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拝啓、元私のお姉ちゃんへ。  作者: 叶 梨鈴
日常編

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16/16

1-15 「恋愛対象外」

「蓮月〜、お待たせ。早いねぇ、待った?」

「ん、大丈夫、待ってない」


 俺の誕生日から丁度1ヶ月が経った6月12日日曜の昼、俺は桐生と大型ショッピングモールのフードコートで落ち合っていた。

 俺は約束の5分前くらいに着いて、桐生はちょうどぴったし集合時間に来た。


 異性と二人で会うのなんて始めてだったから何を着ていけばいいのか分からず、今日の俺の服装は紺色のニット生地の半袖シャツにデニムのズボンというありふれたファッションだ。


 桐生はズボンに水色のパーカーというラフな格好で、俺はそれに何だか安心する。


「ね、それで用が済んだ後なんだけど、せっかくだしぶらぶらしようよ。ゲーセンとか!」

「別にいいよ」


 やけに桐生の目が輝いている。そんな楽しみだったのか、この人。


「それで何食べる? ……あっ、パフェある!」

「それは昼飯の後な、ほら早く決めよ」


 昼飯をここで食べる約束で、俺達はフードコート内を見て回った。


「あ、カレー屋。ナンだってさ、俺あれにする」

「何だって?」

「ナン、だよ。桐生は?」

「んーじゃあしずくもナン食べる」


 2人で同じ物を注文し、呼び出しベルを受け取って俺達は近くの2人席に座った。


「じゃ、食べ終わってからでいいよね、例のアレ!」

「そんな意味深に言わなくていいよ分かってるから。俺の誕生日プレゼントだろ。うん、いいよ」


 ロマンがないなぁ、と桐生は頬杖をついて言った。


 そう、今日は桐生が俺に遅めの誕生日プレゼントを渡したいとのことで、2人でここに来た。

 

 俺の誕生日パーティの時に桐生が飯代(宙達の分合わせて)を奢ってくれたから、今更要らないと言ったんだけど、もう用意したしあげたいと強引に押し切られた。


 だから今日はデートなんかじゃない。決して。

 もう一度言おう、今日は決してデートではない。


「ふふ、きっと蓮月喜ぶよ。また泣かせちゃうかも」

「それ掘り返すなよ。もう泣かねぇよ」

「なかぬなら なかせてみせよう つのはづき」

「豊臣秀吉やめて。何気に字数合ってんのなんなの」


 くだらない会話をして笑っていると、呼び出しベルが鳴った。

 食事を取って席に戻り、昼飯を食べ始める。


「んっ、おいしー。お姉ちゃんにも教えないと」


 桐生が俺には目もくれず、美味しそうにナンを頬張っている。


「あ、そうそうお姉ちゃんといえば……しずくと蓮月のことカップルとして見てるらしいんだよね」

「んぐっ!?」


 突然の桐生の爆弾発言に、俺は口に含んでいる水を吹き出しそうになった。

 

「……大丈夫? てかそんな驚く?」


 咳き込んでいる俺を、桐生が首を傾げて見てくる。


「いや驚くだろ! な、なんで桐生さんはそんなこと言ってんだよ」

「知らないよ。なんかあの人、しずく達の距離が近くなってる〜だとか、仲が良い〜だとか……今日だって、蓮月と出かけてくるって言ったら、デートだデートだ! って……恋愛脳なんでしょ、多分」


 桐生が本当に迷惑そうな顔をして言った。


 ……確かに、少し思い当たる節はある。


 4月の頃、なんとなく桐生と教室で2人になった時があった。

 その時は桐生が気まぐれで眠ってしまい、何故か俺も眠くなって2人で寝ていたところを桐生さんと中鶴さんに見られたことがある。


「……いやとんだ勘違いすぎないか」

「そうなんだよ。……なんかさ、他のいやーな女子達にも言われたことあったよね。デキてる、なんて」

「ああ、宙が助けてくれたやつね。……いい迷惑だよほんと」

「……まぁでも、そういう風に見られるのは仕方がないよ。だって、しずくと蓮月は親友なんだからね! 距離が近く見えるのも当たり前よ」


 桐生がふふんと胸を叩いて言った。


「……親友? まだ会って2ヶ月くらいだぞ」

「年月は関係ないって。自分達が親友だと思えば親友なのさ。もちろんみいなと宙もね!」

「俺思ってないけど」

「いや酷い! お世辞でも親友って言ってよ!」


 ……にしても、本当にこの人俺のこと意識してないよな。二人きりなのに。


 俺らが恋人だと思われてる、ということに照れる素振りなんてひとつもないし。

 桐生が言ったように、俺のことは「親友」としか見ていないんだろう。

 それに、宙のことも。


 ……本当に、助かる。


 その後はなんとなくゲームとかの話題に移り変わり、昼食を食べ終えた。


「それで、プレゼントか?」

「んー……なんかそれは最後の楽しみに取っておいた方が良くない? 先にさ、ぶらぶらしようよ」


 食器を店に戻してテーブルを拭いてから切り出すと、桐生にそう提案された。


「分かった。じゃあどこ行く? 」

「ゲーセン! ゲーセン行こ!」


 桐生が俺の周りをぴょんぴょん跳ねた。

 やっぱり今日の桐生はやけにテンションが高い。


 少し歩いてゲーセンに着くと、桐生は目を輝かせながら歩き回り、クレーンゲームをしてことごとく失敗した。

 俺が代わりに取ってやると、桐生は感心して俺の腕を褒め、コツを訊いてきた。

 コツを教えると桐生もそこそこ取れるようになり、大袈裟に喜んでいた。


 その後の音ゲーでは、俺は上手くないものの桐生はかなり正確に音を合わせていてちょっと驚いた。ギターをやってるからかな、と桐生はドヤっとしながら言っていた。

 

「ね、プリクラ! 撮ろうよ、記念に!」


 2時間ほど没入して遊んだ後、桐生が近くのプリクラ機を指さして言った。


「えー……嫌」

「何でよ、いいじゃんか」

「どんな顔すればいいのか分かんないし」


 昔から写真を撮るのは好きだけど、自分が写るのにはなんとなく抵抗があった。


「大丈夫大丈夫、どうせ加工されるんだから」

「あ、おいちょっと」


 俺は強引に腕をひかれてプリクラ機の中に連れていかれ、俺はしょうがなく桐生に付き合うことになった。

 

 プリクラなんて久しぶりだ。この前、今と同じように宙に強引に撮らされたんだっけ。


 音声の指示に従ってライン沿いに立ち、少し髪を整える。


「撮ってみたかったんだぁ、友達と。今までお姉ちゃんとしか撮ったことなくてさ!」


 桐生が前髪を整えながら言った。


 そういえば桐生は、前の学校では友達がいなかったと言っていたことがあった。桐生はいつめん4人組で過ごしている時は明るいけど、それ以外でだと俺と同じように内気で、そこまで喋らない。


 尚更、桐生が俺に心を開いてくれている理由が分からなかった。俺はただ、偶然ちょっと助けただけで。


 ……俺はもっと、最低な人間なのに。


「ちょっと蓮月、ぼーっとしてないでポーズ決めてよ」

「え、あ、ごめん」


 隣を見ると、桐生が小顔ポーズをしていた。画面にもそうしろと指示が書いてある。


 ……え、これ俺もそのポーズしないといけない感じ?


 カウントダウンが始まり、俺は慌てて桐生の真似をした。


「ちょっとー、目線外れてるって! てか何でそんな真顔なの……?」

「俺写真苦手だし」

「チッ」

「舌打ちすんなよ」


 そんな調子で何枚か撮り、最後の撮影になった。

 ポーズ指定は……うわ最悪、二人で腕組み……


 流石にやらないよな、と桐生をチラッと見ると、なんと桐生は当然のように腕をからめてきた。


「はっ!? え、ちょ、やんの?」

「え? だってそうしろって書いてあるじゃん」

「そういう問題じゃなくて……」


 まじかこの人。前からスキンシップ激しいとは思っていたけど、ちょっと限度が…


 腕を振り払うことなんてできず、カウントダウンが始まってしまった。


「……ザビエルって、ハゲてるんじゃなくて当時の髪型なんだって」

「ブフっ!?」


 シャッターが切られる直前、桐生が突然そんなことを言い出して、俺は思わず吹き出した。


「あ、やっと笑った。やっぱり男子ってこういうくだらない話が好きなんだね」

「ちょっと悔しいわ……」


 桐生はふふんと鼻を鳴らして、絡めていた俺の腕を解いた。


 ……まぁ、悪くはない、かも。


 プリクラ機から出て落書きコーナーの椅子に座ると、桐生がふんふん鼻歌を歌いながら落書きを始めた。


「俺外で待ってるから」

「えー蓮月もやろうよ」

「何書けばいいのか分かんないし」

「じゃあ蓮月は荷物見張り係してて、落書きはこっちに任せな!」


 了解、とプリクラ機の外に出て時間を確認すると今は14時半。桐生の門限は18時と言っていたから、だいぶ時間が余っている。


 次はどこに行くかな、とスマホをいじっていた時、別のプリクラ機からクラスメートの女子2人が出てくるのが見えて、俺はとっさに桐生のいる落書きコーナーに逃げ込んだ。


「ん? どうしたの蓮月。……ああ、もうちょっとで終わるよ」


 俺は桐生の隣に座った。


「……俺もやる」

「……え、 いいの? じゃあ、この最後の1枚やって!」


 その最後の1枚は、俺と桐生が腕を組んでいる写真だ。桐生が変なことを言ってきたせいで、この写真だけ俺が笑っている。


 というかこの写真含め全部の写真が、さっき桐生が言った通り加工がすごいことになっている。もはや原型を留めてないだろこれ。


「ほらカウントダウン始まってるよ、はやく」


 他の写真の落書きを終えた桐生が俺を急かしてくる。


「はいはい……てか、なるべく静かな声で話して」

「なんで?」

「……なんでも」


 クラスメートの女子にバレるから、とは何となく言えず、桐生は首を傾げた。


 もし、桐生が俺と2人でいるところを見られたら、また奴らに変な噂を流される。


 ……桐生を、俺と同じようにさせたくない。


「こんなもんでいいか」

「いやっ、ちょっと待った! 派手さが足りない!」


 カウントダウン終了20秒前に落書きを終えようとしたら、桐生が俺の持っていた落書き用ペンを奪ってきた。


「ちょ、もう時間ないって」


 俺らの周りを適当なスタンプとかで埋めていた俺の落書きを、桐生がどんどん描き足していく。


「あ、蓮月は見ないでね」

「無理があるだろ」


 仕方なく後ろを向いて目を瞑ると、くく、と桐生の笑い声がした。


「何?」

「いや、ほんとに見ないでくれるとは思わなくて。…蓮月って優しいよね」

「……」


 無視して黙っていると桐生が落書きを終えたらしく、取り出し口で待っててね、と機械音声が流れた。


 恐る恐るプリ機から顔を出すと、もうクラスメートの女子達は見当たらない。……危ねぇ。


「それで何書いたの」

「ふふ、見てからのお楽しみよ」


 桐生が取り出し口の前にしゃがんだ。

 

「お、出てきた! 蓮月クン、どれがいい?」

「別にどれでも」

「じゃあ君にはこれを授けよう」


 桐生が渡してきたのは、最初に撮った小顔ポーズのやつと、最後に撮った腕組みの写真だった。


「……うわぁ」


 俺はその写真、というより落書きを見て思わず引いた。


「ね、かわいいでしょ、犬耳!」


 腕組みの写真の俺達の頭に、猫耳……

あ、犬耳? が、描かれていた。

 そして写真の下には、「ずっとも」と水色で書かれている。


「……嫌だぁ」

「なっ、失礼な。いいじゃんかわいくて!」

「てかなんで猫耳じゃなくて犬なの」

「……生えてたら、いいなって。なんとなく! 可愛いじゃん! 」


 犬が好きとかじゃなくて、自分が犬になりたいってこと……? ちょっと意味分かんないな。


「しずく犬派なんだよね〜」

「何だ戦争するか?」

「うわ猫派だぁ」


 ケラケラ笑っている桐生の横で、俺はもう1回写真を見た。


 俺が笑っている。桐生と腕を組んで。


 そして桐生も最高な笑顔で、なんならウインクも決めていた。顔が整ってるから様になっている。


 ……桐生は、何にも知らないから。


 でも、それでも、


「悪くない、かな」


 俺は無意識にそうこぼしていた。


「なんか言った?」

「いや別に」

「うんうん、悪くないでしょ。いい感じに2人とも笑ってるし」

「ちょ……聞こえてたなら聞き返すなよ」


 恥ずかしくなって顔を背けると、照れてる〜と桐生が茶化してきた。……ほんと、ムカつくな。


 ……でも。


 桐生はどんなにクレーンゲームで失敗しようと、メダルゲームで負けても、最高に楽しそうで。

 俺なんかと、なんの躊躇いもなく腕なんか組んじゃって。


 本当に、本当に楽しそうに笑って。


 そんな桐生に、何だか俺の気分まで満たされていくような気がした。


 やっぱり、桐生は変わっている。

 ゲーセンなんかでこんなはしゃいで。一緒に居るのが、俺なのに。

 立花とか、宙とかと、同じように。本当に、同じように俺に接して。

 ……って、そんなこと言ったらまた怒られそうだけど。


「蓮月、何で笑ってんの?」

「……え、俺笑ってた?」

「無意識だったの……?」


 会話なしに笑ってるなんて、普通におかしいか。


「……とりあえず、次どこ行く? あ、桐生がさっき食べたがってたクレープでも―」


 俺がそこまで言いかけた時、ちょん、と桐生が俺の指に触れてきた。


「蓮月」

「……どうしたの」


 桐生が俺を真っ直ぐ見つめて、そして尋ねてきた。


「いま、楽しい?」

「楽しい」


 桐生の素朴な質問に即答した自分に驚いた。……あの日から、女子と関わってきて楽しいと感じたのは宙も一緒に居る時の立花とだけだったのに。


 俺が素直にそんなことを言うとは思わなかったのか、桐生も一瞬目を丸くして、でもすぐに目を細めて笑った。


「ふふ、女友達も悪くないでしょ」


 そう言って桐生が腕を絡めてくる。


「そうかも。……いややっぱそうじゃないわ。離れて」

「親友になんてこと言うのよ」

「あのなぁ……」


 このスキンシップには慣れるしかないのか。 それは嫌すぎるんだけど……傍から見たら普通にカップルだろこれ。


「じゃ、クレープ食べに行こー!」

「分かったから離して」

「やだ、なんか逃げられそうだから」

「逃げないわ」


 なんとか鞄からペットボトルを出すという自然な理由で桐生の腕をほどくことに成功。

助かった。


「こんな美少女と腕組むチャンスを自ら逃すなんて……変わってるね」


 俺と腕組みたがるあんたの方が変わってるわ、と言う代わりに、俺は溜息をつく。


「あっでた。溜息は周りの人を不幸にするんだよ。……ってお姉ちゃんが言ってたよ」

「迷信だろそれ」


 ほんと、桐生ってやつは……まぁ、こういうのもたまには……本当にたまには、ありっちゃあり、か。


 俺達は、雑談しながらクレープ店に向かうのだった。



◆◇◆



「ただいま」


 リビングで課題をしていると、その声と共にガチャリと玄関が開いた。


「……おかえり。あんた、頭でも打った?」

「なんで??」


 現在時刻17時半。なんと静紅が、始めて門限より30分も早く家に帰ってきた。


 しかも、男子とのデートで。


「こんな歩き回ったの久々だよ、あー疲れた」


 そう言って静紅はボフっとうつ伏せでソファーに倒れ込んだ。


「楽しかった? 蓮月くんとのデートは」

「だからぁ、デートじゃないって! プレゼントだよ誕生日プレゼント! 渡すためだもん!」


 ニヤニヤしながら尋ねると、静紅は顔だけがばっとこっちを向けて怒った。


 そう。静紅は今日、蓮月くんとデート(本人は違うと言ってるけど)をしてきたのだ。


「あのねぇ静紅、理由はどうあれ、2人で出かけるイコール、デートってことなの! それに、プレゼント渡すだけでこんな時間かかるわけ?」

「だってせっかく長い時間があるんだから楽しまないともったいないじゃん、そりゃ遊ぶもん」


 私は中々素直にならない静紅に少々苛立っていた。早くくっついちゃえばいいのに。焦れったい。


 そもそも異性2人で出かけるってのは、やっぱりお互い気がないと普通しない。


「まぁそう見えるのも仕方ないか、しずくと蓮月は親友だもの!」


 静紅が誇らしげに胸を叩きながら言った。


 ……親友?


 前の学校では、色々あって友達が1人もできなかった静紅に、親友? たったの2ヶ月で?


 水萌ちゃんや宙くんともそうだけど、静紅にしては彼らと親睦を深めるのが早すぎる。

 ……なんでだろう。


「……それで、蓮月くんには何を渡したの?変なセンスのないやつ渡してないでしょうね?」


 一旦蓮月くんとのことを詮索するのは諦めて尋ねると、静紅はぷくっと頬を膨らませた。


「失礼な。ちゃーんとしたやつをあげたよ」

「本当に?」


 不安で再度確認すると、静紅は得意げな顔で人差し指を立てた。


「ミラーレス一眼カメラだよ」

「カメラ? なんでミラーレスにしたの?」


 ミラーレスカメラは高感度耐性があって暗闇でもピントを合わせやすいカメラだ。確かに便利だけど、普通の一眼レフとかで良かったんじゃ?


「蓮月がしずくと一緒の天文学部なのは知ってるでしょ? 蓮月、望遠鏡越しに月とか空の写真を撮るのが好きで、カメラ持ってなかったらしいからあげたの」

「おお! 静紅にしてはいいの選んだんじゃない?」

「しずくにしてはって……失礼ね」


 静紅はハッキリ言ってセンスが壊滅的で、本当は静紅のプレゼント選びを手伝いたかったんだけど、これくらい自分で決めれる、と一蹴されてしまった。


「蓮月くん喜んでくれた?」

「そりゃあもう! すごいびっくりしてたよ。てか蓮月がさ、プレゼント渡す時にまさかいちごオレじゃないよなって結構マジな顔で言ってきてさ、ほんと面白い」


 うんうん、いい惚気話だ。


 だがしかし! 私と諒のことは静紅にバレてはいけない。……この前ちょっと危なかったけど。うん、バレてない、多分。


「そういえば静紅、課題終わってないんでしょ、一緒にやるよ!」 

「 やだ、疲れた、ねる」


 静紅がソファーのクッションに顔を埋める。


「ちょっと! 明日辛いの静紅でしょ」


 せっかく静紅早起きしてたのに、準備以外の時間はゲームに当てていた。さっさとやればよかったものを。


「……今回の課題、国語なんだよ」


 国語、と聞いて私は一瞬黙った。


「……私が教えてあげるから」

「……」


 静紅がワークと筆記用具を持って私の隣に座り、私は静紅に教え始めた。


「それでこの漢字は、なんて読むか分かる?」

「……おとうと?」

「違う、とむらうって読むの。確かに似てるけど」


 昔…静紅が小学1年生の時から、私はこうやって勉強……主に国語を教え続けてきた。

 静紅は、国語がいちばん苦手だから。


「それで、ここの部首がこうなって、」

「お姉ちゃん」


 急に静紅が私の説明を遮ってきた。


「……ごめんなさい」


 静紅が俯いた。

 昔から、こうだった。

 いつも、国語を教えてると、静紅は謝ってくる。


「……何度も言うけど、それはあんたが言うことじゃないから。静紅は悪くない」


 いや、国語だけじゃない。昔は私がご飯を静紅に作ったときも……


「プリクラ撮ったの」

「……え?」

「蓮月と」


 急に静紅が突拍子もないことを言い出して私は面食らう。このタイミングで、惚気?


「しずくが落書きをしたの」

「……うん」


 けど静紅は真顔だった。


「しずくは、」


 言いかけて、静紅は口をつぐむ。口にしようか迷っているように見えた。


「……せめて、お姉ちゃんと」


 (同じならよかったのに)


 静紅は口にしなかったけど、私は聞こえた。

 ……いや、聞こえちゃった、の方が正しいか。


 そう、私には分かる。ときどき、聞こえる。

 

 静紅の声が。

 静紅の声()()が。


「………いいんだよ、静紅は、静紅でいていい。私に似る必要なんてない」


 今まで、何度もそう言い聞かせてきた。


「……そうだね」


 静紅のシャーペンを持つ手が再び動き始める。


「私がずっと静紅の傍にいるから」


 昔静紅と約束したこと。

 私が自分で、決めたこと。


 あの人達の代わりに、私が……

 私があなたを守るから。 






 静紅と2人きりでショッピングモールに出かけた蓮月。静紅から遅めの誕生日プレゼントをもらう、という予定だけのはずだったが、静紅の要望で先に遊ぶことになった。


 ゲーセンで静紅と過ごす中で、蓮月は静紅に対して、なぜ自分と一緒に居てくれるのか、なぜこんなに楽しそうなのかと疑問を感じる。


 しかしそんな静紅に、蓮月の心は解されていった。


 相手に対して特別な感情なんてない。


 あくまで「親友」。


 そんな2人が、仲を深めていく。

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