくがメロンソーダを持ち上げて促すと、3人はそれぞれの飲み物をぎこちなくくっつけた。


 その後は、話が弾んだ、とまではいかなかったけど、4人で少し世間話をした。


 その話で、古田が取り巻き2人と縁を切っていたことが分かった。どうりで、最近古田が1人で過ごしていたわけだ。


 そしてちゃんとみいなにも謝ることを古田と約束し、しずく達は帰ることになった。


「じゃあ静紅、またな! ……あと古田も」

「また明日。……あ、宙待って」


 帰る方向が同じの宙と蓮月は、二人仲良く帰っていった。


「……静紅さん、方向同じだよな。……一緒に帰らないか?」

「うん」


 まさか古田と二人で帰ることになるとは、1ヶ月前は思いもしなかった。

 だいぶ気まずいけど。


「……静紅さん変わったよな」


 古田が俯きながら話しかけてきた。


「そう?」

「転校してきた頃はオドオドしてたじゃんか」

「……みいな達と友達になったから、かな? あの人達と一緒に居るうちに、なんか自信がついてる気がする」


 前からあの三人の前では自分を出せることに気づいていた。なんかこう、遠慮なんかしなくていい、みたいな雰囲気がある。そんな人達はお姉ちゃん以来だった。


「……そんなにあいつらは、静紅さんに影響を与えたのか」

「いいもんだよ、友達は。古田さんもあんな取り巻きとなんかつるんでないで、そういう人と過ごしたら変わるよ」

「……じゃあさ」


 古田が急に立ち止まった。

 真剣な顔でこっちを見てくる。



「友達に、なってくれないか」



「………とも、だち?」

「そう。……俺も変わりたいんだ」

「……ぶっ」


 堪えきれずに、しずくは大笑いした。


「ちょ、そんな笑うことないだろ!」

「だ、だって……会った頃はあんな見下した顔でしずくのこと見てたのに……今は、友達になりたいとか……あーお腹痛い」

「だっ、悪かったって! しょうがねぇだろ!」

「ふ、ふふ……うん、分かった。なろう、友達」

「い、いいのか?」

「うん。……でも、しずくが最初学食誘った時に君が素直になってたら、もっと早くに友達になれてたかもしれなかったけどね」

「う、ごめんて……」

「ま、いいや。後で連絡先交換しよ。じゃ、しずくこっちだから。じゃあね、古田!」

「こ、こだ?」

「……友達に苗字にさん付けは変じゃない?」

「……そうだな、じゃあな静紅!」


 そこは桐生じゃないんかい、とツッコんで、しずく達は笑って別れた。


 今日増えた意外な友達、古田 霧夜。


 しずくはお姉ちゃんにこのことを報告しよう、と軽い足取りで家に向かうのだった。



 宙と蓮月に勉強を教えてもらっていた放課後、急に古田に話し掛けられ、警戒する静紅。

 しかしその話の内容は、静紅に謝罪したいということだった。


 態度から古田は本気だということが分かり、静紅は水萌と宙と蓮月にも謝罪するという条件で許すことにする。


 その後無事宙と蓮月に許され、帰り道に静紅は古田に 「友達になってくれないか」 と言われー…


 静紅にできた思いがけない友達、古田 霧夜。


 転校初日の因縁に、終止符が打たれるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ