第7話 双子の薙刀姉妹
「……道場を、どう再建するかだ」
蘭丸は、壁に掛けられた薙刀を見つめた。
祖父から受け継いだ薙刀術。
代々、この土地で受け継がれてきた薙刀術。
自分の代で途絶えさせるつもりはない。
「門下生を増やしたい」
蘭丸の脳裏に、一組の少女たちの顔が浮かんだ。
「……あいつらにも相談してみるか」
――千村巴。
――千村葵。
蘭丸と同じく、幼い頃からこの道場で薙刀を学んできた双子の姉妹だ。
ただし、蘭丸と二人は少し特殊な関係だった。
祖父の道場には、いわゆる「外弟子」として通っていたのである。
家は少し離れている。
しかし幼い頃から、雨の日も雪の日も、二人は道場へ通ってきた。
蘭丸が兄弟子。
二人が妹弟子。
三人は、幼い頃から何度も薙刀を交え――
そして何度も競い合った。
「蘭丸兄ちゃんには負けない!」
「今日こそ一本取るからね!」
幼い頃の二人の声が、蘭丸の記憶に蘇る。
もっとも――
「……あいつら、今でも俺に勝とうとしてくるんだよな」
祖父の死後も二人はときどき稽古に来ている。
蘭丸は苦笑した。
現在、巴と葵は高校一年生。
しかも女子高に通っている。
二人とも学校では薙刀部に所属しており――
三年生が引退した後とはいえ、一年生ながら、主将と副主将。
全国大会でも上位に食い込むほどの実力者だ。
幼い頃から積み重ねてきた稽古の量は、並の選手とは比較にならない。
そして何より――
姉妹でありながら、性格が正反対だった。
姉の巴は――
「蘭丸兄ちゃん! 今日こそ勝負しろ!」
男勝り。
勝気で負けず嫌い。
竹を割ったような性格で、思ったことはすぐ口にする。
薙刀を握れば、その気迫は男子顔負け。
対する妹の葵は――
「蘭丸兄さん、お疲れさまです」
おっとり。
穏やかで物腰が柔らかく、いつもニコニコしている。
同じ顔をした双子なのに、性格だけはまるで違う。
だが――
二人には、誰にも言っていない共通点が一つあった。
「……蘭丸兄ちゃん」
幼い頃から、二人がそう呼んできた少年。
その背中を、ずっと追いかけてきた。
そして今では――
ただの兄弟子としてではなく。
一人の男性として、蘭丸を意識している。
巴は誰にも言わない。
葵も誰にも言わない。
それどころか、本人たちも互いにその話をほとんどしない。
だが心の奥底では――
いつか蘭丸の妻になりたい。
そして――
三人で、この道場を盛り立てたい。
そんな密かな想いを、それぞれが胸に秘めていた。
もっとも、当の蘭丸は――
「……あいつら、元気かな」
完全に兄貴分としてしか見ていない。
「まあ、連絡してみるか」
スマホを手に取る。
メッセージアプリを開く。
すると、ほぼ同時に二件のメッセージが届いた。
『蘭丸兄ちゃん、明日道場行くから!』
巴。
そして――
『蘭丸兄さん、明日お稽古に行ってもいいですか?』
葵。
「……相変わらずだな」
蘭丸は笑った。
まるで、こちらの考えを読んでいたかのようなタイミングだった。
だが――
蘭丸は知らない。
祖父が残した道場を盛り立てるという蘭丸の野望が、
この二人の存在によって――
想像以上に大きなものへと変わっていくことを。




