第9話 三人で見る未来
「三人で盛り立てよう!」
巴の言葉が、静かな道場に響いた。
蘭丸は少し驚いたように目を瞬かせ、それから小さく笑った。
「ああ。そうだな」
その返事を聞いた巴は、満足そうに頷く。
「よし、決まり!」
隣にいた葵も、嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ……楽しみですね」
「何が?」
蘭丸が尋ねる。
「この道場が、これからどうなっていくのかです」
「そうだな」
蘭丸は道場を見渡した。
今はまだ、古びた畳と年季の入った柱ばかり。
けれど――
蘭丸の脳裏には、まだ見ぬ未来の光景が浮かび始めていた。
新しく張り替えられた畳。
磨き上げられた床。
壁には『己道流古武術道場』の立派な看板。
そして――
「……たくさんの門下生か」
蘭丸が呟く。
広い道場いっぱいに、若い門下生たちが並んでいる。
「お願いします!」
威勢のいい声が響く。
その先頭に立っているのは――
蘭丸。
その隣には、巴。
そして葵。
三人が揃って薙刀を手にしている。
「腰が高いぞ!」
蘭丸が弟子たちに声を飛ばす。
「足を止めるな!」
巴が厳しく指導する。
「焦らなくても大丈夫ですよ。相手をよく見てくださいね」
葵が優しく教える。
厳しい蘭丸。
熱血漢の巴。
穏やかな葵。
三人それぞれの個性が、道場を彩っている。
弟子たちは汗を流しながら稽古に励み、道場には活気のある声が響いている。
そんな光景を――
巴はぼんやりと思い描いていた。
「…………」
そして、ふと隣を見る。
そこには蘭丸がいる。
幼い頃から、ずっと追いかけてきた兄弟子。
今では、自分たちの道場の主だが。
技量上の称号は師範代でもある。
そして――
いつかは。
「……蘭丸兄ちゃん」
「ん?」
「いや……何でもない」
巴は慌てて顔を逸らした。
頬が、ほんのり赤い。
葵もまた、同じ未来を思い描いていた。
たくさんの門下生たち。
活気に満ちた道場。
その中央に立つ蘭丸。
そして――
自分と巴。
「……素敵ですね」
葵が小さく呟いた。
「何が?」
またしても蘭丸が尋ねる。
「秘密です」
葵は、いつものように柔らかく微笑んだ。
巴も、葵も。
心の中に、同じ願いを抱いている。
いつか――
蘭丸と結婚して。
三人で、この道場を支えていきたい。
朝から晩まで、三人で道場を切り盛りして。
稽古では厳しく門下生たちを鍛え。
稽古が終われば、昔の祖父のように皆で食卓を囲む。
そんな日々を――
いつまでも続けたい。
「……ふふ」
巴の口元が緩む。
「……ふふっ」
葵も微笑む。
「二人とも、何笑ってるんだ?」
蘭丸は不思議そうに首を傾げた。
「「何でもない」」
二人の声が、見事に重なった。
「……?」
蘭丸はますます首を傾げる。
そんな鈍感な兄弟子を見て、二人はまた笑った。
――まだ、夢のような未来。
けれど。
いつの日か、本当にそんな日が来るかもしれない。
そのときも三人は、この道場にいる。
祖父から受け継いだ薙刀を手に。
たくさんの門下生たちを前にして。
笑いながら、厳しく、そして優しく稽古をつけている。
そんな未来を想像しながら――
巴と葵は、そっと微笑んでいた。




