第6話 五千万円と道場再建の夢
祖父が本当にこの財宝の存在を知っていたのかは分からない。
なぜここに隠されていたのかも分からない。
そもそも、この甲州金が本当に蘭丸の所有物になるのかどうかすら、まだ分からない。
だが、そんな細かいことを考える余裕は今の蘭丸にはなかった。
ただ――
嬉しかった。
ようやく、貧乏から抜け出せる。
高校卒業までの生活を心配する必要がなくなる。
そして何より――
「……道場を」
蘭丸は、ふと呟いた。
喜びに満ちていた顔が、少しずつ真剣なものへ変わっていく。
「道場を……どうする?」
これまでなら、真っ先に考えたのは生活費だった。
しかし今は違う。
金がある。
少なくとも、すぐに生活が破綻することはない。
ならば――
「……立て直せる」
祖父が残した道場。
古く、ガタが来ている。
月謝を払ってくれる門下生だっていない。
世間から見れば、時代遅れの古武術道場。
だが――
「俺が継いだんだ」
蘭丸は、壁に立てかけられた古い薙刀を見つめた。
幼い頃から、祖父に教えられてきた。
何度も叱られた。
何度も投げ飛ばされた。
何度も「お前はまだまだだ」と言われた。
それでも――
あの道場は、蘭丸にとって祖父そのものだった。
「……せっかく金があるんだ」
蘭丸の口元に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。
「潰すなんてもったいないよな」
その目に、これまでにはなかった光が宿った。
「もっと大きくできる」
道場を修繕する。
畳を新しくする。
設備を整える。
看板も新しくする。
そして――
「門下生を増やす」
普段は誰もいない道場。
だが、それを変える。
「この薙刀術を、俺の代で終わらせるわけにはいかない」
蘭丸は、強く拳を握った。
つい先ほどまで、
「高校卒業まで生きていければいい」
と思っていた少年が――
初めて、その先の未来を考え始めていた。
「よし……!」
蘭丸は木箱を見下ろす。
「まずは、これを道場まで運ぶ!」
こうして――
甲州金を何重にも包み、リュックや背負い袋に分けて詰め込むという、非常に高校生らしからぬ作業が始まった。
もちろん、重い。
「……重っ!」
一箱を持ち上げただけで、腰が悲鳴を上げる。
「五千万って……こんなに重いのかよ!」
金銭的な価値と物理的な重量が比例することを、蘭丸はこの日初めて知った。
それでも――
彼の足取りは軽かった。
いや。
実際には重たい金貨を背負っているので、足取りそのものは決して軽くない。
だが、心は軽かった。
最後に掛け軸も丁寧に包んで持ち帰った
夕方までに何度も往復した結果。
どうにか甲州金を道場へ運び込んだ蘭丸は、道場の畳に座り込んだ。
「……疲れた」
目の前には、積み上げられた木箱。
中には、約千枚もの甲州金。
ざっと計算すれば――
五千万円。
高校生一人が手にするには、あまりにも大きすぎる金額だった。
「これで……」
蘭丸は、古びた道場を見渡す。
祖父が残した道場。
自分が受け継いだ道場。
そして――
これから自分が守っていく道場。
「……やるか」
蘭丸は立ち上がった。
「己道流古武術道場――」
拳を握る。
「ここから、もう一度始めよう」
その日。
平蘭丸は、極貧生活から脱出する希望を手にした。
しかし同時に――
祖父から受け継いだ古武術道場を、自分の手で繁栄させる。
そんな新しい野望を抱くことになった。




