1-13 「それぞれの記念日」
「待ちに待ったダブルデートだー!」
ぽかぽかと暖かいお天気の下、私達は並んで歩いていた。
夏南が子供のようにはしゃいでいる。
まぁ、私も内心めっっちゃわくわくしてるけどね。
何故なら今日はこの4人で遊びに、別名、「ダブルデート」と呼ばれるものを、今私達はしているから!
今は水族館に向かっている最中。
にしても、諒めっちゃオシャレしてる。
普通にかっこいいんだが?
「氷華、そのワンピース可愛いぞ」
「え、ありがと。諒もすごくかっこいいよ」
は??? 何??? 好き。
「イチャイチャしてる〜! おい颯斗、諒を見習え」
「……あ、あぁ、そうだな! 夏南、その……可愛いよ」
「ふふ、ありがと!」
どこか颯斗の様子が変な気がするけど……気のせいか。きっと夏南の可愛さにどぎまぎしているんだろう。
「さっ、ダブルデート楽しんじゃおう!」
「「「おー!」」」
私の元気な掛け声で、私達のテンションは最高峰に高まるのだった。
◆◇◆
ぐるるる〜。
「氷華、腹鳴ってるぞ〜」
「うわ、恥ずかし……」
私の目の前にはたくさんのお魚さんがいる。
お腹が減って当然だ。
……まぁ、見物用の魚を見てお腹が空く私はどうかしてるけど。
現在私達は、水族館の中でたくさんの魚を見物している。
夏南は夢中になって水槽を見ているし、諒も私が今見ている魚達を見つめてる。颯斗は夏南の肩に手を置いて、上から覗き込むようにして水槽を見ていた。
「ちょっと颯斗、重いんですけど〜。……わ、サメ!」
「夏南に似てるな」
「どこが??」
幸せな空間だなあ、これぞダブルデート。
「氷華」
「ん? ……て、えっ!?」
諒が急接近してきたと思ったら、私の付けているネックレスを手のひらに乗せ、そのままそっと宝石部分にキスをした。
もう私の心臓はどこ行った状態である。
「ほら、氷華も」
な、何を? ……え、もしかしてそういう!?
私は恐る恐る自分のネックレスを持ち上げ、諒がキスをした部分に口付けした。
ここここ、これって、か、間接……
「……?? えっ、はっ?//」
そっちから言ってきたのに、何故か諒が顔を赤くしている。
「……え? こうじゃなかった?」
「いや、ちが……俺のネックレスのほうにその、してもらいたかったんだけど……ひょ、氷華⋯⋯」
「……えっ!?」
うっうそ、間接キスじゃなかったの!?
うわ、もう、やったわ、はっず……
てか照れてる諒もかっこよ……もう、なんなの……
「や、でも、それも全然アリ、その、ありがとう(?)」
「こちらこそありがとう……(?)」
お互い照れまくって変な会話をしていると、どうやら夏南と颯斗もさっき良い感じだったらしく、お互いに顔を赤くしていた。
み、見逃した……
その後皆で変な空気になりながら館内を見て回り、館内レストランでお昼を食べることになった。
「あっ、そーだ氷華ツーショ撮ろ! 寄って寄って」
「おー、流石夏南、めっちゃ盛れてんじゃん!」
テーブル席で私と夏南が写真を撮っていると、諒と颯斗もスマホを鞄から取り出した。
「なーつな、俺とも撮ろうぜ」
「ん、いいよ! ……ね、ハート作ろ」
2人が照れながら片方ずつハートを作り、ツーショを撮っている。
うんうん、お熱いねぇ。
「氷華、俺らも撮ろう」
私達は指ハートをしてツーショを撮った。
「氷華写真写り良いな、これ送っとくわ」
諒に送られた写真を見てニヤニヤするのを堪えきれないでいると、私達のテーブルに料理が運ばれてきた。
「氷華、俺の1口食べるか?」
「いいの? うん、食べる!」
「じゃ、ほら……あーん」
「!?!?」
なんと諒が私に向けてスプーンを差し出してきた。
「イタダキマス……」
身を乗り出して、諒の「あーん」を噛み締める。
な、なんかもう、味分かんないわ……
「俺、氷華の恋人なれて幸せだな」
「う、うん、私も幸せ」
「あっ、また2人でいちゃついんてんじゃん!」
「だから俺達もすればいいだろ、ほれ夏南、あーん」
「はぁ!? そそそれ古いんだからなー! ……た、食べるけど」
あー、これ幸せすぎ。
夏南と颯斗も楽しそうだ。
このままずっと、これが続けばいいな。
この時の私は、そう呑気に考えていたのだった。
◆◇◆
「ぬわっ! そこカウンター!? マジかぁ」
「はい、またうちの勝ちー! 3人ともまだまだだねぇ」
「強すぎ……」
今しずく達は、しずくの部屋で格闘ゲームをして遊んでいた。
ちなみに今のところ水萌ちゃんが全勝している。何でそんな強いの……?
「あー、俺お腹すいたぁ」
「それなー」
時計を見ると、今は14時半。
しずくもお腹ペコペコになっているところだった。
「どっかで食べる約束だったよね。どこがいい?」
スマホのマップアプリを開く。
「俺は別にどこでも」
「俺も魚以外だったら何でも!」
前も聞いたけど、どうやら宙は魚全般が苦手らしい。
でもお姉ちゃんの魚料理を食べさせたら、きっとすぐ魚嫌いなんて克服できちゃうだろうな。
「あっ、じゃあさ! うち、ずっと行きたかったとこがあるの! お手頃で美味しいらしいんだよね」
「え、どこそこ行ってみたい!」
さっすが水萌ちゃん。そういうの詳しいなぁ。
しずくと違って……
「よし決まり! ……じゃ、その前に」
すると水萌ちゃんが、しずくの腕を掴んできた。
「宙ぁ、先つののんと行ってて、宙はあの店知ってるっしょ?」
「……っ! おーけー!」
「え、なんで? 立花達は?」
「うちらはお手洗いに行くよ。さ、行った行った」
「ほら蓮月、行くぞー」
「あ、ちょっ!」
宙が蓮月の腕を引いて、家から出てってしまった。
「なんだ水萌ちゃん、トイレ行きたかったの? 今案内するよ。でも別に2人を先に行かせる必要無かったんじゃない?」
意外と水萌ちゃんってそういう所デリケートなんだぁ。意外な1面。
だと、思ったんだけど……
「ふっ ふっ ふっー。しずっち、実はねぇ……」
◆◇◆
「なぁ宙、立花達来るの遅くないか? たかがお手洗いだろ?」
「い、いやぁ蓮月分かってないな、女子のトイレ事情を……そんなんじゃモテないぞ!」
「別にいいよ……てかそれにしても遅くない?」
今俺は宙と、ある個室中華料理店で向かい合って座布団に座っていた。
立花の事だからきっと甘いスイーツみたいなのしかない店をチョイスするのかと思ったけど、意外とこういう店が好きなんだ……ちょっと親近感。
なんだけど、この店をチョイスした本人の立花と、桐生が全然来ない。
まさか何か事件に巻き込まれてないだろうな……
と、というか……あぁ、もう、早く来てくれ!
「てかここ初めて来たけどいい雰囲気だな!」
「……」
「蓮月?」
「え? ああ、そうだな」
いや何キョドってんだよ俺……焦るな、平常心、平常心……
「あー、てか宙、腹減ってんなら先頼んでいいけど?」
「えっ? あ、いやぁ、俺はあの2人が来るまで待つわ」
「……そう」
それにしても宙の様子がおかしい。……なんか隠してるのか?
「お、いたいた、お待たせ〜」
「イマキタヨ」
宙を疑ってると、ようやく立花と桐生が個室に入って来た。
……あー、よかった。
胸を撫で下ろしている俺の隣に桐生、宙の隣に立花が腰を下ろした。
というか、桐生の様子もおかしい気がする。
……いや、こいつは元々おかしかったか。
「じゃ、皆何にするー? うちはチャーハンにしてみよっかな」
「俺は味噌ラーメンにしよ!」
メニューが2つあったから、立花は宙と、俺は桐生と共有しながらメニューを眺める。
「俺は……うわ迷うな、先桐生決めちゃっていいよ、何にする?」
「じゃあ……この、ギョウシにしてみようかな」
桐生が素っ頓狂なことを言い出して、俺は眉間に皺を寄せた。
「……ギョウシ? ギョウザじゃなくて?」
「エッ? ……あっ、ま、間違えちゃった、そう、ぎょーざね!」
いや、餃子を読めない日本人って存在するの?
そういえば、桐生って国語が苦手だった気がする。この前の漢字小テストなんてボロボロだったし。
「て、てか、蓮月は何にする?」
「んー⋯⋯回鍋肉……といきたいとこだけど高いしな」
俺が何気なくそう呟いた瞬間、何故か3人の視線がぐっと俺に集まった。……俺、何か変なこと言った?
「い、いやいやつののん、そこは回鍋肉いこうよ」
「そ、そうだよもったいないって! 皆でここ来れるの一度きりかもよ!?」
「ほいこーろ? そんなの書いてある? ……じゃなくて、うん、しずくもそれは絶対食べといた方が良いと思うよ、ねっ?」
「……え? あ、じゃあ、うん、食べる」
俺は3人の圧に負け、結局回鍋肉を注文した。
なんでこの人達俺に回鍋肉食べさせようとしてくるんだ? 怖……
「あ、ちょっと俺お手洗行ってくる」
「……行ってら〜」
宙が席を外すと、何故か立花と桐生は時々2人で目を合わせ、そわそわし始めた。さっきから3人の挙動を不思議に思っていた俺は、痺れを切らして身を乗り出した。
「な、なぁ、さっきから様子がおかし――」
そう言いかけた時だった。
「テッテレーー!!」
宙が勢いよく入ってきたと思うと、俺の頭に何かが降ってきた。
これ……紙吹雪?
「「「サプラーイズ!!」」」
「……え? は? 何? マジで何?」
「って宙、テッテレーだとドッキリみたいじゃん!」
「いいじゃん、サプライズもドッキリのうちだろ?」
さ、サプライズ……? この紙吹雪って、そういう?
「ほら、昨日の5月12日は蓮月の誕生日! ……って、しずくもさっき水萌ちゃんに聞いてさ。ほら、ここ蓮月が好きな中華料理の店じゃん? 誕生日パーティだよ!」
何が起こってるのか全く分かってない俺に、桐生が俺の頭に付いた紙吹雪を払い落としながら説明してくる。
「……俺、誕生日言ったっけ」
「いや、俺ら全員蓮月の誕生日知らなかったから、美月さんに教えてもらったんだ!」
美月は大学生の俺の姉だ。まさか、そこづてに広まってるとは……
「あってか言ってないじゃんあれ!」
「そうだった、じゃあ、せーのっ」
「「「蓮月、誕生日おめでとうー!!」」」
「……」
「ってなわけで、ここでつののんが頼んだやつはうちらの奢りよ! じゃんじゃん食べな!」
「あ、あと俺らプレゼント持ってきたよ!」
「えっ? 何それしずく聞いてないんだけど」
「……えっ嘘!? ご、ごめん伝え忘れてた! しずっちはまあ、後で渡しなよ」
「そもそも蓮月の誕生日知らされたのが今日だったし…………って、えっ!? 蓮月、な、泣いてる?」
「……るせぇ」
今、こっち見んなよ。
そう言おうとしたのに、喉からは嗚咽しか出てこない。
「えっあっ!? つののんそんな嬉しかったん!?」
「とととりあえず、は、ハンカチ」
「あっこの紙吹雪ならある」
「しずっちそれは違くない!?」
不測の事態だったのか、3人が慌て出した。
それがちょっと面白くて、俺は泣きながら笑う。
「おーよしよし、いい子いい子」
「子供じゃ、ねえよ」
宙が頭を撫でてきたけど、俺にはその手をかわす余裕なんて今は無い。
嬉しかった。この俺のために、わざわざ誕生日を調べたり、店を決めたりして計画を立てていてくれたのが。
そして何より、俺の誕生日を祝おうと思ってくれたことが嬉しかった。
「……落ち着いた?」
ようやく涙が引っ込んでくると、立花が心配そうに覗き込んできた。
「……ん。大丈夫、ごめん。……その、ありがと」
3人は俺の言葉を聞くと安心したように笑い、誕生日パーティは再開された。
料理が運ばれてくると皆俺に自分の料理を分けてきて、俺の腹ははちきれそうになった。
まぁ人の金で食う回鍋肉は最高、なんて最低なこと言ったらちょっと肉奪われたけど。
その後は「蓮月に感謝を伝える会」だとか宙が言い出して、謎にかしこまって1人ずつ俺に感謝を述べてきたせいでそこでもちょっと泣いた。
最後に立花からデカい猫のぬいぐるみ(俺は猫好き)と、宙からは手作りの星座早見盤を誕生日プレゼントとして貰った。
桐生は今日俺の誕生日を知ったらしいから、桐生からの誕生日プレゼントは一旦お預けとなった。
そして立花が言った通り、会計時に本当に奢ってくれ、俺達は大満足で店を出た。
「てか立花、本当に奢りで大丈夫だったの? 俺金出すよ」
デカぬいぐるみを抱えながら桐生の家に戻り、金を出すつもりで俺は立花に訊いた。
「あー、最初はつののん抜きの3人で割り勘で出そうって話だったんだけど、しずっちがうちらの分まで全部奢ってくれたよ」
「……は!?」
「ん? ……あぁほら、しずく蓮月の誕生日プレゼント用意してなかったし、できることそれくらいかなって。全然気にしないで」
桐生が自販機のジュースを奢ったみたいなノリでさらっと言った。
……そういや、こいつボンボンだったわ。
なら、ありがたく奢られとくか。
◆◇◆
「んーっ! 美味しい!」
「ひょ、氷華……そのパン何個目?」
「ん? 10個目だけど」
「「「……」」」
日が沈んだ夕方に水族館を出た後、私達は待ち望んでいたカフェにいた。
このカフェはビュッフェ形式で、並んであるパンを好きに取れるようになっていて、私はテンション爆上がりでパンを食べまくっている。
けど、他の3人は3個しかパンを食べていない。ちょっともったいない気がする……
「……俺はいっぱい食べる氷華好きだぞ」
「ふふ、ありがとう。諒ももっと食べたら?」
「俺らはもういいや……」
結局3人がこれ以上食べなかったから12個で切り上げ、私達(主に私)は大満足で店を出た。
夏南が宙くんを迎えに行ってから帰るらしく、諒と颯斗も私の家に寄ることになっている。
なんだかんだ弟思いなんだよね。
それを本人に言ったら怒られそうだけど。
「いやあ……沢山食べる子だとは思ってたけど、まさかここまでとは思わなかったよ」
帰路の途中、夏南が苦笑いしながら言ってきた。
「まぁ私食欲旺盛ですから。てかほんと美味しかった、また食べたいなぁ」
「食欲旺盛にも程があるだろ」
雑談しながら歩き、夕焼けの赤が藍に染まる頃に家に到着した。
「静紅ー、ただいまー! 良い子にしてたー?」
玄関を開けて呼びかけると、静紅達4人がパタパタと階段から駆け下りてくる。
「おかえりお姉ちゃん。うん、しずく達良い子にしてた」
……なんだか、この会話静紅が小学生の時から変わってないような気が。ほんとに静紅中学生?
「静紅ちゃん、宙が迷惑かけなかった? 大丈夫?」
「あ? 俺なんもしてねーし! な、蓮月?」
「まぁそうなんじゃない」
ん? なんか蓮月くんの目元が赤いような。
まさか、静紅が蓮月くんになんかして泣かせたんじゃ無いだろうな!?
そんな心配をしていると、水萌ちゃんが嬉しそうに駆け寄って来た。
「ねぇひょーちゃん達聞いて! うちら今日つののんの誕生日パーティしたんだ!」
つ、つののん? ……あ、津野だから、蓮月くんね。
「あっそっか! 蓮月くんもう誕生日か、昨日だもんね、おめでとー!」
「へぇ、5月が誕生月なんだね。蓮月くん誕生日おめでとう!」
夏南が手をぱちぱち叩いて蓮月くんを祝い、続けて私も祝う。
「何で夏南、その……蓮月くんの誕生日知ってんの?」
すると、颯斗が何故か小声で夏南に尋ねた。
「え? だって蓮月くんは宙の友達で1年前くらいから仲良くさせて貰ってるから。ね、蓮月くん」
「おい、だから俺と蓮月は友達なんかじゃなくて親友だっつってんだろ! 蓮月も何か言ったれ」
「はあ……ソウダネナカヨシダモンネー」
「うわ棒読み! 本気で思ってないやつじゃんそれ!」
宙くんが蓮月くんにもたれかかってだる絡みしている。うんうん、仲良しで微笑ましいな。
「ちなみにこんなツンデレなつののんだけど、誕生日パーティで感極まって泣いちゃったんだもんね〜」
「はっ!? 立花それ言うなって」
あ、だから目元赤いんだ。そっかぁ、意外と涙脆いんだね、蓮月くん。微笑ましい。
「⋯⋯⋯⋯おめでとう、蓮月くん」
諒が、少し微笑みながら、小さく、でもはっきりと蓮月くんにそう伝えた。
「⋯⋯え、あ⋯⋯ありがとう、ございます」
諒に祝われるとは思ってなかったのか、蓮月くんが驚いた顔をした。
そして蓮月くんだけではなく、何故か颯斗が目を見開いて諒を見た。
さっきからどうしたんだろう。
私が不思議に思ってると、ふいに夏南が耳元で、
「今日は私達の、『初めてダブルデートした記念日』だね!」
と、囁いてきた。
その言葉に、私は笑顔になる。
きっと、静紅達にとっても、今日は記念日だ。
私達は、今日という日を忘れることはないだろう。
読んでくださりありがとうございます。最近初めてブックマークを付けてくだった方がいて本当に嬉しい限りです。これからもこの作品を楽しんで読んで貰えれば幸いです。
いよいよ始まったダブルデートに、心を踊らせる氷華達。水族館では存分にイチャイチャし、カフェでもパンを食べまくって(主に氷華が)、4人はダブルデートを満喫しきった。
一方その頃静紅達は、中華料理屋で蓮月のサプライズ誕生日パーティーを開き、誕生日プレゼントを渡したり、料理を楽しく食べたりと、主に蓮月に感謝を伝えることを中心に存分に楽しんだ。
夏南が今日という日を『初めてダブルデートした記念日』と命名し、氷華は静紅達にとってもこの日が記念日であることを嬉しく思うのだった。
次回 「みいなとしずっち」




