第2話 祖父の遺した埋蔵金の地図
道場の裏手にある古びた書物部屋で、蘭丸は大きく伸びをした。
祖父が亡くなって半年。
これまで生活のことで精一杯だった蘭丸は、手つかずになっていた祖父の遺品整理を、ようやく始めたのである。
とはいえ――
「じいちゃん、よくこんなに集めたな……」
部屋を埋め尽くすほどの書物。
古文書。
武術書。
系図。
何に使うのか分からない古い道具。
そして、読めない。
とにかく読めない。
「……達筆すぎるだろ」
蘭丸は一冊の古文書を手に取り、数秒眺めたあと、そっと元の場所へ戻した。
高校生に読める代物ではない。
ましてや、現代文のテストですら苦戦する蘭丸に、江戸時代の崩し字など読めるはずもなかった。
「読めない古文書も値が付くかもしれない」
不謹慎なことを考えながら、棚の奥へ手を伸ばす。
すると――
「ん?」
指先に何かが触れた。
引っ張り出してみる。
それは、一本の古びた巻物だった。
表面にはびっしりと埃が積もっている。
「うわ……」
蘭丸は思わず顔をしかめた。
軽く息を吹きかける。
「ぶっ!」
埃が舞い上がり、蘭丸は盛大にむせた。
「げほっ、げほっ……!」
目を潤ませながら、巻物を広げる。
すると――
「……なんだ、これ?」
そこには、見慣れない図が描かれていた。
山。
川。
いくつかの道。
そして、その中央付近に――
赤い印。
さらに、その周囲には古い文字で何かが記されている。
「地図……?」
蘭丸は首を傾げた。
現代の地図とは明らかに違う。
しかし、山や川と思われる線が描かれている以上、何らかの場所を示した地図であることは間違いなさそうだった。
そして何より――
赤い印が妙に気になる。
「ここ……何かあるんじゃないか?」
蘭丸の目が輝いた。
数秒前まで興味を失っていた少年とは思えない食いつきである。
「待てよ……」
蘭丸は巻物をじっくり眺める。
「じいちゃんは、これを知っていたのか?」
山奥。
古い地図。
謎の赤い印。
祖父が残した大量の古文書。
そして、自分には何も説明せずに亡くなった祖父。
「……まさか」
蘭丸の脳裏に、一つの言葉が浮かんだ。
埋蔵金。
「いやいや……まさかな」
否定しながらも、口元はニヤついている。
「でも、もし本当にそうだったら?」
祖父は古武術の主だった。
その先祖は、さらに昔からこの土地に住んでいた。
平家の家系図もある。
古文書も山ほどある。
そして、この謎の地図。
「……ある」
蘭丸は確信した。
「絶対にある!」
根拠はない。
証拠もない。
ただの妄想である。
しかし――
蘭丸の想像は、そこから一気に膨らんでいった。
山奥に眠る莫大な財宝。
黄金の小判。
宝石。
もしかしたら、天下人から隠された秘宝なんてものまで――。
「これを見つければ……」
蘭丸は震える手で巻物を握りしめた。
「道場を建て直せる!」
門下生を増やすための改修工事。
新しい畳。
屋根の修理。
さらには――
「……冷暖房も入れられる。」
蘭丸にとって、これが一番重要だった。
「じいちゃん……!」
巻物を胸に抱く。
「俺、見つけるよ!」
もちろん。
祖父がそんな意図で巻物を残したという保証は、どこにもない。
そもそも、それが本当に地図なのかすら分からない。
だが――
こうして蘭丸の中では、
謎の巻物=埋蔵金の地図
という、とんでもない方程式が完成してしまった。




