表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

訓練の場

同じ夜、エルド・ラインの訓練場に、カイはいた。

遅い時間だった。他に誰もいなかった。

ナイフを逆手に持ち直して、的に投げる。刺さる。抜く。また投げる。

それだけを繰り返していた。

考えないためではなかった。考えながらやっていた。手を動かしていると、頭が整理される。エルド・ラインで覚えた、古い習慣だった。

転移の術式が使えなくなった、とライラから聞いたのは昨日だった。

層の振動が変わったせいで、接続が不安定になっている。今週中には完全に切れるかもしれない、とアルヴィ側から連絡が来たらしい。

(今週中)

ナイフを投げた。的の中心に刺さった。

リラは今、何をしているだろう、と思った。思ってから、想像するのをやめた。想像すると、次が動きにくくなる。エルド・ラインで覚えた、もう一つの古い習慣だった。

でも——今夜は、やめられなかった。

(あいつは、泣いているか)

泣いていないかもしれない、とも思った。リラは強い。強がるのではなく、根っこが強い。泣いても、前を向く。

ただ——

泣いていたとしたら。

一人で泣いていたとしたら。

カイはナイフを的から抜いた。

的を見た。

何かを言えばよかった、という考えが来た。次に会った時に。いや——次があるかどうかが、もう分からない。

(次がないなら)

カイは訓練場を出た。

部屋に戻った。机の上に、紙があった。

ペンを取った。

何かを書こうとして——止まった。

『お前が感じるなら』

それだけ書いた。

その先が、出てこなかった。

出てこなかったが、紙は捨てなかった。

机の上に置いたまま、カイは窓の外を見た。

エルド・ラインの星は、今夜も煤けていた。でもその中に一つだけ、いつもより白い星があった。

あの世界の星が、まだ混じっているのかもしれない、とカイは思った。

根拠はなかった。

それでも——そう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ