第2話「消えたページ、見つけた居場所」
翌日の図書室も、ことねにとっては小さな避難所だった。
けれど教室に戻った瞬間、違和感はさらに強まった。
今日も、クラスメイトたちは昨日の話題で盛り上がっている。笑い声が教室に弾ける。ことねはそっと手を伸ばしたが、誰の目も自分を捉えていなかった。まるで透明になったみたいだ。
「……昨日、私ここにいたのに」
ため息をつきながら図書室へ戻ると、悠斗がすでに本を棚に並べていた。
ことねを見るなり、悠斗は微笑んだ。
「見つけたよ、君の名前が残ってるページ」
「え……?」
悠斗は古い小説を開き、ページの端を指差す。そこには確かに、鉛筆で書かれた「白井ことね」の文字があった。
「本のページに名前を書いておくと、忘れられない。僕だけじゃなく、ページの記憶が守ってくれるんだ」
ことねはその文字をじっと見つめた。自分の存在がこんな形で残されているなんて、不思議で、少し安心できた。
「でも……なんで私だけ、消えたりするの?」
「それは――君が、自分の居場所や名前を押し殺してきたからかもしれない」
悠斗の言葉は鋭く、ことねの胸に突き刺さった。居場所を作れなかった自分、目立たないようにしてきた自分。確かに、そこに原因があるのかもしれない。
そのとき、図書室の扉が開き、美術部の天才・桐谷凛が入ってきた。
「おや、君たちまた図書室にいるの? ここは私のスケッチの場でもあるんだけど」
凛は一枚のスケッチブックをことねに見せる。そこには、ことねが黙々と本を整理する姿が描かれていた。
「私……こんな風に見られてたんだ」
自分では気づかない、自分らしさの断片。それが絵として残されていることで、ことねの心は少しずつほぐれていく。
さらに、演劇部の明るいムードメーカー・佐伯は、にこやかに手を振った。
「ことね、今日の放課後、ちょっと相談したいことがあるんだ!」
図書室に集まる仲間たち。みんなに見守られながら、ことねはふと気づいた。
忘れられることに怯えるだけじゃなく、居場所を作れば、名前はページの外でも残せるのだと。
放課後、ことねは悠斗と並んで図書室の机に向かい、黙って鉛筆を走らせた。名前を書き、ページをめくり、少しずつ自分の存在を確かめる――そんな時間が心地よかった。
――消えそうでも、ここに私はいる。
――忘れられても、覚えていてくれる人がいる。
ことねは初めて、図書室の片隅で自分の居場所を見つけた気がした。




