収束
艦隊に戻ると、隕石群の速度は落ちていた。惑星から来ていた力が、弱まった結果だった。軌道の読めない一つだけが残り、ヴェルナの隊の十二機が押した。二度押して、居住区域から外れた。
ブリッジが、少しだけ緩んだ。シオンはハーブの茶を一口飲んだ。今度は、温かかった。エリオが淹れていた。
水晶空間の表面に、細い光の線が走った。一本、また一本と増え、網目のように広がり切った瞬間——表面が、消えた。爆発でも崩壊でもなく、ただ、なくなった。
「シオン提督。壁が、なくなりました」とナイラの声が来た。
降下艇が王都の広場に降りると、ナイラとヴェルナが待っていた。
「よくぞ戻りました」
「ご不便をおかけしました」
「不便はありませんでした。川の水も来ていたし、鳥も飛んでいた」
ナイラは少し口元を緩めた。ヴェルナがカイを見た。「怪我は」「ない」「そうか」。それだけだった。でも、十分だった。
空の色がいつもの色に戻っていた。橙の混じった、夕方の色だった。人々が、壁のあった場所を恐る恐る、でも確かに通り抜けていた。リラはひとつ息を吐いた。
* * *
その夜、王都の外れの食堂に、全員が集まった。シオン、エリオ、アルヴィ、ブラート、ルテ、グラン、カイ、リラ、ティア、ナイラ、ヴェルナ。
「しばらくは、それぞれの持ち場で動きます」とシオンが言った。「私は艦隊で、あの惑星の変化を記録しに通う。歴史学者の習慣です。艦隊の停泊地は、今のまま。——ここの空は、記録のしがいがあるので」
アルヴィは、歪みの残滓を追って近くを旅する、と言った。「時々、戻ります。ブラートも来ますか」「来る」。即答だった。ルテとグランがついていく。
カイが言った。「俺は一度、エルド・ラインに戻る。ナイラ女王の政務と、ヴェルナたちの部隊のことがある。——術式があるから、また来る」
「いつ」とティアが聞いた。
「用が済んだら」
「私は残る。ここの方が好きだから」
「好きにしろ」
ティアは、ふと気づいた。耳の奥が、痛くなかった。日ごとに増していたあの痛みが、世界のどこかが閉じたのと同じ頃に、消えていた。
食堂に、いくつもの声が重なっていた。リラは膝の上のカバンに触れた。緑の本が、温かかった。急いていなかった。終わった、という温度だった。
——終わった、とその時は誰もが思っていた。歪みは鎮まり、表面はふさがった。だが、重なった世界がいつまで重なったままでいられるのかを、この時、まだ誰も考えていなかった。
* * *
夜遅く、カイは城壁の外に出ていた。
草の上に座っていた。星が出ていた。
ポケットから紙を出した。リラに渡した紙ではなかった。別の紙だった。
ペンを持っていた。書いた。うまくいかなかった。最初の一行が、何度も違う形になった。書き直した。また書き直した。三十分ほどかかった。最後に、一行だけ残った。
読み返した。
(これでいい)
ポケットに入れた。立ち上がった。星を見た。エルド・ラインの星とは並び方が違う。でも同じ星海だ、とカイは思った。どこにいても、星海は星海だった。
ふと、眉が動いた。
数えたわけではない。ただ、夜空が——昨日より、わずかにまばらになった気がした。確かにあったはずの小さな星が、一つ、見当たらない。
気のせいだろう、と思うことにした。
明日、一度帰る。帰る場所がある。でも——
カイはポケットに手を入れた。紙に触れた。
(ここにも、来る理由がある)
城の方向へ、歩き始めた。




